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2023年9月23日土曜日

秋の空気に変わった本日は,午後から金沢ふるさと偉人館開館30周年記念で行われた講演会「木村栄でつなぐ過去と未来の天文学」。本間希樹先生と渡部潤一先生による2つの講演を聴いて,サイン入り著作も購入。さらにはグッズも...

本日の午後は,とてもさわやかな気候になったので,金沢歌劇座の大集会室で行われた金沢ふるさと偉人館開館30周年記念講演会「木村栄でつなぐ過去と未来の天文学」に参加してきました。実は小学生の頃から結構天文学好きで,「発明」「発見」とか「偉人」といった世界が大好きでした。木村栄(ひさし)の名前もその頃から知っていたのですが,金沢市出身の方でありながら,実はちゃんと知らないので,「この機会に...」と思い聴いてきました。

この日は講演会豪華2本立てで,参加費500円も必要だったのですが,どちらも大変楽しい内容でした。最初に登場されたのは,国立天文台水沢VLBI観測所所長の本間希樹さん。「緯度観測からブラックホールへ:木村栄から始まる水沢の天文台の過去・現在・未来」と題して,木村栄が発見した「Z項」のこと,木村の四高時代の恩師・北条時敬(ときゆき)のこと,ブラックホールとは何か?そして,人類初のブラックホールの「撮影」の話...などがスライドを交えて紹介されました(ちなみに名称は変更になっていますが木村栄が水沢の観測所の初代所長です)。

やはりブラックホールの話が面白かったですね。ブラックホールというのは,「究極の”のんべえ”である」という説明が面白かったですね。光・時間などあらゆるものを「どれだけでも飲み込んで絶対に吐かない」とのこと。飲み込まれるギリギリまで近づいて,見てみたいものです。そして「飲むと回りは明るくなる(明るいお酒)」とのこと。ブラックホールの写真と呼ばれているドーナツのような写真も,「ブラックホールの影」というのが正しいようです。

この「影」の写真によって水沢の街も盛り上がり,ブラックホールのお菓子も次々登場しているそうです。「ブラックホールの可視化」に続き,「ブラックホールの”菓子化”にも初めて成功」というジョークも最高でしたね。「もっと知りたい」という内容でしたので,偉人館で販売していた,本間先生のサイン入り本を購入してしまいました。実は「お菓子」の方は,以前に既に購入済で,ラベルだけ残っていたので一緒に撮影してみました。


後半は国立天文台上席教授 渡部潤一さんによる「木村栄と宮沢賢治:同時代の二人が為した天文学と天「文学」」と題した講演でした。渡部先生のお名前と顔は,以前からテレビなどで知っていましたが,今回は「岩手県つながり」で宮沢賢治と木村栄についてのお話でした。この2人の生きた時代が戦争続きの激動の時代だったこと,2人には接点があったことが紹介された後,最後の方は,宮沢賢治作品に出てくる天文学の記述の正確さについての話になりました。

この最後の部分では,実際の賢治の文章も多数印象され,渡部先生が,天「文学者」でもあることが分かりました。ただし,この部分の内容は渡部先生の最新の著作『賢治と「星」を見る』にもっと詳しく書かれている内容。実はこの本の方は,「サイン入り」に引かれて,既に購入済でした。ようやく過ごしやすい気候になってきたので,講演会の内容と重ね合わせながら,この2冊を読んでみたいと思います。



さらに今回素晴らしかったのは,講演会に参加した人は偉人館にも入場でき,グッズの抽選会にも参加できるという特典。せっかくなので参加してきたところ...Z項がデザインされた巾着が当たりました。


講演会後の偉人館は大盛況。「ブラックホールの可視化...ならぬ菓子化」コーナーも本間先生のPRが素晴らしく,盛況でしたね。


といわけで,30周年記念に相応しい,楽しく勉強になって,サービス満載の企画でした。

2022年3月21日月曜日

本日は,金沢21世紀美術館コレクション展「BLUE」関連プログラムとして行われた小林康夫さんによる講演会「青の美術史」に参加。少々難解な部分もありましたが,「青へのこだわり」を起点にポエジーが沸き上がってくる21美にぴったりの内容でした

本日は,金沢21世紀美術館で現在開催中のコレクション展「BLUE」の関連プログラムとして行われた小林康夫さんの講演会「青の美術史」に参加してきました。

「BLUE」という展覧会は,21美のコレクションの中から青色を効果的に使った作品を集めた展覧会で(非常に雑な説明ですが...),深く考えずに見ても,単純に面白いなぁと実感できるような展覧会だと思います。そのことに加えて,以前から小林康夫さんのお名前には馴染みがあったので(1990年代前半に話題になった東大のテキスト『知の技法』の編者として馴染みがありました),一度,お話を聞いてみたいと思い聴きに行くことにしました。

この講演会を聞いて,美術史的に見て青が特別な色だったこと,21美にとってもポイントとなる色であること,現代のアーティストの多くにとってもこだわりのある色であることが実感できました。そして,こんなに色々と深読みできるのだなぁと感心しました。色々な美術作品をじっくりと鑑賞してみたくなるような,刺激的な内容だったと思いました。

「講演会」ということでしたが,普通の講演会とは一味違っていました。まず最初に小林さんご自身が青について語っている過去の動画を流したり,途中からは「BLUE」の担当キュレーターの横山さんとの対談になったり,色々な「小道具」を持ってこられたり...「21美に来たからにはただの講演会にはしないぞ」という思いが溢れる内容だったのも素晴らしいと思いました。

今回,小林さんが講演されることになったきっかけは,小林さんが「青の美術史」という著作を書かれていること,キュレーターの横山さんが小林さんの教え子であるという「つながり」があったことによります。それに加え,小林さんと21美館長の長谷川祐子さんとのつながりもあります。小林さんが「青」に注目する原点となったのが,1992年に水戸芸術館で行われた「Another World」という展覧会でした。その担当キュレーターが長谷川さんだったそうです。というわけで,今回の講演会の「本当のタイトル」は「Another World, Again: 21世紀の「青の歴史=時間」のために」であることが,ここで明かされました。

講演に先だって流された動画の中で小林さんは,次のような「青についてのエッセンス」を語っていました。

  • 青は,「憧れの青」であると同時に「カタストロフィ的な恐怖の青」であり,二重のまなざしをもつことが必要
  • 青は色を越えた特別な色として機能してきた

・・・なかなか難しかったのですが,その後,小林さんのお話を聞いているうちに,その特別さが何となく理解出来ました。

講演会の内容は,当初予定していた美術史的な話は少なめにし,21美の恒久展示(コミッション・ワーク)の話や現在開催中の「BLUE」展に出品されている作品の話に焦点が当てられました。「本に書いたことはしゃべらず,21美の展示を見て何を考えたか」という学びのスタンスで話をしたいとのことでした。

ただし,「青の美術史」についての歴史的なお話も大変面白い内容でした。

  • 伝統的にラピスラズリなどの青の絵の具は高価で,1300年代のジョットの作品が原点
  • フラ・アンジェリコの「受胎告知」では,聖なる色としての青が聖母マリアの衣装に使われている
  • ロマン主義のフリードリヒの時代になると,ロマンティック・ブルーと呼ばれるようになり,絵画の中に個人の表現が入ってくる
  • 見ることを問い詰めたピカソの「青の時代」,新しい時代を開いたマティスの青と続き,イブ・クラインの「純粋にブルーだけ」の絵に至る・・・

といった,とても面白い内容でした。小林先生の「青の美術史」を読まねばという感じですね。ちなみに半年後,21美でイブ・クライン展を行うとのことです。今回のお話はその予告編にもなっていたと思いました。

実は「青の美術史」の表紙に使われているのは,
セザンヌの「サント・ヴィクトワール山」
この絵の話もうかがってみたかったですね。

後半は21美のコレクションの話になり,横山さんとの対談となりました。

まず,お2人のお話を聞いて,21美の恒久展示としてすっかりおなじみの,「カプーアの部屋」「レアンドロのプール」「タレルの部屋」は,いずれも青が強く関連していることを改めて実感しました。

カプーアの部屋の黒く見える部分(出っ張っているのか?引っ込んでいるのか?の部分)は,実は濃い青とのことでした。「闇としての青」ということになります。小林さんがこの作品について,「闇を通って,Another Worldから落ちてきた感覚」で観ることもできる,とおっしゃられていたのが面白いなぁと思いました。

レアンドロプールについては,神秘的な要素はなく,言ってみれば「ただのプール」ですが,もちろん水の色,空の色の青がポイントの作品です。

本日もレアンドロのプール周辺は賑わっていました。

タレルの部屋については,四角いキャンバスの中に空の青が見えるという点で,イブ・クラインのさらに先にある作品と言えます。

というわけで,実は,21美の隠しテーマは「青」だったのかも,という気にさせられました。

その後,「さらに次の時代のBLUE」という話になり,コレクション展「BLUE」に出品されている作品の話になりました。横山さんが「指導教員から諮問を受けているよう」とおっしゃられていましたが,この対話形式がとても面白かったですね。各作品のポイントを,一緒になって考えつつ,なるほどと実感することができました。

その中では,ローズマリー・ラングの「青空を背景に女性が宙に浮かんでいる写真作品」についての説明が印象的でした。この作品は,一度見たら忘れられない作品ですが,命がけで撮影しながらも,重力から解き放たれている点で「自由・解放」の象徴となっているといったコメントを聞いて,「なるほど」と思いました。

日本人アーティストの作品では,志賀理江子さんの「螺旋海岸」シリーズ(異次元世界とのつながりと”どこかBLUEの気配”のある写真作品),石田尚志さんによる「絵と窓を中心とした,時間の展開を表現したアニメーション作品」が紹介されました。この話を聞いた後だと,両作品ともずっと面白く鑑賞できそうです(ちなみに,会場に石田さんご自身も来られていました)。

最後に小林さんは21世紀における青の可能性として,「らせん」ということをキーワードとして挙げていました。この辺は,量子力学の話などもされていて,なかなか付いていくのが難しかったのですが,これからは,2次元,3次元といった時代ではなく,キャンバスという枠の中に押し込められることなく,渦を巻くように次々と出てくるような時間の感覚がベースになるのではといったことを語っていました。

最後,小林さんが昨日書いた詩を自身で朗読されて,講演会は締めくくられました。この日の講演会では,「青」に関する色々な考え方が紹介されたことに加え,アートな感覚を刺激するポエジーにも満ちていたのが良いなぁと思いました。少々難解な部分もありましたが,21美で聞くのにぴったりの内容だったと思いました。

BLUEのポスターの隣の冨安由真さんの展示
のタイトルは「蒼ざめた馬」
ということで,こちらも,しっかりと青つながりでした。









2019年10月27日日曜日

宮下奈都×陸秋槎トークショー「小説を書くこと」を石川県立図書館で聞いて来ました。2人の作家の魅力が伝わってくるトークショーでした。サイン会も行われました。

本日は午前中から,金沢市内では大々的に金沢マラソンを行っていましたが,そちらの見物には行かず,午後から石川県立図書館で行われた,作家・宮下奈都と陸秋槎さんのトークショーに参加してきました。毎年,石川県立図書館で,この時期にミステリー系の作家を中心に小説家のトークイベントが行われるのは恒例になっていますが,今回は2人の作家が登壇する豪華版でした。

宮下さんの方はミステリー作家とは言えないので,この2人に一見共通点はなさそうですが,宮下さんは福井在住,陸さんは金沢在住。北陸在住の作家ということで共通点があります。以前,福井で行われた読書会でお二人は一度会っており,「陸さんとの対談なら」ということで,宮下さんは今回登壇されることになったとのことです。お話を聞きながら,お二人の書かれる小説の主人公には若い人が多いという点でも共通点があると思いました。

今回も県立図書館の職員の方の司会の方の出される質問にお二人が回答していく形でトークショーは進められました。以下,私が印象に残った点などを紹介しましょう。
# メモをもとにまとめたのですが,間違っている点や支障がありましたらご連絡くだささい。
ステージはこんな感じでした。
小説を書き始めたきっかけは?

  • 宮下さん:3人目の子どもがお腹にいたとき,「今しかかく機会はないだろう」と思って書きたくなって,書いてみたらとても面白かった。その作品(『静かな雨』)を「文学界」新人賞に送ったら佳作になり,そのままデビューすることになった。
  • 陸さん:大学時代,ミステリーにはまった。いくつかの雑誌に送っても不採用が続いたが,『元年春之祭』については出版社から連絡があり出版されることになった。

宮下さんの作品で好きな作品は?

  • 陸さん:『スコーレNo.4』。もともと美少女の話が好きだが,少女が大人になる小説では,いちばんだと思う。
  • 宮下さん:光文社の編集者から「好きなものを自由に」と依頼を受けて書いた作品。
  • 陸さん:ミステリーでは特別な人ばかり描写するので,普通の人を描写した物を読みたくなる。
  • 宮下さん:私の作品は「何も起きない」と言われがちだが,物足りなくないか?
  • 陸さん:エピソードが面白い。少年・少女が大人になる話が好きである。

その後,この作品の一部が宮下さんによって朗読されました。

陸さんの最新作『雪が白いとき、かつそのときに限り(雪白)』について

  • 宮下さん:魅力的なタイトル。(ネタバレにならないように注意しつつ)雪の日に殺人事件が起こる話だが,ミステリー的な部分だけでなく,少女たちが「友だち」という言葉をためらいがちに使うといった描写にキュンとした。(その後,宮下さんが『雪白』の中の好きな部分を朗読)
  • 陸さん:宮下さんの作品には,特別な人と平凡な人の対比がよく出てくるが...
  • 宮下さん:才能のある人が全部持って行くような作品を読むと,「そうでないだろう」と思う。才能のある人が出てくるとそれで納まってしまうので,才能を持った人は出てこないようにしている。
  • 陸さん:未成年は未来への不安を持っている。不安な気持ちを描きたいが,やり過ぎたかもしれない...。
  • 宮下さん:これを「やりすぎ」というと,この作品は成り立たないのでは...(といったところで,ネタバレになりそうだったのでストップ)。

影響を受けた作家は?

  • 陸さん:日本の新本格ミステリーの作家の影響を受けている。麻耶雄嵩(まやゆたか),中井英夫といった対照的な作家。青春小説では米澤穂信。
  • 宮下さん:何の影響を受けているかわからない。が,川端康成の『伊豆の踊り子』を読むとなぜか,小説を書きたくなる。山本周五郎も好き。最近の小説については,本当に好きになれる作品はないが,そういった作品を探しながら読んでいる。

人称について

  • 宮下さん:1人称が多い。3人称だときっちり書き切れないので,1人称になってしまう。
  • 陸さん:あまり何が良いか考えていない。1人称なら必要のない部分を書かなくて良い。

キャラクター作りについて

  • 陸さん:実在の人物はモデルにはしない。ミステリーは殺人が出てくるので。
  • 宮下さん:書きたいと思ったときに,その人物がいる。それをただ書いている。

音楽について

  • 宮下さん:音楽については,幅広く好きな音楽を使っている。好きな曲を使うと情熱がたまってくる。
  • 陸さん:音楽はどのジャンルも面白い。最近,シューベルトの最晩年の曲を聞いている。自分と同じ年なのに完成度が高く,すごいと思う。

場所について

  • 宮下さん:福井で書いていて良かったと思う。穏やかで暮らしやすい。金沢は福井に比べるとキラキラしていると思う。
  • 陸さん:北京で育った後,上海に移り,金沢に住んでいる。金沢は静かで住みやすく,執筆に向いている。日本語の資料については,石川県立図書館で調べることが多い。

『羊と鋼の森』について

  • 宮下さん:師匠と弟子の話を書きたいという構想が自分の中に長くあった。北海道十勝のきれいな場所に行って,「描写できない」と思った。音楽についても「描写できない」と思う。その2つが自然に合わさって出来た。
  • 陸さん:この作品の中では,原民喜の文体についての次の言葉が印象的。
明るく静かに澄んで懐かしい文体,少しは甘えているようでありながら,きびしく深いものを湛えている文体,夢のように美しいが現実のようにたしかな文体(#確かこの部分だったと思います)
  • 宮下さん:良い言葉だと思い手帳にメモしていたもの。私もこれを目指している。このことを音楽で目指す人の話にすることにした。ピアニストよりも,それを支える人に興味があったので,こうなった。映画版については,役者さんに恵まれた。上白石萌音・萌歌姉妹は高校に通いながら撮影しており,いじらしさを感じた。


新作について

  • 陸さん:ミステリーとファンタジーの両面のある作品を書いている。
  • 宮下さん:締め切りを設けず,好きなものを書いている。家族の小説になりそうだが,変わってくるかもしれない。

こういった感じで,楽しい話が続きました。その後,サイン会が行われたので,持参した本にサインをいただいてきました。


今後の予定ですが,陸さんは,奥さんの関係で,もうすぐ金沢を離れることになりそう,とのことでした。是非,金沢を題材にした作品(殺人事件でなくても良いので)を書いて欲しいものです。
来た時は雨でしたが,帰る時には晴れていました。

2019年10月23日水曜日

ロバート・キャンベル講演会「終わりから始まる物語:日本文学から見つめる社会・文化のあり方」を石川県立美術館で聞いてきました。とても分かりやすく,新鮮な視点を感じることができる内容でした。

本日は,午後から休みを取って雑用を片付けた後,石川県立美術館で行われたロバート・キャンベルさんの講演会を聞いてきました(正直に言うと...講演会が主目的で雑用は後からくっつけたのですが)。

キャンベルさんは民放のテレビのクイズ番組などにもタレントのような感じでよく出演されていますが,本職は日本文学の研究者で現在は国文学研究資料館の館長も務められています。今回のテーマは「終わりから始まる物語:日本文学から見つめる社会・文化のあり方」で,キャンベルさんの本職のお話をうかがえるのを楽しみに出かけてきました。

キャンベルさんは,新聞などにもよく文章を書かれていますが,いつも情報がしっかりと整理されていて,ポイントが分かりやすいなぁといつも思います。今回のお話も具体的かつ大変分かりやすい内容でした。

内容は大きく次の3点に分けられました。(1)今回金沢の美術館,博物館で見た資料について,(2)国文学研究資料館の紹介,(3)演題についてのお話。以下,箇条書きでご紹介しましょう。

1 今回,金沢の美術館,博物館で見た資料について

  • 今回は北陸新幹線ではなく飛行機で来たので,少し早めに石川県立美術館に到着。「枕草子」の写本(尊敬閣文庫のものだと思います)の展示など,素晴らしいものを展示していると感じた
  • 日本では,自然災害などが多いにも関わらず,他の国に比べると,紙に書かれたものを処分せず,きちんと残っていることが多いのが素晴らしい
  • 「何が本当か?」フェイクニュースという言葉がよく聞かれる時代になり,時を超えて真実を伝えているものに触れたいと思い,最近,美術館に足を運ぶことが増えた。
  • 石川近代文学館では次の展示物を見た。許可を得て撮影した写真がスライドで紹介されました。


  1. 泉鏡花「歌行灯」自筆原稿:キャンベルさんはこの作品が好きとのこと。原稿には「見せ消し」の書き込みが多く,作家の「思い」が伝わってくるとのコメント
  2. 泉鏡花「婦系図」自筆稿本
  3. 徳田秋聲「猫」自筆原稿:キャンベルさんは秋聲も好きとのこと。この「猫」という短編は,猫を描きながら自分の女性関係(?)を書いたような面白い話とのこと。ちなみに,キャンベルさんは大変な猫好き。猫と書斎は相性が良いのでは,という説を述べられていました

こういう形で紹介されると,どれも読んでみたくなりますね。今後,鏡花記念館や秋聲文学館でもキャンベルさんを招いていただいても良いかも...と思いました。

ちなみに,石川近代文学館にあった,展示テーマ関連のガチャガチャ(「恋」をテーマにしたもの)。国文学研究資料館でもできないか検討してみるとのことでした。

2 国文学研究資料館(国文研)について

  • 日本文学について,単独の大学では行えないような共同研究・調査・事業などを行っている,立川にある国の研究機関。
  • 日本文学については,「国書総目録」に50万タイトル(冊ではありません)ぐらい作品が収録されているが,これに入っていないものが毎日のように発掘されている。国文研では,そういったものをアーカイブ化し,Webから利用できるようにしている。
  • 日本文学の特徴は,絵が入っているものが多く,絵と文章が一体化していること。これは,マンガやアニメにつながっている。
  • 国文研で作っている新日本古典席総合目録データベースを是非使ってみてください。その後,いろいろな機能や使い方を紹介。


  1. くずし字と翻刻されたテキストとのリンク
  2. 画像タグが付けられている作品については,例えば動物名を入れると,その画像が出てくる。年賀状の素材にも使えます,という分かりやすい説明。
  3. 手書きで描いたスケッチから検索する機能。オンライン版ではまだ使えないそうですが,楽しそうな機能です。

江戸時代のレシピ本を元に実際にデパ地下で作ったというようなお話もされていましたが,「実際の研究が多方面に役立ち,知的な好奇心を広げてくれるのだなぁ」ということを実感。今後,こういうアピールを行っていくことも大学や研究機関は必要なのではと改めて思いました。

(3)演題についてのお話
日本文化の中では,「しめきり」が見えたときに想像力が発揮されているような事例が多い,ということで次のような例が紹介されました。


  1. 2020オリンピック・パラリンピックの東京開催が決まった2013年9月時点のツィート:文学ではなく,SNSに注目される着目点が素晴らしいと思いました。その中で「2020というリミットが,色々なことの目標になるのは良いこと」といった真面目なツィートが多かったとのこと。
  2. 豊島与志雄『明日』(1938)という短編:明日の予定を待つのが嫌いな人の話
  3. 橘曙覧『独楽吟』:「たのしみは」で始まり,「.....のとき」で終わる形式で詠んだ和歌を集めた歌集。この方もリミットが嫌いな方だったようです。それにしても,「笑点」のお題のような感じですね。
  4. 中江兆民『一年有半』(明治34年):余命を告知された後,兆民が描いた作品。
  5. 井上陽水『背中まで45分』:キャンベルさんの最新の著作井上陽水英訳詞集の中に含まれている詞。お話を聞きながら,「井上陽水の詞は良いなぁ」と実感。詳細は...キャンベルさんのこの本をお読みください。

まとめると有限の枠組みの中で力を発揮する人と縁が見えないことで自由に過ごせる人の2種類居るということでしょうか。私はどちらかというと,前者のような気がします。

最後に質疑応答がありました。井上陽水さんの詞の英訳についての苦労話についての質疑応答が特に面白かったですね。もともと意味が曖昧な(陽水さんの場合,そういう「揺れ」「余白」が特に多いそうです)詞について,読み手がそれぞれの思いを感じることができるように残しておくことが難しいと同時に楽しかったとのこと。この本,是非,読んでみたいですね。

というわけで,キャンベルさんには,是非また金沢の美術館や博物館めぐりをしていただきたいなぁと思いました。

2019年10月16日水曜日

#21美 #シマ缶とーく 第4回「美術館のコレクション」。島敦彦館長と21美のレジストラー/アシスタント・キュレーターの野中祐美子さんの対談でコレクションの貸出・借用についてのお話が中心。聞いているうちに不思議とアートって自由なのだなという気分にさせてくれるトーク

金沢21世紀美術館で今年度から始まった「島館長と語るシマ缶とーく」の第4回「美術館のコレクション」に参加してきました。今回は,島敦彦館長と21美のレジストラー/アシスタント・キュレーターの野中祐美子さんの対談形式で,美術館所蔵のコレクションの貸出・借用についてのお話が中心でした。

まず,日本の国立美術館では,3つの館でセザンヌの作品を所蔵しているという話題からスタート。セザンヌについては,「西洋美術史の到達点」「日本の近代絵画への影響」「キュビズムなどの現代絵画への影響」など色々な観点からの評価があるため,各館で所蔵しているとのこと。結局,各館の収集コンセプトの反映ということになりますね。

続いて,現在,21美で行われている開館15周年記念の「現在地」という展覧会の話へ。この展覧会では,21美で所蔵しているコレクションをなるべく沢山,しっかりと見せようというのが狙いで,そこから,塩田千春,小谷元彦,村上隆,奈良良智といった現代の人気アーティストの作品のお話になっていきました。21美だけでなく,日本の色々な美術館で所蔵しているこの方々の作品が画像を交えて紹介された後,野中さんの担当で,21美所蔵の村上隆「シーブリーズ」をロシアに貸し出したときの苦労話が写真を交えて紹介されました。

この作品,数年前,21美で展示されていた記憶があります。原爆の爆発時の光を想起させるような,直視できないぐらいの明るい照明が印象的な作品でした。電気系統が複雑で,しかも1990年代前半の作品ということで大変な苦労をされたことがお話から伝わってきました。

最後は恒例の質疑応答コーナー。次のようなお話が印象に残りました。
  • 21美では,「1室1作品」で展示されるインスタレーション作品を所蔵しているが,そういう作品については,展示方法を示すインストラクションを作るのも美術館職員の仕事
  • 美術作品の貸出料は,公共の美術館の場合,実費を除くと無償のことが多い。お互いにギブ&テイクの世界。
  • 購入後価格が上がることを狙った投資目的でのコレクション収集は,公的な美術館ではない。
  • 近年,世界的に美術品市場では価格の高騰が進んでいる。そのため,どの美術館でも,高額の作品をコレクションにしていくには,コレクターに買ってもらった後,その作品の寄贈を受けるというやり方しかないような状況になっている。
  • 悪く言うと将来「ガラクタ」になってしまう作品もあるのでは?という質問に対し,あり得る話だが,購入時の価値付けを伝えていけば,大半の作品は大丈夫だろうという回答。ただし,かつては輝いて見ていていた作品がそうでなくなることもある。その一方,この30年ほどで,色々な作品について,再評価が起こっているとのことです。
  • 美術については従来は欧米中心だったが,現在は世界各地に分散している。21美はコレクション収集についても日本の中ではもっとも先端的な動きをしている
このシリーズには何回か参加していますが,島館長の柔らかな雰囲気がとても良い雰囲気を出していますめ。アートというのは自由を目指すものなのだな,と感じさせてくれます。現代美術については,結構理屈っぽい側面があり,言葉であれこれと説明や補足が必要な部分も多いのですが,21美の収集方針である「新しい価値観を示すもの」ということと併せて考えると,どこに「新しさがあるのか or 新しさがあったのか」を感じることが作品を鑑賞するポイントなのではと思いました。

次回は少し先になりそうですが,また参加したいと思います。


2019年5月25日土曜日

21美で行われた「島館長と語るシマ缶トーク」第1回「島館長が見てきた現代美術入門」。ゆるいけれども知的な雰囲気が週末の夜の気分にぴったりでした。

金沢21世紀美術館で「島館長と語るシマ缶トーク」という新シリーズが始まったので,5月24日(金)の夕方,参加してきました。

21美の館長は2年前の4月に,秋元雄史さんから現在の島敦彦館長に交代になりましたが,秋元館長時代,ご自身が気軽に語るという企画は意外に少なかった気がします。というわけで,今回のトーク企画は,3年目を迎えた「島館長らしさ」をアピールする面白い内容でした。

「シマ缶」シリーズの内容は,チラシによると「美術史,美術館のこと,これまで見た展覧会のことなどについて,島館長が語った後,後半は来場者からの質問に応える」というものです。今回は第1回ということで,現代美術についてのいくつかの切り口を示した後,島館長が見てきた海外美術館の特徴的な作品を紹介するというものでした。

大学の講義のような感じできっちりと説明するというよりは,ゆるい雰囲気でスライドを説明しながら,いつのまにか「なるほど」と思わせてくれるようなお話しでした。トークの中で色々とキーワードや固有名詞が出てきましたので,それをたどりながら,内容について紹介しましょう。

■赤瀬川原平「宇宙の缶詰」
まずこの作品についての紹介がありました。

  • カニ缶の内側にラベルが貼られた作品
  • 「世界」の方が缶詰の内部になるという作品
  • 「シマ缶」の由来がこれのようです。

# 現代美術はコンセプトが特に大切ということですね。

赤瀬川さんは「千円札事件」で逮捕されたことがあるが,そのことを素材にして,また別の作品を作っている。

現代美術と表現の自由
(1)大浦信行氏による昭和天皇の肖像を使ったコラージュ作品
右翼団体等から多数の批判を受けた問題。その後,「富山県立近代美術館問題」と呼ばれる事件へと発展
(2)木下直之「股間若衆」
極度に激しい表現がある場合,展覧会でゾーニングを行うことがある。この作品(#どの作品かよく分からなかったのですが...)の展示の時には,ゾーニングを行ったにも関わらず警察が来た。100年前の状況とあまり変化はないようだ。
(3)吉開菜央「Grand Bouquet」
ビデオ作品。途中数秒「刺激が強いので見せないでくれ」と依頼があった作品

街中での作品展示
美術館というのは権威である。それにおもねらず,美術館の外に出ようという動きもある。(例)昨年,21美で行った「東アジア文化都市」
ベルギーのゲントの街中でヤン・フートが行った”Chambles d'amis"が街中展のきっかけ

■難しい用語・反骨精神
奈良美智「Agent Orange」
  • この言葉にはベトナム戦争での「枯葉剤」という意味とパンクロックバンド名の2つの意味がある。
  • 奈良氏の作品にはロック音楽のような反骨精神が流れているのでは。
■海外の美術館紹介
次のような美術館で所蔵する作品などをスライドで紹介

フィラデルフィア美術館
  • セザンヌ「大水浴図」 
  • マルセル・デュシャン「泉」(1917/1964)
クレーラーミューラー美術館(オランダ)
  • ゴッホのコレクション
  • マルタ・パンの野外彫刻
  • デュビュッフェ
  • ルーチョ・フォンタナ(#この方の作品,大原美術館にもありますね)
  • ジャコメッティ
ルイジアナ近代美術館(デンマーク)
40年かけて増設していった,雰囲気が素晴らしい美術館
  • デュビュッフェ
  • サム・フランシス
ゲント現代美術館
1989年,ベルギーでヨーロパリア・ジャパン89という日本紹介プログラムが行われた
# この時,創設したばかりのオーケストラ・アンサンブル金沢もこのプログラムに参加していたはずです。
  • パナマレンコ
  • 川俣 正(廃材を使った作品。昨年,金沢でも展示あり)
  • 森村泰昌(人物画の名画に自分が扮したパロディ作品。# ゴッホの自画像については,個人的には,森村氏によるパロディの方になじんできているかも)
ミデルハイム彫刻庭園美術館(アントワープ)
  • 青木野枝
  • 戸谷成雄
  • 中原浩大

■質疑応答
後半は質疑応答になりました。参加者にポストイットに質問を書いてもらい,それを回収。類似の質問を整理して,その中から島館長が回答するような形でした。
  1. 好きな作家は? 回答は難しい。「興味深い」なら答えられる。
  2. 現代美術に精神性や宗教性のようなものはあるのか? 作家にもよるし,時代にもよる。(例)バーネット・ニューマンの単色絵画は「崇高」「宗教的な感覚が感じられる」と言われている
  3. 日本の美術館でお薦めは? 豊田市美術館(谷口吉郎設計,レゴで作った面白い作品がある),丸亀市猪熊弦一郞現代美術館(こちらも谷口吉郎設計),富山県美術館,川村記念美術館(千葉県佐倉市),品川にある原美術館は閉館予定だが,その前に見ておいた方が良い
  4. 現代美術作品の価格はどう決まる? 欲しい人の多さで決まるのは,古い作品と共通。有名作家については高止まりしている。やや異常な状況である。
  5. 美術館の作品は誰が選んでいる? 21美の場合,展覧会を行う際に,その作家から,買えるものを買うことが多い。どの作品を購入するかについては,収集委員会で検討している。
  6. 現代美術についてはどうすれば詳しくなれる? 勉強するしかない。文字を読む前に実物を見れると良い。経験の積み重ねで知識を広めるのが良い。美術館から帰ってから勉強すると良い。
  7. 21美ならではの作品は? インスタレーション作品(ある特定の室内や屋外などにオブジェや装置を置いて、作家の意向に沿って空間を構成し変化・異化させ、場所や空間全体を作品として体験させる芸術(ウィキペディア))である。国内の美術館では,(何かとめんどうな)インスタレーション作品を所蔵しているのは21世紀美術館ぐらいである。
  8. 現代美術の面白さとは? よく分からないところが多いこと。実は「分かったふり」をしていることも多いし,「判断を保留」している作品も多い。アイデアは良いが好きになれない作品などもある。ただし,体験が深まると判断が変わることもある。長いつきあいをすることが大事(# その後の質問で「同じ人の作品は3回見ないとだめ」と答えていました)
  9. 嫌いな作品でもコレクションすべき? そういう場合もある。熱意のある学芸員の感覚を大切にしている。館長が押しつけるのは良くない。
  10. 21美の展望は?どんな展示をしたい? 入館者数はこれ以上増えなくても良いだろう。展示については,学芸員に任せたい。
  11. 館長の普段のお仕事は? 会議,ハンコに加え,職員の相談に乗ったりしている。自分自身「怒れない人」である。気軽に相談できるように,館長室のドアは半分開けている。
現代美術については,何かと難解な印象があるのですが,今回のお話を聞いて大らかな気持ちで現代美術を鑑賞できそう,と思いました。このシリーズは年5回行うそうなので,都合がつけばまた参加したいと思います。まったりとした空気の中での知的な雰囲気は,「週末の夜」に特にぴったりだと思いました。



2019年4月21日日曜日

ポーラ美術館長 #木島俊介 さんによる「#脇田和 と #猪熊弦一郎」展関連の講演会を #石川県立美術館 で聞いてきました。お二人と直接面識のあった方ならではのお話。似ているようで対照的な作風の秘密が分かりました。

昨日から石川県立美術館で,展覧会「脇田和と猪熊弦一郎」が始まりました。それにちなんで行われた,ポーラ美術館館長の木島俊介さんによる講演会「脇田和と猪熊弦一郞:心の在(ありか)を求めて」を聞いてきました。

この展覧会は,昨日観てきました。脇田和は,石川県にも縁のある画家で,数年前に石川県立美術館に300点以上の作品の寄贈を受けています。その所蔵作品を,同時代に活躍した親交のあった画家の作品と組み合わせて展示するというのが趣旨ということになります。その第1弾が猪熊弦一郎でした。
昨日の写真。快晴でした。


この2人は,ほぼ同時代に活躍した洋画家で,抽象画と具象画の中間的な作品を描いた点で共通するのですが,実際に観てみるとかなり作風が違います。その辺についての話を聞いてみたいと思い,聞きに行くことにしました。

木島さんは現在80歳で,講演の以来を受けるかどうか迷ったそうですが,生前この2人とつき合いのあった人も少なくなりつつあるので,引き受けることにしたとのことです。それと,「金沢が好き」というのも理由とのことです。講演は,実際に直接2人に接した人でなければ語れない内容が満載で,とても面白いものでした。その概要を紹介しましょう。

■2人のポジション

  • 両者とも,具象と抽象の中間をキープした画家。
  • 抽象画については,作者自身も知的に分かっていないものなので,他人が説明するのは難しい。
  • 2人の作品についても,観れば楽しめる。「好き」「嫌い」で判断すれば良い。

■2人との出会いと1960年代のニューヨーク

  • 1964年,木島さんがニューヨークに留学した際に,猪熊氏に初めて会った。その時,脇田氏の次男とも知り合いになった。
  • 当時,グリニッジ・ヴィレッジに住んでいた。当時のニューヨークは音楽,演劇なども盛んで,いちばん良い時代だった。
  • 売れる前のボブ・ディランがいたり,すぐ近所にピーター・ポール・アンド・マリーが住んでおり,熱心に練習していたり,小澤征爾がジャズのベニー・グッドマンと共演していたり,オノ・ヨーコのコンサートに参加したり...

■2人の作品の作り方は対照的

  • 脇田と猪熊の作品の作り方は対照的
  • 脇田は東洋的・日本的。脇田の無意識の世界が絵になって現れたような作風。
  • 脇田が情熱を持って接したモノが無意識の中に沈殿し,心の中で昇華された上で,それが絵に出てきている。(例)気に入った靴が無意識に沈殿。それが鳥の絵になって出てきている(木島さんの考え)
  • 猪熊の方は,西洋的。キリスト教の神は,世界の外側で世界を作り,その中に色々なものが出てきている。猪熊の作風もこれと同様。
  • 色々なもの(混乱)が出てきた後,それらが弁証法的に止揚してさらに高まったもの(秩序)が出てきている。「混乱と秩序」が猪熊の絵を説明するのに一番良い言葉。

■色彩の作り方も対照的

  • 脇田は出したい色を混ぜて作る人。猪熊は生に近い色でコントラストの強い画面を作る人 # 私も実際に絵を観て,そのとおりと思いました。
  • 猪熊は生の色を並べて,ぶつかり合いの効果を出している。
  • 脇田は不透明の絵具をベースに塗った上に,透明な絵具を重ねている(おつゆ描き)。または,下の地色が見えるように硬い筆でカスレを出すように描いている。# 脇田の絵は,「カスカスの感じがするなぁ」と思っていたのですが,説明を聞いてなるほどと思いました。
  • その後,木島さんは「色即是空,空即是色」という言葉を引用して,脇田の作品を説明しました。「脇田の作品は色々なもので成り立っているが,突き詰めると心(=無意識の世界)に行き着く=多即一」とのこと。
  • さらに「分節」という用語を使って,「鳥とか靴とかいろいろなモノがあるが,すべて脇田の心が「分節」して込められたものである」と説明。この辺は結構難解でしたが,言われてみれば,脇田の作品には,どの作品にもベースになる似たトーンがあると感じます。
  • 猪熊作品については,「水晶が互いを照らし会って,無限のものを表現している」といった説明をされていました。多様性と一貫性という点で,共通するものがあるのではと感じました。

■実際の作品をスライドで

  • 最後に,お二人の作品を時代順にスライドでざっと観ました。
  • 猪熊は非常にデッサン力があった。そのことが深さにつながっている。留学時には,ピカソとマチスに出会い,特にマチスの影響を受けた。
  • 脇田は,身近なモノをテーマにした人。そのどれもに脇田が出ている。
  • 猪熊はニューヨークに移住して,作風が変わった。大都市の混乱と秩序を描き,幾何学的に整理されていった。# 今回も展示されていた,この時代の抽象度の作品はどれも垢抜けていて,すっかり気に入りました。
  • ○△□という基本的な形で抽象化している点で,禅に通じるものがある。

■最後に

  • 脇田は,自分の好きなものに執着してそれを集め(木島さんがテヘランで買ったクツを脇田さんがすっかり気に入り,1足(左右セットの片割れだけ)取られてしまったそうです)
  • 猪熊さんは,ごちゃごちゃしたものから秩序を生む人。丸亀にある猪熊弦一郞美術館も,猪熊のおもちゃ箱のよう。子供が喜ぶ美術館とのこと。#話を聞いて,一度行ってみたくなりました
  • 2人は,それぞれ,あるがままに描いた。そして,アートという形でそれぞれの生き方を見せてくれた。美を感じるのは個人だが,それは幸福への誘いである。

間違っている部分もあるかも知れませんが,お二人に直接会ったことのある方だからこそ語ることのできる味わいのあるお話でした。展示の方ももう一度観たいものです。

2019年3月2日土曜日

#朝日新聞 金沢総局で行われたトークイベント #能登・金沢歩いて見~つけた!暮らしの楽しみ に参加。#萩のゆき さんと #岩本歩弓 さんによる新しい視点で石川・金沢を見直すような内容。それにしても眺めの良い部屋でした

本日は午後から朝日新聞金沢総局で行われたトークイベント「能登・金沢歩いて見~つけた!暮らしの楽しみ」に参加してきました。登場したのは,朝日新聞石川版で毎月連載記事を書いている萩のゆきさんと岩本歩弓さんのお二人でした。輪島市の三井在住の萩のさんの連載は「里山暮らし」,金沢市在住の岩本さんの連載は「歩けよオトメ」というタイトルで,身近な話題をそれぞれの観点から親しみやすく紹介されています。

今回参加しようと思ったのは,私自身,時々連載記事を読んでいたこともあるのですが,朝日新聞金沢総局というのはどういうところなのだろう,という関心もありました。案内記事にあったとおり,会場は大変眺めの良い部屋でした。
香林坊のミスタードーナツからの眺めとも似ていますが,会場は4階だったこともあり,さらにアトリオ~四高記念公園方面がよく見えました。

イベントは,お二人が,それぞれの活動をスライドで紹介した後,気楽な雰囲気で対談するというものでした。会場はそれほど大きくなく,しかもお茶とお菓子付きということで,アットホームな雰囲気でイベントに参加できました。

萩のさんは,東京生まれで2004年に建築家のダンナさんに付いてくる形で,一家で輪島市の三井地区に移住されています。当初は,嫌々暮らしていたそうですが,次第に里山生活の素晴らしさに気づき,その後は,地域の自然や文化を体験する集い「まるやま組」を主宰し,情報発信をされています。ちなみに「まるやま」というのは,三井地区の中の丘の名前とのことです。

里山生活については,私も関心があります。里山地域内で,食料や資源が流通し,それが季節ごとに変化するという,2つのサイクルが巧く機能しているのが面白いなぁと感じました。

金沢生まれの岩本さんは,金沢から離れたくて東京で就職しますが,2004年に金沢に戻り,金沢の魅力を再発見します,その魅力を伝えたいという思いが「乙女の金沢」や「春ららら市」など地域に根ざした作り手や店を紹介するイベントにつながっています。
2006年に発行されたこの本。我が家にもあります。
その後,改訂版が出て「赤い色」に変わっていますね。
面白いのは,お二人とも2004年に石川県に来ているという点です。この年は金沢21世紀美術館が開館した年でもあります。偶然の一致ですが,「金沢に新しい魅力が加わり,再発見が始まった年」とも言えそうです。

その後の2人の対談では,お二人の活動がさらに具体的に紹介されていきました。共通するのは,東京経由で石川・金沢の魅力を見いだした後,魅力を他の人と共有したい・伝えたいという思いにつながり,さらにデザイナー的な視点で編集し,発信を行っている点です。

石川・金沢には,”東京では失われた独自のもの”がずっと残っていたということが,東京から見ると「魅力」として捉えられたと言えるのですが,逆に言うと,地元にずっと残っていた人には,魅力として感じられなかったとも言えます。再発見には,物事を常に新鮮なものとして感じられる,デザイナー的な視線も必要なのだと思います。それと,「年齢の力」も大きいと思います。ある程度,年齢を重ねると,感じ方が変わってきます。意味なく,流行に従うのではなく,自然に近いものの良さが感じられるようになるのではいか,と思います。

岩本さんは,「小さい頃,福梅(正月に食べる餡子の入った金沢のお菓子)は嫌いだったが,最近,好きになってきた」と語っていましたが...実は私も同様です。幼少時の「刷り込み」が蘇ってくる「懐かしさ」も理由だと思うのですが,”どこでも食べられるもの”ではない,”その土地ならではのもの”を,しっかり味わって食べるというのは,良いものだなと感じるようになってきているのだと思います。

考えてみると今回は「餅・饅頭」関係の話題が以外に多かったですね。「ささげもち」「氷室饅頭」に加え,荻のさんが持ってこられた,特製の饅頭1個ずつが参加者にプレゼントされました。
帰宅後食べてみました
コーヒーと一緒にというのも,意外に金沢的でしょうか
繭のような形をしており,コクーンと書かれていましたが,ローカル+グローバルな商品は,大変魅力的なものになるのでは,と改めて実感しました。この饅頭,加賀丸いもと能登の大納言のコラボということで,「加賀・能登の出会い」がテーマとのことでしでた。特に皮の丸いもの味は「さっぱり」としているけれども食感は「ねっとり」としているのがクセになりそうです。春ららら市で出品されるとのことでしたので,来月見にいってみようかなと思います。

「里山暮らし」にしても「金沢暮らし」にしても,それぞれの土地ならではの因襲にまみれた保守性が残っている中,とりあえず,うまく折り合いを付けられるかどうかが「魅力と感じられるかどうか」のポイントなのだと思います。

どの土地も多かれ少なかれ同様だと思いますが,特に金沢に住む人は,自分の街が最高と思っているようなところがあります。その誇りが,他の都市にない独自性を残してきた一因になっているのだと思います。そういう魅力を,デザイナー的な視点と柔らかな語り口で楽し気に伝えてくれるお二人の活動にはこれからも注目したいと思いました。
こちらは岩本さんのプレゼントのハガキ(?)とシール
他の都市に住む知人に送ってみたくなるデザインですね。

2018年11月3日土曜日

#内田樹 さん #安田登 さん #藪克徳 さんによる鼎談「#能と身体」を #金沢能楽美術館で。加賀藩13代藩主前田斉泰『申楽免廃論』を起点にお話しが深く楽しく展開。その後,絶好の好天の下,しいのき緑地の #秋の空 へ。夜は #玉泉院丸庭園 のライトアップ& #21美 の新コレクション展へ

本日は,午後から金沢能楽美術館で行われた,内田樹さん(思想家,武道家),安田登さん(能楽師),藪克徳さん(能楽師)による鼎談「能と身体」を聴いてきました。
この企画は,現在この美術館で開催中の特別展「武家の能と身体:加賀藩十三代藩主前田斉泰ゆかりの能装束と『申楽免廃論』」関連企画として行われたものです。
実は,このところ能に関心があり,石川県立能楽堂で行われている講座などを密かに聞きに行っているのですが,今回の場合,そのこと以上に,内田樹さん,安田登さんという,多数の書籍の著者としても著名な方々のお話を生で聴けるということを目当てに参加してきました。もう一人の藪さんは,このお二方に比べると知名度的には低かったのですが,その受け答えは,とても明快かつ謙虚で,とてもバランスの良い鼎談になっていたと思いました。
会場は能楽美術館の3階でした。
最初に金沢能楽美術館の学芸員の山内さんから,テーマの趣旨説明がありました。鼎談のテーマは,加賀藩13代藩主・前田斉泰(なりやす)が江戸時代末期に書いた『申楽免廃論』という書です。この書物は,前田家歴代藩主の中でも最も多くの自演記録を持つ斉泰の経験に基づいて,能の舞が脚気(かっけ)に効くということなどを説いたものです。この異色の本を読んで,3人のスピーカーの皆さんが感じたことがまず紹介されました。

藪さん
  • 稽古を始めたばかりの幼少の頃,斉泰は「いやいや稽古していた」という記述を読んで,「最初から好きな人だけが続けているわけではない」と感じた。
  • 脚気の原因はビタミンB1不足なので,能の足の運びで直るというのは論理的ではないのでは?
  • ただし,その他の部分の記述は論理的に書いている。
安田さん
  • 斉泰は,現在の「脚気」と違うものを脚気として書いていたのかも知れない。
  • 糖尿病による抹消神経の障害やふくらはぎがつる人には効果があると思われる。
  • 能の舞は,普通の歩き方とは「気合い」が違う。地謡などまわりの情報を受けて,動くスリリングなものであり,武術の勝負に通じるものがある。
内田さん
  • 武道家が能のたとえを使うことは非常に多く,クリシェ(常套句)のようなものである。
  • この書物は,「幽玄」「美」といった,能の本では必ずのように触れられる美意識に全く触れず,「能は健康に良い」とプラクティカルに書いている。その点が異色である。
  • 健康に良いと書いているが,原理主義的でなく,程度問題である(人によって量は違う)と書いている点もユニーク。
  • 自分の身体を見極めることが大切と書いている点は武道的である。身体の自由度を最大化し,どんなことが起きても対応できるという形で動くのが武道だが,演劇も同様だと思う。
  • そういったことを書いている点で,「この人結構できる」と思った。
その後,3人の皆さんから出てきた論点やキーワードを起点としたフリートークになりました。だんだんと斉泰からは結構離れた内容になって行きましたが,含蓄のある言葉が次々と出てきて大変聞き応えがありました。個人的に特に印象に残ったのは次のような点でした。
  • 「おなかの具合が悪いときには,謡が良い」とも書いている点については,藪さんもストレス解消には良いと効果を認めていました。
  • 途中から安田さんはホワイトボードを使って説明。漢字は奥が深いですねぇ
  • 安田さんが,中国古典の『荘子』を引用して,「息を吐く」には,次の3種類の漢字があることを紹介。(あくびのような口で吐く),(「口」の横に「句」,環境依存文字です。「ウ」のように口を閉じて吐く。尼さんがよくやるとのこと),(H音の吐く)。漢字というのは奥が深いものですね。
  • 自身も能の舞台に立ったことのある内田さんの経験談。能の舞台は「ゼリーの中を動くよう」と感じたそうです。微細な抵抗感がある方が,皮膚は敏感に感じるとのこと。
  • ワキ方である安田さんの舞台の上での経験談。長く舞台上で待つことがあるが,最後の方でシテ方が動く時に「風」が起きるそうです。客席からは分からないが,それがとても心地良いとのこと。
  • 内田さんは,来年「橋弁慶」に出演予定。1年前から稽古を積んでいるそうです。藪さんの言葉「稽古を重ねた味」というのは必ずあります。
  • 安田さんによる,プロとアマの違いについての言葉。どちらが上ということは言えない。両方とも漢字にすると「糸」が含まれており,次のような違いがある。
プロ(玄人):「色々な色を染めて黒にする=何でもやれるのがプロ」
アマ(素人):「もともとある色を抜いていき,ピュアなものにしていく。自分の欠点を修正していき,自分らしさをなくそうとしていくのがアマ」
  • これを受けて,「無くしていっても残るのが個性ですね」と藪さんからフォロー。
  • さらにそれを受けて,安田さんから,「尽心」という言葉の説明。「尽=盡」という文字は,「上に乗っているものをきれいにして,それでも残っているもの」を意味する。最後に残ったものを取り出すのが素人の醍醐味である。
  • これらの言葉は,芸事全般に当てはまるのではないかと思いました。
というわけで,「脚気に効きます」という話から,中国古典や,漢字の成り立ちのお話まで,大変幅広い教養に溢れたお話になりました。実は明日,能楽を観る予定にしているので,それがますます楽しみになりました。

鼎談の後,サインをもらっている人がいたので,「もしも」のために持参してきた本にサインをいただきました。どうせならば,昨年発売された,以下のお二人による対談本を買ってくれば良かったかなぁと後悔しています。次の本です。

変調「日本の古典」講義 身体で読む伝統・教養・知性   http://amzn.asia/d/571rTKp


この鼎談の前後,能楽美術館のすぐ向かいにある,しいのき迎賓館裏で,「秋の空」という,とても楽しげな野外イベントをやっていたので,観てきました。本日は快晴で,親子連れで大賑わい。用事があり,ゆっくりできなかったのが残念。





しいのき迎賓館の中では,Technicsの高級オーディオセットで,アナログレコードを聞くイベントをやっていました。プログレッシブ・ロックを聞く会とのことでした。
 
ここまでは,鼎談の前。以下は鼎談の後です。少し夕方っぽくなっています。

アメリカ楓通りは,先週以上に赤くなっていました。

その後,一旦帰宅して,夕食を食べた後,もう一度ライトアップされた景色を見に来ました。
石川門は赤っぽいライトアップ。何かのメッセージだと思います。
 
 
 
このテントの中にはコタツ。「かまくら」の雰囲気があるので子供たちで賑わっていました。
  


実は,玉泉院丸庭園でプログレッシブロックに合わせてライトアップをするというのを目当てに観に来ました。




良い雰囲気は出ていましたが...少々プログレッシブ・ロックは重苦しい感じでした。というわけで,途中で抜け,せっかくなので,夜の21世紀美術館へ。

本日から新しいコレクション展「アジアの風景」が始まっていました。
この展覧会は,とても面白かったですね。特に展示室全部を使った,宇治野宗輝「プライウッド新地」というのが最高でした。色々なものをモーターで動かすようにセットアップした,巨大な「ピタゴラスイッチ」みたいな感じの展示がありましたが,リアルタイムでモーターの回転などを撮影した映像とロック風の音楽が一体になって,妙に引き付けられる空間を作り出していました。

調べてみると,YouTubeで一部公開されていました。が,これは実物をみないと面白くないと思います。
https://youtu.be/IMLaIYW0vcE

その他にも,いくつか映像作品があったので,また別の機会に観に来たいと思います。
最後はタレルの部屋で締め。さすがに少々疲れた一日でした。