先日亡くなった,指揮者のマイケル・ティルソン・トーマス(MTT)さんをしのんで,本日はわが家にあるCDを聞いています。MTTといえば,私よりもかなり年上なのですが,「いつまでも若手」という印象があります。非常に明確で整理された音楽。老いとは無縁の新鮮さの漂う音楽を聞かせてくれていたので,その死が信じられないようなところがあります。
MTTの名前を最初に聞いたのは,1970年代中頃のガーシュインのラプソディ・イン・ブルーの録音です。ガーシュイン自身が演奏したピアノ・ロールにMTT指揮のジャズバンドがピタリと付けた演奏。ピアノ・ロールの方は容赦のないテンポ設定なので,猛スピードになっている部分もあり,MTT自身の意図とは違う部分もあると思いますが,その意地でもつけようという職員技が見事です。カップリングされている「パリのアメリカ人」でのしなやかに弾む感じが本来のMTTなのかもしれません。
このラプソディ・イン・ブルーをMTT自身のピアノの弾き振りでロサンゼルス・フィルと再録音したCDも持っています。こちらは正真正銘のお気に入りのCDです。上記の「ガーシュインとの共演盤」同様,ジャズバンド編成(一般的に使われているグローフェ編曲版よりは,もっとコンパクトな感じ)での演奏で,どこか粋でスマートな雰囲気に溢れています。その他,ガーシュインが作曲した断片的な作品などをMTTが復元したり編曲した曲が色々と入っています。メランコリックで甘い感じの曲があったり,ちょっとフランス音楽風の曲があったり,ガーシュインのピアノ曲の面白さと同時に,ピアニストとしてのMTTの素晴らしさも実感でいます。
もう一つ持っているのが,セント・ルークス室内管弦楽団を指揮した,ベートーヴェンの「英雄」交響曲です。こちらは数年前,中古音盤市でたまたま見つけて購入したものです。古楽器演奏が台頭してきた1980年代中頃に録音された現代楽器によるベートーヴェンなのですが,今聞いても古くさいところは全くありません。メリハリの効いた推進力のある演奏は,オーケストラ・アンサンブル金沢のベートーヴェンにも通じるところもあります。第1楽章終盤のトランペットが主題を演奏する部分は,オリジナルの楽譜だとメロディが途中で消えてしまうのですが,以前はここを「正しく」補うのが一般的でしたが,現在ではオリジナルどおり演奏するのが主流だと思います。この部分については,1980年代ということで,当時主流だったメロディを補った形で演奏しています。
最後に紹介したいのは次の本です。
潮博恵著『オーケストラは未来をつくる:マイケル・ティルソン・トーマスとサンフランシスコ交響楽団の挑戦』アルテスパブリッシング, 2012年
このコンビの演奏や活動に感銘を受けた,石川県立音楽堂のコンサートでの解説や司会でもお馴染みの潮さんが音楽面だけでなく,オーケストラの経営面や教育活動など多角的な角度からその素晴らしさをまとめた本です。実はこの本は潮さんからご恵贈いただいた本です。が,内容についてはほとんど忘れてしまっているので,MTT追悼の意味も込めて再読してみようと思っています。