2019年10月27日日曜日

宮下奈都×陸秋槎トークショー「小説を書くこと」を石川県立図書館で聞いて来ました。2人の作家の魅力が伝わってくるトークショーでした。サイン会も行われました。

本日は午前中から,金沢市内では大々的に金沢マラソンを行っていましたが,そちらの見物には行かず,午後から石川県立図書館で行われた,作家・宮下奈都と陸秋槎さんのトークショーに参加してきました。毎年,石川県立図書館で,この時期にミステリー系の作家を中心に小説家のトークイベントが行われるのは恒例になっていますが,今回は2人の作家が登壇する豪華版でした。

宮下さんの方はミステリー作家とは言えないので,この2人に一見共通点はなさそうですが,宮下さんは福井在住,陸さんは金沢在住。北陸在住の作家ということで共通点があります。以前,福井で行われた読書会でお二人は一度会っており,「陸さんとの対談なら」ということで,宮下さんは今回登壇されることになったとのことです。お話を聞きながら,お二人の書かれる小説の主人公には若い人が多いという点でも共通点があると思いました。

今回も県立図書館の職員の方の司会の方の出される質問にお二人が回答していく形でトークショーは進められました。以下,私が印象に残った点などを紹介しましょう。
# メモをもとにまとめたのですが,間違っている点や支障がありましたらご連絡くだささい。
ステージはこんな感じでした。
小説を書き始めたきっかけは?

  • 宮下さん:3人目の子どもがお腹にいたとき,「今しかかく機会はないだろう」と思って書きたくなって,書いてみたらとても面白かった。その作品(『静かな雨』)を「文学界」新人賞に送ったら佳作になり,そのままデビューすることになった。
  • 陸さん:大学時代,ミステリーにはまった。いくつかの雑誌に送っても不採用が続いたが,『元年春之祭』については出版社から連絡があり出版されることになった。

宮下さんの作品で好きな作品は?

  • 陸さん:『スコーレNo.4』。もともと美少女の話が好きだが,少女が大人になる小説では,いちばんだと思う。
  • 宮下さん:光文社の編集者から「好きなものを自由に」と依頼を受けて書いた作品。
  • 陸さん:ミステリーでは特別な人ばかり描写するので,普通の人を描写した物を読みたくなる。
  • 宮下さん:私の作品は「何も起きない」と言われがちだが,物足りなくないか?
  • 陸さん:エピソードが面白い。少年・少女が大人になる話が好きである。

その後,この作品の一部が宮下さんによって朗読されました。

陸さんの最新作『雪が白いとき、かつそのときに限り(雪白)』について

  • 宮下さん:魅力的なタイトル。(ネタバレにならないように注意しつつ)雪の日に殺人事件が起こる話だが,ミステリー的な部分だけでなく,少女たちが「友だち」という言葉をためらいがちに使うといった描写にキュンとした。(その後,宮下さんが『雪白』の中の好きな部分を朗読)
  • 陸さん:宮下さんの作品には,特別な人と平凡な人の対比がよく出てくるが...
  • 宮下さん:才能のある人が全部持って行くような作品を読むと,「そうでないだろう」と思う。才能のある人が出てくるとそれで納まってしまうので,才能を持った人は出てこないようにしている。
  • 陸さん:未成年は未来への不安を持っている。不安な気持ちを描きたいが,やり過ぎたかもしれない...。
  • 宮下さん:これを「やりすぎ」というと,この作品は成り立たないのでは...(といったところで,ネタバレになりそうだったのでストップ)。

影響を受けた作家は?

  • 陸さん:日本の新本格ミステリーの作家の影響を受けている。麻耶雄嵩(まやゆたか),中井英夫といった対照的な作家。青春小説では米澤穂信。
  • 宮下さん:何の影響を受けているかわからない。が,川端康成の『伊豆の踊り子』を読むとなぜか,小説を書きたくなる。山本周五郎も好き。最近の小説については,本当に好きになれる作品はないが,そういった作品を探しながら読んでいる。

人称について

  • 宮下さん:1人称が多い。3人称だときっちり書き切れないので,1人称になってしまう。
  • 陸さん:あまり何が良いか考えていない。1人称なら必要のない部分を書かなくて良い。

キャラクター作りについて

  • 陸さん:実在の人物はモデルにはしない。ミステリーは殺人が出てくるので。
  • 宮下さん:書きたいと思ったときに,その人物がいる。それをただ書いている。

音楽について

  • 宮下さん:音楽については,幅広く好きな音楽を使っている。好きな曲を使うと情熱がたまってくる。
  • 陸さん:音楽はどのジャンルも面白い。最近,シューベルトの最晩年の曲を聞いている。自分と同じ年なのに完成度が高く,すごいと思う。

場所について

  • 宮下さん:福井で書いていて良かったと思う。穏やかで暮らしやすい。金沢は福井に比べるとキラキラしていると思う。
  • 陸さん:北京で育った後,上海に移り,金沢に住んでいる。金沢は静かで住みやすく,執筆に向いている。日本語の資料については,石川県立図書館で調べることが多い。

『羊と鋼の森』について

  • 宮下さん:師匠と弟子の話を書きたいという構想が自分の中に長くあった。北海道十勝のきれいな場所に行って,「描写できない」と思った。音楽についても「描写できない」と思う。その2つが自然に合わさって出来た。
  • 陸さん:この作品の中では,原民喜の文体についての次の言葉が印象的。
明るく静かに澄んで懐かしい文体,少しは甘えているようでありながら,きびしく深いものを湛えている文体,夢のように美しいが現実のようにたしかな文体(#確かこの部分だったと思います)
  • 宮下さん:良い言葉だと思い手帳にメモしていたもの。私もこれを目指している。このことを音楽で目指す人の話にすることにした。ピアニストよりも,それを支える人に興味があったので,こうなった。映画版については,役者さんに恵まれた。上白石萌音・萌歌姉妹は高校に通いながら撮影しており,いじらしさを感じた。


新作について

  • 陸さん:ミステリーとファンタジーの両面のある作品を書いている。
  • 宮下さん:締め切りを設けず,好きなものを書いている。家族の小説になりそうだが,変わってくるかもしれない。

こういった感じで,楽しい話が続きました。その後,サイン会が行われたので,持参した本にサインをいただいてきました。


今後の予定ですが,陸さんは,奥さんの関係で,もうすぐ金沢を離れることになりそう,とのことでした。是非,金沢を題材にした作品(殺人事件でなくても良いので)を書いて欲しいものです。
来た時は雨でしたが,帰る時には晴れていました。