21美の館長は2年前の4月に,秋元雄史さんから現在の島敦彦館長に交代になりましたが,秋元館長時代,ご自身が気軽に語るという企画は意外に少なかった気がします。というわけで,今回のトーク企画は,3年目を迎えた「島館長らしさ」をアピールする面白い内容でした。
「シマ缶」シリーズの内容は,チラシによると「美術史,美術館のこと,これまで見た展覧会のことなどについて,島館長が語った後,後半は来場者からの質問に応える」というものです。今回は第1回ということで,現代美術についてのいくつかの切り口を示した後,島館長が見てきた海外美術館の特徴的な作品を紹介するというものでした。
大学の講義のような感じできっちりと説明するというよりは,ゆるい雰囲気でスライドを説明しながら,いつのまにか「なるほど」と思わせてくれるようなお話しでした。トークの中で色々とキーワードや固有名詞が出てきましたので,それをたどりながら,内容について紹介しましょう。
■赤瀬川原平「宇宙の缶詰」
まずこの作品についての紹介がありました。
- カニ缶の内側にラベルが貼られた作品
- 「世界」の方が缶詰の内部になるという作品
- 「シマ缶」の由来がこれのようです。
# 現代美術はコンセプトが特に大切ということですね。
赤瀬川さんは「千円札事件」で逮捕されたことがあるが,そのことを素材にして,また別の作品を作っている。
■現代美術と表現の自由
(1)大浦信行氏による昭和天皇の肖像を使ったコラージュ作品
右翼団体等から多数の批判を受けた問題。その後,「富山県立近代美術館問題」と呼ばれる事件へと発展
(2)木下直之「股間若衆」
極度に激しい表現がある場合,展覧会でゾーニングを行うことがある。この作品(#どの作品かよく分からなかったのですが...)の展示の時には,ゾーニングを行ったにも関わらず警察が来た。100年前の状況とあまり変化はないようだ。
(3)吉開菜央「Grand Bouquet」
ビデオ作品。途中数秒「刺激が強いので見せないでくれ」と依頼があった作品
■街中での作品展示
美術館というのは権威である。それにおもねらず,美術館の外に出ようという動きもある。(例)昨年,21美で行った「東アジア文化都市」
ベルギーのゲントの街中でヤン・フートが行った”Chambles d'amis"が街中展のきっかけ
■難しい用語・反骨精神
奈良美智「Agent Orange」
- この言葉にはベトナム戦争での「枯葉剤」という意味とパンクロックバンド名の2つの意味がある。
- 奈良氏の作品にはロック音楽のような反骨精神が流れているのでは。
次のような美術館で所蔵する作品などをスライドで紹介
フィラデルフィア美術館
- セザンヌ「大水浴図」
- マルセル・デュシャン「泉」(1917/1964)
- ゴッホのコレクション
- マルタ・パンの野外彫刻
- デュビュッフェ
- ルーチョ・フォンタナ(#この方の作品,大原美術館にもありますね)
- ジャコメッティ
40年かけて増設していった,雰囲気が素晴らしい美術館
- デュビュッフェ
- サム・フランシス
1989年,ベルギーでヨーロパリア・ジャパン89という日本紹介プログラムが行われた
# この時,創設したばかりのオーケストラ・アンサンブル金沢もこのプログラムに参加していたはずです。
- パナマレンコ
- 川俣 正(廃材を使った作品。昨年,金沢でも展示あり)
- 森村泰昌(人物画の名画に自分が扮したパロディ作品。# ゴッホの自画像については,個人的には,森村氏によるパロディの方になじんできているかも)
- 青木野枝
- 戸谷成雄
- 中原浩大
■質疑応答
後半は質疑応答になりました。参加者にポストイットに質問を書いてもらい,それを回収。類似の質問を整理して,その中から島館長が回答するような形でした。
- 好きな作家は? 回答は難しい。「興味深い」なら答えられる。
- 現代美術に精神性や宗教性のようなものはあるのか? 作家にもよるし,時代にもよる。(例)バーネット・ニューマンの単色絵画は「崇高」「宗教的な感覚が感じられる」と言われている
- 日本の美術館でお薦めは? 豊田市美術館(谷口吉郎設計,レゴで作った面白い作品がある),丸亀市猪熊弦一郞現代美術館(こちらも谷口吉郎設計),富山県美術館,川村記念美術館(千葉県佐倉市),品川にある原美術館は閉館予定だが,その前に見ておいた方が良い
- 現代美術作品の価格はどう決まる? 欲しい人の多さで決まるのは,古い作品と共通。有名作家については高止まりしている。やや異常な状況である。
- 美術館の作品は誰が選んでいる? 21美の場合,展覧会を行う際に,その作家から,買えるものを買うことが多い。どの作品を購入するかについては,収集委員会で検討している。
- 現代美術についてはどうすれば詳しくなれる? 勉強するしかない。文字を読む前に実物を見れると良い。経験の積み重ねで知識を広めるのが良い。美術館から帰ってから勉強すると良い。
- 21美ならではの作品は? インスタレーション作品(ある特定の室内や屋外などにオブジェや装置を置いて、作家の意向に沿って空間を構成し変化・異化させ、場所や空間全体を作品として体験させる芸術(ウィキペディア))である。国内の美術館では,(何かとめんどうな)インスタレーション作品を所蔵しているのは21世紀美術館ぐらいである。
- 現代美術の面白さとは? よく分からないところが多いこと。実は「分かったふり」をしていることも多いし,「判断を保留」している作品も多い。アイデアは良いが好きになれない作品などもある。ただし,体験が深まると判断が変わることもある。長いつきあいをすることが大事(# その後の質問で「同じ人の作品は3回見ないとだめ」と答えていました)
- 嫌いな作品でもコレクションすべき? そういう場合もある。熱意のある学芸員の感覚を大切にしている。館長が押しつけるのは良くない。
- 21美の展望は?どんな展示をしたい? 入館者数はこれ以上増えなくても良いだろう。展示については,学芸員に任せたい。
- 館長の普段のお仕事は? 会議,ハンコに加え,職員の相談に乗ったりしている。自分自身「怒れない人」である。気軽に相談できるように,館長室のドアは半分開けている。