2015年1月28日水曜日

1/31公開 映画「マエストロ!」の試写会に行ってきました。「運命」「未完成」ばかり演奏していましたが,とても面白い作品。オーケストラ好きなら楽しめます。

北陸朝日放送主催の映画「マエストロ!」の試写会に応募したところ当選したので(試写会に行くのは「武士の家計簿」以来です),本日,イオン金沢の映画館で行われた試写会に参加してきました。

映画の内容は,解散したオーケストラの再結成の話です。その仕掛け人が西田敏行演ずる,一見怪しいけど凄いマエストロです。若いコンサートマスターが松坂桃李,第1フルート奏者がMIWA。この3人が主要登場人物ですが,「落ち目のオーケストラ」のメンバーを演ずる地味で渋い脇役たちもそれぞれに個性を発揮します。

映画のクライマックスが「コンサート」ということで,「のだめカンタービレ」の前半(桃ヶ丘編)と重なるような部分もあるのですが,登場人物の年齢層が高めで,メンター役が西田敏行である点が大きく異なる点です。

「のだめ」の竹中直人も今回の西田敏行も,かなりマンガ的なのですが,西田敏行の演ずる,天道徹三郎の方にリアリティがあり,タイトルどおりの「実はすごいマエストロ」の雰囲気を感じさせてくれました。

コンサートで演奏する曲が「運命」「未完成」というクラシックの王道のような2曲ということで,そのリハーサルの様子がこの映画の見どころでした。各奏者のキャラクターを鮮やかに浮き上がらせており,音楽ドラマであると同時に人間ドラマになっているのが面白いと思いました。

仲の悪いオーボエとクラリネット。実直そうなホルン奏者。トップ奏者から第2番奏者に回されたフルート奏者...各パートの奏者の苦悩についてのエピソードを描きつつ,西田マエストロの凄さを絡ませるあたり,巧いなぁと思いました。この脇役のエピソードの中では,自信を失っている年配の第1ヴァイオリン奏者が...あまり書くとネタバレになるのでやめておきましょう...が印象的でした。

いきなりプロのオーケストラに参加することになった,miwaが演じる若いフルート奏者あまねも大変魅力的でした。「未完成」の第2楽章のフルートの演奏の部分がかなり長く出てきましたが...素直に感動してしまいました。音楽の力は凄いなぁと思いました。それとmiwaさんの声自体にどこかフルートの音の明るさと通じるような軽やかさがあり,ドラマが重くなり過ぎないようにしていました。miwaさんの関西弁の心地よさと相まって,一気にmiwaさんの方のファンになってしまいました。

松坂桃李が演じる若手エリート・コンサートマスター,香坂真一役も雰囲気にぴったりでした(「のだめ」の千秋と同じ”真一”という名前は偶然?)。香坂は天道とは少し複雑な関係があるのですが,そのことが終盤のポイントになります。演奏の場面では,やはり「未完成」の第2楽章に何回か出てくる,「オクターブ上昇するフレーズ」がポイントになります。この映画を観ると,「未完成」の第2楽章をじっくり聞きたくなると思います。

この映画が面白かったのは,これらのオーケストラの個々のメンバーのキャラクターや演技の面白さが大きかったのですが,やはり,何と言っても西田敏行の大黒柱のような存在感が大きいと思いました。怪しいのだけれども,オーケストラの音を変えていくその手腕にリアリティを感じました。プロ野球の監督を務めていた野村克也さんが,ベテラン選手をうまく使って,「野村再生工場」とか呼ばれていたことがありますが,そのことを思い出しました。

というようなわけで,オーケストラを舞台とした群像ドラマで,「のだめ」ほどにはコメディ味が強くない,渋いけれども爽やかな人間ドラマ,といった作品でした。挿入されるクラシック音楽の多彩さでは「のだめ」には負けますが,この映画の方もまた,オーケストラ音楽の好きな人ならば,どなたでも楽しめる作品だと思います。

天道の語る言葉では,映画のCMでも使っていた「誰かと響き合えた時,その瞬間は永遠になる(不確かですが)」といった言葉がいいなぁと思いました。音というのは,すぐ消えていくはかないものですが,その一瞬が永遠になる...といった言葉は,音楽好きにとっては「殺し文句」ですね。恐らく,さそうあきらの原作にも出てくる言葉だと思うので,こちらの方も確認したくなりました。

この映画には,オーケストラを構成する多彩なキャラクターが出てきますが,それらをしっかりと描き分けていたのが何より面白い点でした。誰が見ても感情移入できる人物が一人ぐらいはいたのではないかと思います。試写会に参加した者には,「良い点を広める」という役割があるのですが,この作品は,誰が見ても楽しめる部分のある作品だと思いました。

PS. 天道の奥さんの若い頃を,中村ゆりさんが演じていました。中村さんは,昨年の「花子とアン」で村岡印刷さんの先妻役で登場していましたが,その時同様,「病院の中」が似合うなぁと思いました。

PS. 映画の最後に出てくるテーマ音楽は,辻井伸行さんが担当しています。途中からオーケストラの音が加わっていましたが,その音は,きっと,オーケストラ・アンサンブル金沢ですね。確かサントラ盤の演奏に加わっていたはずです。