今年の夏休みは8月10~18日の9連休。その初日,金沢の東急スクエアにあるシネモンドで「東京カウボーイ」を観てきました。
主演の井浦新さんの舞台挨拶&サイン会が行われるということで観に行くことにしたのですが,とても気持ち良く楽しめる作品でした。
作品のデータは次のとおりです。
- 東京カウボーイ Tokyo Cowboy
- 監督:マーク・マリオット(2023年・アメリカ映画)
- 脚本:デイヴ・ボイル,藤谷文子
- 出演:井浦新,ゴヤ・ロブレス,藤谷文子,ロビン・ワイガード,國村隼 他
アメリカ映画なのですが,監督のマーク・マリオットさんは,山田洋次監督の下で「寅さん映画」の現場経験もお持ちということで,映画のテーマやキャラクターの設定などに,山田洋次監督の影響があるような気がしました。そこが面白いなと思いました。
物語は米国モンタナ州にある経営不振の牧場が舞台。その立て直しのために渡米した主人公の商社マン,ヒデキ(井浦さんの役)の奮闘と変貌の物語というのが作品の大まかな内容です。日米の文化の違いを乗り越えて,変わっていく井浦さん(スーツ姿からカウボーイの服装へ)の演技が見ものでした。人間味のある濃密なコミュニティの中で,自然や動物と一緒に生きる生き方に馴染んで行ってしまう展開は,上述のとおり山田洋次さんの作品に通じるものがあると思いました(山田監督の場合,モンタナ州ではなく北海道になりそう)。
井浦さん演じるヒデキの表情がリラックスした表情に変わっていくのを観ていると,お客さんの方もまた「モンタナ...良さそう」という気分になったのではと思います。現実には「アメリカ=大らか」という単純なものではなく,モンタナでの生活はどうみても不便そうでしたが,日本社会そのものや日本での働き方に定着してしまっている「息苦しさ」に苦しんでいる人は「別の働き方」への共感を持つのではと思いました。
ヒデキに同行するばずだった和牛の専門家が渡米後早々,骨折して入院してしまい,全く役に立たず「ただアメリカ滞在を楽しんでいるだけ」という感じになっている感じも面白かったですね。この役を演じていた國村隼さんのコミカルなキャラクターも山田洋次監督作品に出てきそうだなと思いました。
ヒデキが現地の人たちと打ち解けるきっかけとなったのが,バタンガという「一見飲みやすいけれども強いお酒」。これで気持ち良く酔い,吹っ切れてしまい,ヒデキも開き直った感じになります。ラテン系のお酒のようですが,一度飲んでみたい気がしました。
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映画終了後は,井浦新さんの舞台挨拶があり,その後,質疑応答の時間がありました。時間間をオーバーして,とても丁寧に受け答えをする井浦さんの姿勢が素晴らしいと思いました。次のようなことを語っていました。
- 監督のマーク・マリオットについて:長編映画を作るのはこの作品が初めて。ドキュメンタリー映画を作ってきた人だが,その要素が今回の作品にも入っている(井浦さんの役は,最初馬に乗れず,アメリカで乗れるようになる役柄。事前に乗馬の練習はしないで欲しいと言われ,その過程そのものを撮影していた)。監督からはナチュラルな演技を求められ,だんだんと演技はそぎ落とされていった感じ。
- アメリカの映画では,通常ラッキーで主役になる人はいない。皆,しっかり演技の勉強をしてきた人ばかり。その一方,井浦さんはたまたま役者になり,今回も監督から直接オファーを受けた点で例外的(河瀬直美監督の映画「朝が来る」を観て,井浦さんにオファーすることにしたとのこと)。
- モンタナの星空は素晴らしかった。人工物のない場所で180度の夜空を観られた。チラシには「Big Sky Country」というモンタナ州のキャッチフレーズが書かれていましたが,そのとおりという感じですね。
- 質問:井浦さんは多方面で活動されているがそのエネルギーの秘密は? 回答:何事も好きでやっている。それは「好き」と言えるものが無かった10代の頃からのコンプレックスの反動かもしれない。最近は「普通の幸せを味わえることを大切にしたい」と思えるようになってきた。その一方「好き」が多いと,追い詰められることもあるので,少しずつ削っている。役者については,もともと好きだったわけではなく,途中から好きになった。好きというだけで続けられるものである。
- 質問:ファッションについて 回答:ファッションには関心があるが,映画の中でのファッションには特に注意が必要。プロに任せている。
- 質問:今回の映画で変わったことは? 回答:これまで「殺す役」「苦しむ役」などが多かった。今回の役で久しぶりにデトックスした感じ
その後は撮影タイムになりました。写真は是非SNSでPRをとのことでしたので,掲載してみたいと思います。次のような雰囲気でした。