この展覧会は,昨日観てきました。脇田和は,石川県にも縁のある画家で,数年前に石川県立美術館に300点以上の作品の寄贈を受けています。その所蔵作品を,同時代に活躍した親交のあった画家の作品と組み合わせて展示するというのが趣旨ということになります。その第1弾が猪熊弦一郎でした。
昨日の写真。快晴でした。 |
この2人は,ほぼ同時代に活躍した洋画家で,抽象画と具象画の中間的な作品を描いた点で共通するのですが,実際に観てみるとかなり作風が違います。その辺についての話を聞いてみたいと思い,聞きに行くことにしました。
木島さんは現在80歳で,講演の以来を受けるかどうか迷ったそうですが,生前この2人とつき合いのあった人も少なくなりつつあるので,引き受けることにしたとのことです。それと,「金沢が好き」というのも理由とのことです。講演は,実際に直接2人に接した人でなければ語れない内容が満載で,とても面白いものでした。その概要を紹介しましょう。
■2人のポジション
- 両者とも,具象と抽象の中間をキープした画家。
- 抽象画については,作者自身も知的に分かっていないものなので,他人が説明するのは難しい。
- 2人の作品についても,観れば楽しめる。「好き」「嫌い」で判断すれば良い。
■2人との出会いと1960年代のニューヨーク
- 1964年,木島さんがニューヨークに留学した際に,猪熊氏に初めて会った。その時,脇田氏の次男とも知り合いになった。
- 当時,グリニッジ・ヴィレッジに住んでいた。当時のニューヨークは音楽,演劇なども盛んで,いちばん良い時代だった。
- 売れる前のボブ・ディランがいたり,すぐ近所にピーター・ポール・アンド・マリーが住んでおり,熱心に練習していたり,小澤征爾がジャズのベニー・グッドマンと共演していたり,オノ・ヨーコのコンサートに参加したり...
■2人の作品の作り方は対照的
- 脇田と猪熊の作品の作り方は対照的
- 脇田は東洋的・日本的。脇田の無意識の世界が絵になって現れたような作風。
- 脇田が情熱を持って接したモノが無意識の中に沈殿し,心の中で昇華された上で,それが絵に出てきている。(例)気に入った靴が無意識に沈殿。それが鳥の絵になって出てきている(木島さんの考え)
- 猪熊の方は,西洋的。キリスト教の神は,世界の外側で世界を作り,その中に色々なものが出てきている。猪熊の作風もこれと同様。
- 色々なもの(混乱)が出てきた後,それらが弁証法的に止揚してさらに高まったもの(秩序)が出てきている。「混乱と秩序」が猪熊の絵を説明するのに一番良い言葉。
■色彩の作り方も対照的
- 脇田は出したい色を混ぜて作る人。猪熊は生に近い色でコントラストの強い画面を作る人 # 私も実際に絵を観て,そのとおりと思いました。
- 猪熊は生の色を並べて,ぶつかり合いの効果を出している。
- 脇田は不透明の絵具をベースに塗った上に,透明な絵具を重ねている(おつゆ描き)。または,下の地色が見えるように硬い筆でカスレを出すように描いている。# 脇田の絵は,「カスカスの感じがするなぁ」と思っていたのですが,説明を聞いてなるほどと思いました。
- その後,木島さんは「色即是空,空即是色」という言葉を引用して,脇田の作品を説明しました。「脇田の作品は色々なもので成り立っているが,突き詰めると心(=無意識の世界)に行き着く=多即一」とのこと。
- さらに「分節」という用語を使って,「鳥とか靴とかいろいろなモノがあるが,すべて脇田の心が「分節」して込められたものである」と説明。この辺は結構難解でしたが,言われてみれば,脇田の作品には,どの作品にもベースになる似たトーンがあると感じます。
- 猪熊作品については,「水晶が互いを照らし会って,無限のものを表現している」といった説明をされていました。多様性と一貫性という点で,共通するものがあるのではと感じました。
■実際の作品をスライドで
- 最後に,お二人の作品を時代順にスライドでざっと観ました。
- 猪熊は非常にデッサン力があった。そのことが深さにつながっている。留学時には,ピカソとマチスに出会い,特にマチスの影響を受けた。
- 脇田は,身近なモノをテーマにした人。そのどれもに脇田が出ている。
- 猪熊はニューヨークに移住して,作風が変わった。大都市の混乱と秩序を描き,幾何学的に整理されていった。# 今回も展示されていた,この時代の抽象度の作品はどれも垢抜けていて,すっかり気に入りました。
- ○△□という基本的な形で抽象化している点で,禅に通じるものがある。
■最後に
- 脇田は,自分の好きなものに執着してそれを集め(木島さんがテヘランで買ったクツを脇田さんがすっかり気に入り,1足(左右セットの片割れだけ)取られてしまったそうです)
- 猪熊さんは,ごちゃごちゃしたものから秩序を生む人。丸亀にある猪熊弦一郞美術館も,猪熊のおもちゃ箱のよう。子供が喜ぶ美術館とのこと。#話を聞いて,一度行ってみたくなりました
- 2人は,それぞれ,あるがままに描いた。そして,アートという形でそれぞれの生き方を見せてくれた。美を感じるのは個人だが,それは幸福への誘いである。
間違っている部分もあるかも知れませんが,お二人に直接会ったことのある方だからこそ語ることのできる味わいのあるお話でした。展示の方ももう一度観たいものです。