音楽CDを40年ぐらい買い続けていると「なぜ買ったのだろう?」というCDが時々出てくるようになりました。昨日何となく手にしたのもそういうCDでした。
「Music an europäischen Höfen」というタイトル。「ヨーロッパの宮廷の音楽」といった感じでしょうか。曲目も解説もすべてドイツ語で書かれた輸入盤(多分中古盤で購入)で次の4曲が収録されています。
- ハイドン/交響曲第39番ト短調,Hob-1:39
- クヴァンツ/フルート協奏曲ト長調,QV5:174
- ハイドン/交響曲第34番二短調,Hob-1:34
- ボッケリーニ/交響曲第6番ニ短調,op.12-4
指揮はThomas Feyという人でオーケストラはHeidelberger Sinfoniker。フルート独奏はAndreas Schmidtという方でした。それにしても「何で買ったのだろう?」
曲目的には古典派時代の短調の曲を集めた,シュトルム・ウント・ドランク(疾風怒濤)風のドラマティックな雰囲気を持った音楽集という感じです。ただし古楽奏法のせいか,暗く沈み込む感じはなく、1曲だけ長調のフルート協奏曲をはじめ、どれもとても瑞々しい音楽。というわけで、普通に良いCDです。ただし,なぜ買ったのかがどうしても思い出せません。
そのうちに、ボッケリーニの交響曲に標題が書かれているのに気づきました。
「La casa del diavolo」。イタリア語です。casaは「家」だなと思いつつ、翻訳ソフトで調べてみると「悪魔の家」だと判明。
「そういうことか」と思い出したのが,この副題の曲について故岩城宏之さんがエッセー集の中で何か書いていたことです。オーケストラ・アンサンブル金沢の(定期公演以外の)演奏会でも一度聞いたことがあるような気がしてきました。というわけで我が家の蔵書を調べてみると....2004年に刊行された『音の影』に掲載されていることが分かりました。
この本は,辞書のような感じでAから順番にそのイニシャルの作曲家について岩城さんがエッセーを書いた本で(岩城さんの得意なスタイルですね)、Bの項目が「ボッケリーニ 地下鉄サリン事件と『悪魔の家』」となっています。
イラストはおなじみ,和田誠さん |
ただし...結構ゆるい企画で「作曲家にはBが多いので」という理由でBの項目が11も並んでいるのも,岩城さんらしいところです。
そのエッセーの中には,地下鉄サリン事件の頃、ニュース映像に合わせてボッケリーニのこの曲が印象的に使われていたこと。その曲を数ヶ月後,偶然都内のクラシック喫茶で聞いて曲名が分かったことなどが軽妙なタッチで書かれています。
「悪魔の家」という標題自体,オウム真理教の宗教施設(サティアンという名前でしたね)と重ねてしまいます。岩城さん同様,ニュース番組の音楽担当者がどういう経緯でボッケリーニのこの曲を選んだのか気になりますが(このサティアンを思わせるタイトルが理由なのかもしれません),その後,この曲は頻繁に演奏されるようなメジャーな作品にまではなっていないようです。知る人ぞ知る作品といったところでしょうか。
いずれにしても地下鉄サリン事件から丁度30年の時期に「悪魔の家」のCDをたまたま手にしたというのも何かの因縁なのかもしれません。このCDを買った経緯は,たまたま中古CDの中にボッケリーニの「悪魔の家」が入っているのに気づき,購入したような気がしてきました。色々な記憶を風化させないためにも,今日は岩城さんの本を読みながらこの曲を聞いてみたいと思います。