2022年3月21日月曜日

本日は,金沢21世紀美術館コレクション展「BLUE」関連プログラムとして行われた小林康夫さんによる講演会「青の美術史」に参加。少々難解な部分もありましたが,「青へのこだわり」を起点にポエジーが沸き上がってくる21美にぴったりの内容でした

本日は,金沢21世紀美術館で現在開催中のコレクション展「BLUE」の関連プログラムとして行われた小林康夫さんの講演会「青の美術史」に参加してきました。

「BLUE」という展覧会は,21美のコレクションの中から青色を効果的に使った作品を集めた展覧会で(非常に雑な説明ですが...),深く考えずに見ても,単純に面白いなぁと実感できるような展覧会だと思います。そのことに加えて,以前から小林康夫さんのお名前には馴染みがあったので(1990年代前半に話題になった東大のテキスト『知の技法』の編者として馴染みがありました),一度,お話を聞いてみたいと思い聴きに行くことにしました。

この講演会を聞いて,美術史的に見て青が特別な色だったこと,21美にとってもポイントとなる色であること,現代のアーティストの多くにとってもこだわりのある色であることが実感できました。そして,こんなに色々と深読みできるのだなぁと感心しました。色々な美術作品をじっくりと鑑賞してみたくなるような,刺激的な内容だったと思いました。

「講演会」ということでしたが,普通の講演会とは一味違っていました。まず最初に小林さんご自身が青について語っている過去の動画を流したり,途中からは「BLUE」の担当キュレーターの横山さんとの対談になったり,色々な「小道具」を持ってこられたり...「21美に来たからにはただの講演会にはしないぞ」という思いが溢れる内容だったのも素晴らしいと思いました。

今回,小林さんが講演されることになったきっかけは,小林さんが「青の美術史」という著作を書かれていること,キュレーターの横山さんが小林さんの教え子であるという「つながり」があったことによります。それに加え,小林さんと21美館長の長谷川祐子さんとのつながりもあります。小林さんが「青」に注目する原点となったのが,1992年に水戸芸術館で行われた「Another World」という展覧会でした。その担当キュレーターが長谷川さんだったそうです。というわけで,今回の講演会の「本当のタイトル」は「Another World, Again: 21世紀の「青の歴史=時間」のために」であることが,ここで明かされました。

講演に先だって流された動画の中で小林さんは,次のような「青についてのエッセンス」を語っていました。

  • 青は,「憧れの青」であると同時に「カタストロフィ的な恐怖の青」であり,二重のまなざしをもつことが必要
  • 青は色を越えた特別な色として機能してきた

・・・なかなか難しかったのですが,その後,小林さんのお話を聞いているうちに,その特別さが何となく理解出来ました。

講演会の内容は,当初予定していた美術史的な話は少なめにし,21美の恒久展示(コミッション・ワーク)の話や現在開催中の「BLUE」展に出品されている作品の話に焦点が当てられました。「本に書いたことはしゃべらず,21美の展示を見て何を考えたか」という学びのスタンスで話をしたいとのことでした。

ただし,「青の美術史」についての歴史的なお話も大変面白い内容でした。

  • 伝統的にラピスラズリなどの青の絵の具は高価で,1300年代のジョットの作品が原点
  • フラ・アンジェリコの「受胎告知」では,聖なる色としての青が聖母マリアの衣装に使われている
  • ロマン主義のフリードリヒの時代になると,ロマンティック・ブルーと呼ばれるようになり,絵画の中に個人の表現が入ってくる
  • 見ることを問い詰めたピカソの「青の時代」,新しい時代を開いたマティスの青と続き,イブ・クラインの「純粋にブルーだけ」の絵に至る・・・

といった,とても面白い内容でした。小林先生の「青の美術史」を読まねばという感じですね。ちなみに半年後,21美でイブ・クライン展を行うとのことです。今回のお話はその予告編にもなっていたと思いました。

実は「青の美術史」の表紙に使われているのは,
セザンヌの「サント・ヴィクトワール山」
この絵の話もうかがってみたかったですね。

後半は21美のコレクションの話になり,横山さんとの対談となりました。

まず,お2人のお話を聞いて,21美の恒久展示としてすっかりおなじみの,「カプーアの部屋」「レアンドロのプール」「タレルの部屋」は,いずれも青が強く関連していることを改めて実感しました。

カプーアの部屋の黒く見える部分(出っ張っているのか?引っ込んでいるのか?の部分)は,実は濃い青とのことでした。「闇としての青」ということになります。小林さんがこの作品について,「闇を通って,Another Worldから落ちてきた感覚」で観ることもできる,とおっしゃられていたのが面白いなぁと思いました。

レアンドロプールについては,神秘的な要素はなく,言ってみれば「ただのプール」ですが,もちろん水の色,空の色の青がポイントの作品です。

本日もレアンドロのプール周辺は賑わっていました。

タレルの部屋については,四角いキャンバスの中に空の青が見えるという点で,イブ・クラインのさらに先にある作品と言えます。

というわけで,実は,21美の隠しテーマは「青」だったのかも,という気にさせられました。

その後,「さらに次の時代のBLUE」という話になり,コレクション展「BLUE」に出品されている作品の話になりました。横山さんが「指導教員から諮問を受けているよう」とおっしゃられていましたが,この対話形式がとても面白かったですね。各作品のポイントを,一緒になって考えつつ,なるほどと実感することができました。

その中では,ローズマリー・ラングの「青空を背景に女性が宙に浮かんでいる写真作品」についての説明が印象的でした。この作品は,一度見たら忘れられない作品ですが,命がけで撮影しながらも,重力から解き放たれている点で「自由・解放」の象徴となっているといったコメントを聞いて,「なるほど」と思いました。

日本人アーティストの作品では,志賀理江子さんの「螺旋海岸」シリーズ(異次元世界とのつながりと”どこかBLUEの気配”のある写真作品),石田尚志さんによる「絵と窓を中心とした,時間の展開を表現したアニメーション作品」が紹介されました。この話を聞いた後だと,両作品ともずっと面白く鑑賞できそうです(ちなみに,会場に石田さんご自身も来られていました)。

最後に小林さんは21世紀における青の可能性として,「らせん」ということをキーワードとして挙げていました。この辺は,量子力学の話などもされていて,なかなか付いていくのが難しかったのですが,これからは,2次元,3次元といった時代ではなく,キャンバスという枠の中に押し込められることなく,渦を巻くように次々と出てくるような時間の感覚がベースになるのではといったことを語っていました。

最後,小林さんが昨日書いた詩を自身で朗読されて,講演会は締めくくられました。この日の講演会では,「青」に関する色々な考え方が紹介されたことに加え,アートな感覚を刺激するポエジーにも満ちていたのが良いなぁと思いました。少々難解な部分もありましたが,21美で聞くのにぴったりの内容だったと思いました。

BLUEのポスターの隣の冨安由真さんの展示
のタイトルは「蒼ざめた馬」
ということで,こちらも,しっかりと青つながりでした。