今年の正月,フジテレビで三谷幸喜脚本による「オリエント急行殺人事件」を2晩連続で放送していました。その1日目の方は,1974年に作られたシドニー・ルメット監督による映画版をかなり忠実になぞっているということなので,レンタル・ビデオ店でDVDを借りて,土日に見てみました。
ルメット版は,かなり以前にテレビで観た記憶はあるのですが,まさにオールスターキャストで,オリエント急行自体の持つ,インターナショナルでセレブな気分がたっぷりと表現されていました。 リチャード・ロドニー・ベネットによる音楽は,オーケストラをたっぷりと鳴らしたワルツが中心です。これに合わせて蒸気機関車が走るのは,独特の優雅さと高揚感があります。1930年代の雰囲気にもぴったりでした。
実は,NHKで放送していたデヴィッド・スーシェによる「名探偵ポワロ」シリーズの中の「オリエント急行」も借りてみたのですが,こちらの方はやけに暗い内容で(途中で寝てしまった...),しっかりと見ないうちに返却してしまいした。
***以下,ネタにも関係するので,観ていない方は読まない方が良いでしょう。***
今回,ルメット版を観て思ったのは,「12人」に意味があるということです。シドニー・ルメットは,陪審員裁判を描いた舞台を映画化した名作「12人の怒れる男」の監督として知られていますが,「オリエント急行」も,12人の乗客による復讐劇という点で共通する部分があります。映画の中にも,「12」への拘りを感じさせるセリフがあったのた印象的でした。
ちなみに三谷さんも,初期に「12人の優しい日本人」というパロディ風の作品を作っていますね。この作品はとてもよく出来ているので,再演に期待しています。
両作品とも,最後に全員を集めて,ポワロが謎解きをする場面で終わります。このちょっと「水戸黄門」的なパターンと「全員勢揃い」という豪華な雰囲気も良いですね。
配役は,Wikipediaに細かく説明が書かれていたので,それをコピー&ペーストして,両者役名を比較してみました。きっと,三谷さんは,苦心しつつも楽しみながら日本人の名前を考えたのではないかと思います。こういうセンスは大好きです。
●エルキュール・ポアロ 勝呂武尊(すぐろたける)
俳優:アルバート・フィニー →野村萬斎
ベルギー出身の名探偵。オリエント急行で旅行中に殺人事件に巻き込まれる。
ポアロとスグロですね。原作では,ラチェットがポイロと読み間違えるシーンがあるのですが,三谷版でもスグロをスギロと読み間違えていました。エルキュールというのはヘラクレスのことだと思うので,その連想から武尊にしたのかもしれませんね。
●ラチェット・ロバーツ 藤堂修(とうどうおさむ)
俳優:リチャード・ウィドマーク→佐藤浩市
殺人事件の被害者。裕福なアメリカ人。
これは名前のつながりがよく分かりませんでした。
●ヘクター・マックイーン 幕内 平太(まくうち へいた)
俳優:アンソニー・パーキンス→二宮和也
被害者の秘書兼翻訳。アメリカ人青年。
ルメット版の役者は誰だろうと思って観ていたのですが,ピチコックの「サイコ」で有名になったアンソニー・パーキンスでした。幕内平太というのは,苦心のネーミングですね。
●エドワード・ヘンリー・マスターマン 益田悦男(ますだえつお)
俳優:ジョン・ギールグッド→小林隆
被害者の執事。イギリス人。
ルメット版のジョン・ギールグッドは,「いかにも執事」という雰囲気で最高です。
●アーバスノット大佐 能登巌(のといわお)大佐
俳優:ショーン・コネリー→沢村一樹
ショーン・コネリーと沢村一樹は,セクシーな雰囲気(?)が共通点でしょうか。
●メアリー・デベナム 馬場舞子(ばばまいこ)
俳優:ヴァネッサ・レッドグレイヴ→松嶋菜々子
バグダッドで教師をしていたイギリス人女性。
ヴァネッサ・レッドグレイヴは,映画「ジュリア」に出ていた人ですね。メアリー→舞子というのは,結構苦心した感じです。
●ナタリア・ドラゴミノフ公爵夫人 轟侯爵夫人
俳優:ウェンディ・ヒラー→草笛光子
老齢のロシア人貴婦人。
この役は草笛さんしかないという感じです。ドラゴミノフとトドロキというのも,語感の雰囲気がよく合っていますね。
●ヒルデガルド・シュミット 昼出川澄子(ひるでがわすみこ)
俳優:レイチェル・ロバーツ→青木さやか
ドラゴミノフ公爵夫人のメイド。中年のドイツ人女性。
ルメット版を見てみると,既に青木さやかが出ているのかと思ってしまいました(大げさですが)。ルメット版の雰囲気で配役をしたのかもしれません。それいしても,「ひるでがわ・すみこ」という名前には笑ってしまいます。
●ハリエット・ベリンダ・ハッバード夫人 羽鳥夫人
俳優:ローレン・バコール→富司純子
中年のアメリカ人女性。おしゃべり好きで騒がしい。
ローレン・バコールと富司純子の雰囲気もよく似ていると思います。ハバード→羽鳥というのも巧いネーミングですね。
●グレタ・オルソン 呉田(くれた)その子
俳優:イングリッド・バーグマン→八木亜希子
中年のスウェーデン人宣教師。アフリカに伝道するための資金集め旅行から帰ってきたところ。
イングリッド・バーグマンが結構地味な役で出ているのが驚きです。呉田軽穂(=松任谷由実)と同じ発想で付けた感じですね。
●ルドルフ・アンドレニイ伯爵 安藤伯爵
俳優:マイケル・ヨーク→玉木宏
ハンガリーの外交官。
アンドレとくれば安藤しかなさそうです。マイケル・ヨークは,この映画と同じ頃「三銃士」に出て人気があったのではないかと思います。
●エレナ・アンドレニイ伯爵夫人 安藤伯爵夫人
俳優:ジャクリーン・ビセット→杏
アンドレニイ伯爵の若くて美しい夫人。
アンドレニイ,アンドウ,アン と語呂が良いですね。
●サイラス・“ディック”・ハードマン 羽佐間才助(はざまさいすけ)
俳優:コリン・ブレイクリー→池松壮亮
スカウトマンと称するが、実はピンカートン探偵社に勤める探偵。
これは,なかなか巧くつけましたね。池松君は,「新選組!」の続編みたいな番組以来,三谷さんの作品によく出てきますね。
●ジーノ・フォスカレッリ 保土田民雄(ほとだたみお)
俳優:デニス・クイリー→藤本隆宏
シカゴで車販売をしている陽気なイタリア人。
三谷版では,博多出身だったと思います。博多=イタリアでしょうか?
●ピエール・ミシェル車掌 三木武一(みきぶいち)
俳優:ジャン=ピエール・カッセル→西田敏行
フランス人車掌。会社重役のビアンキや一等客室の乗客たちにも顔が知られているベテラン車掌。
「ミ」だけ一致していますね。
●コンスタンティン医師 外科医・須田
俳優:ジョージ・クールリス→笹野高史
ギリシャ人医師。
コンスタンティンの中の「スタ」を使っているんですね。
●ビアンキ 莫(ばく)
俳優:マーティン・バルサム→高橋克実
国際寝台車会社の重役。
ルメット版ではビアンキという名前ですが,原作ではバークとなっているので,原作の名前から付けたのだと思います。
今回の野村萬斎さんの「勝呂」の演技は,和製ポワロとしては最高だったと思うので,是非,日本に舞台を置き換えた別の作品で観てみたいですね。とりあえずは「いろは殺人事件」でしょうか。古畑任三郎も和製コロンボという路線だったので,かなり期待できるのではないかと思います。