2019年10月23日水曜日

ロバート・キャンベル講演会「終わりから始まる物語:日本文学から見つめる社会・文化のあり方」を石川県立美術館で聞いてきました。とても分かりやすく,新鮮な視点を感じることができる内容でした。

本日は,午後から休みを取って雑用を片付けた後,石川県立美術館で行われたロバート・キャンベルさんの講演会を聞いてきました(正直に言うと...講演会が主目的で雑用は後からくっつけたのですが)。

キャンベルさんは民放のテレビのクイズ番組などにもタレントのような感じでよく出演されていますが,本職は日本文学の研究者で現在は国文学研究資料館の館長も務められています。今回のテーマは「終わりから始まる物語:日本文学から見つめる社会・文化のあり方」で,キャンベルさんの本職のお話をうかがえるのを楽しみに出かけてきました。

キャンベルさんは,新聞などにもよく文章を書かれていますが,いつも情報がしっかりと整理されていて,ポイントが分かりやすいなぁといつも思います。今回のお話も具体的かつ大変分かりやすい内容でした。

内容は大きく次の3点に分けられました。(1)今回金沢の美術館,博物館で見た資料について,(2)国文学研究資料館の紹介,(3)演題についてのお話。以下,箇条書きでご紹介しましょう。

1 今回,金沢の美術館,博物館で見た資料について

  • 今回は北陸新幹線ではなく飛行機で来たので,少し早めに石川県立美術館に到着。「枕草子」の写本(尊敬閣文庫のものだと思います)の展示など,素晴らしいものを展示していると感じた
  • 日本では,自然災害などが多いにも関わらず,他の国に比べると,紙に書かれたものを処分せず,きちんと残っていることが多いのが素晴らしい
  • 「何が本当か?」フェイクニュースという言葉がよく聞かれる時代になり,時を超えて真実を伝えているものに触れたいと思い,最近,美術館に足を運ぶことが増えた。
  • 石川近代文学館では次の展示物を見た。許可を得て撮影した写真がスライドで紹介されました。


  1. 泉鏡花「歌行灯」自筆原稿:キャンベルさんはこの作品が好きとのこと。原稿には「見せ消し」の書き込みが多く,作家の「思い」が伝わってくるとのコメント
  2. 泉鏡花「婦系図」自筆稿本
  3. 徳田秋聲「猫」自筆原稿:キャンベルさんは秋聲も好きとのこと。この「猫」という短編は,猫を描きながら自分の女性関係(?)を書いたような面白い話とのこと。ちなみに,キャンベルさんは大変な猫好き。猫と書斎は相性が良いのでは,という説を述べられていました

こういう形で紹介されると,どれも読んでみたくなりますね。今後,鏡花記念館や秋聲文学館でもキャンベルさんを招いていただいても良いかも...と思いました。

ちなみに,石川近代文学館にあった,展示テーマ関連のガチャガチャ(「恋」をテーマにしたもの)。国文学研究資料館でもできないか検討してみるとのことでした。

2 国文学研究資料館(国文研)について

  • 日本文学について,単独の大学では行えないような共同研究・調査・事業などを行っている,立川にある国の研究機関。
  • 日本文学については,「国書総目録」に50万タイトル(冊ではありません)ぐらい作品が収録されているが,これに入っていないものが毎日のように発掘されている。国文研では,そういったものをアーカイブ化し,Webから利用できるようにしている。
  • 日本文学の特徴は,絵が入っているものが多く,絵と文章が一体化していること。これは,マンガやアニメにつながっている。
  • 国文研で作っている新日本古典席総合目録データベースを是非使ってみてください。その後,いろいろな機能や使い方を紹介。


  1. くずし字と翻刻されたテキストとのリンク
  2. 画像タグが付けられている作品については,例えば動物名を入れると,その画像が出てくる。年賀状の素材にも使えます,という分かりやすい説明。
  3. 手書きで描いたスケッチから検索する機能。オンライン版ではまだ使えないそうですが,楽しそうな機能です。

江戸時代のレシピ本を元に実際にデパ地下で作ったというようなお話もされていましたが,「実際の研究が多方面に役立ち,知的な好奇心を広げてくれるのだなぁ」ということを実感。今後,こういうアピールを行っていくことも大学や研究機関は必要なのではと改めて思いました。

(3)演題についてのお話
日本文化の中では,「しめきり」が見えたときに想像力が発揮されているような事例が多い,ということで次のような例が紹介されました。


  1. 2020オリンピック・パラリンピックの東京開催が決まった2013年9月時点のツィート:文学ではなく,SNSに注目される着目点が素晴らしいと思いました。その中で「2020というリミットが,色々なことの目標になるのは良いこと」といった真面目なツィートが多かったとのこと。
  2. 豊島与志雄『明日』(1938)という短編:明日の予定を待つのが嫌いな人の話
  3. 橘曙覧『独楽吟』:「たのしみは」で始まり,「.....のとき」で終わる形式で詠んだ和歌を集めた歌集。この方もリミットが嫌いな方だったようです。それにしても,「笑点」のお題のような感じですね。
  4. 中江兆民『一年有半』(明治34年):余命を告知された後,兆民が描いた作品。
  5. 井上陽水『背中まで45分』:キャンベルさんの最新の著作井上陽水英訳詞集の中に含まれている詞。お話を聞きながら,「井上陽水の詞は良いなぁ」と実感。詳細は...キャンベルさんのこの本をお読みください。

まとめると有限の枠組みの中で力を発揮する人と縁が見えないことで自由に過ごせる人の2種類居るということでしょうか。私はどちらかというと,前者のような気がします。

最後に質疑応答がありました。井上陽水さんの詞の英訳についての苦労話についての質疑応答が特に面白かったですね。もともと意味が曖昧な(陽水さんの場合,そういう「揺れ」「余白」が特に多いそうです)詞について,読み手がそれぞれの思いを感じることができるように残しておくことが難しいと同時に楽しかったとのこと。この本,是非,読んでみたいですね。

というわけで,キャンベルさんには,是非また金沢の美術館や博物館めぐりをしていただきたいなぁと思いました。