2023年9月30日土曜日

レトロな雰囲気のチラシにひかれて,本日の午後は石引ストラットへ。朝ドラ「ブギウギ」開始直前企画としてJO-HOUSEで行われた輪島裕介さんと町あかりさんによるブギウギ放談では,音源の視聴や町さんのミニ・ライブもあり大変楽しめました。

 数日前の新聞に挟まっていたレトロな雰囲気のチラシにひかれて,本日の午後は「石引ストラット」というイベントの中で行われた「石引ブギウギ放談」に参加してきました。

10月から,NHKの朝ドラ「ブギウギ」が始まりますが,それに合わせて発売された,輪島裕介著『昭和ブギウギ:笠置シズ子と服部良一のリズム音曲』の発売記念企画で,著者の輪島さんと輪島さんお薦めの「昭和の歌謡曲を愛するシンガーソングライター」町あかりさんが対談を行いました。

会場で販売していても良さそうでしたが,別途購入

場所はJO-HOUSEでした。JO-HOUSEは歴史のあるカレーとジャズの店ですが,実は私自身,入るのは今回が初めて。これを機会に一度入ってみたいという思いもありました。間口はそれほど広くないのですが,入ってみると結構奥行きがあり,木で出来た内装がとても良い雰囲気でした。入場料500円,定員30名で,ほぼ満席でした。



トークの開始前に撮影

今回のトークですが...細かい内容まで打ち合わせはしていなかったようで,「さて何から話しましょうか」という感じで開始。何はともあれ,朝ドラの主役,笠置シズ子とシズ子が歌った曲を作曲した服部良一に触れないわけにはいかないので,この2人のことから話が始まりました。途中,色々な音源を聞きながらのトークで,だんだんと2人のトークも調子が出てきた感じでした。以下,内容をご紹介しましょう(間違っていましたら,お知らせください)。

  • 服部良一については,大阪の庶民出身だったことが重要。目の前の人を楽しませようと西洋音楽の技術を使い倒した人だった。
  • 笠置シズ子は,戦前のこの時代一人だけ別格のような,爆発力のある歌を歌っていた人。当時のレコード音楽は現代よりも折り目正しいものだったが,シズ子についてはミュージシャンという枠に収まらない。その例として聞いたのが

ラッパと娘(作詞・作曲:服部良一,歌:笠置シズ子,1939年録音)

  • この曲をじっくりと聴いたのは初めてでしたが,伴奏の楽器とコール&レスポンスを行ったり,ラッパの音を思わせるような発声をしたり...そして録音とは思えないグルーヴ感がすごいと思いました。輪島さんは,「当時のアメリカをお手本をした曲だが,そのこなれ方がすごい」とおっしゃられていました。
  • 単純に西洋的なものに憧れていたわけでないということで,次に聴いたのが,

山寺の和尚さん(作詞:久保田宵二,作曲:服部良一,歌・演奏:コロムビア・リズム・ボーイズ(ナカノ・リズム・ボーイズ))

  • 輪島さんによると西洋的なコード進行から出てきた曲ではなく,鼻歌まじりに出てきたような曲ではとのこと。ダガジグダガジグ...という歌詞も面白い曲ですね。
  • 8ビートという用語は和製英語で,音楽用語として初めて使ったのが服部良一。
  • 笠置シズ子は,戦前は一部の人から「すごい」と言われていたが,戦後はみんなからすごいと言われるようになった。受け手が変わったともいえる。音楽的真骨頂は戦前の方にあったという人もいる。次に聴いたのが,

買い物ブギ(作詞・作曲:服部良一,歌:笠置シズ子)

  • この曲も久しぶりにじっくり聴いたのですが,フルコーラス聞くと面白さが倍増する感じです。「おっさん,おっさん...」の連呼とか,「わてほんまによういわんわ」の何とも言えない味わいなど,オリジナリティ溢れる歌ですね。
  • トークの中で,この「わてほんまによういわんわ」がどういうニュアンスの言葉なのか話題になった後(現在では使う人はあまりいない?)に関連して聴いたのが,

よういわんわ(歌:バートン・クレーン,淡谷のり子)

  • 昭和の初め頃,レコード会社主導で作られた「変なアメリカ人」によるコミックソングで,淡谷のり子も参加。
  • この頃は日系アメリカ人的なカタコト的な歌い方が流行したそうで,次に聴いたのが

ダイナ(歌:ディック・ミネ,1934年録音)

  • この曲も有名な曲。ディック・ミネが歌ったものには何種類も録音があるそうで,ここで輪島さんが指定したのが,1934年の録音。ディック・ミネがスティール・ギターを演奏している長いイントロのもの。テンポは遅めで,後の「いかにも日本の懐かしのメロディ」風の録音に比べると,英語っぽく発音しているのが大変よく分かりました。
  • この英語っぽく歌う流れというのは,キャロルやサザン・オールスターズにつながり,その後も後継者がいたのですが,現在は「消滅したのでは」とのことでした。
  • 続いて,服部良一と金沢のつながりについての話になり,1947年服部が金沢に来て講演を行った際,美しいメロディを持つ名曲が2曲「胸の振り子」「東京の屋根の下」が生まれたことが紹介されました。金沢で生まれた曲ということは初めて聴いたのですが,嬉しくなる話です。まず,次を聴きました。

東京の屋根の下(作詞:佐伯孝夫,作曲:服部良一,歌:灰田勝彦)

  • 予告どおりとても良い曲でした。「東京」という地名が入る曲としては,「東京行進曲」「東京音頭」「東京ラプソディ」などがありますが,この曲も,都会を描いた曲の系譜につらなる作品というこおとになります。
  • そして,最後に町あかりさんによる,ミニ・ライブコーナーになり,「胸の振り子」など次の5曲が披露されました(カラオケに合わせての歌唱でした)。

  1. アイレ可愛や(作詞:藤浦洸,作曲:服部良一,アルバム「それゆけ!電撃流行歌」から)
  2. 胸の振り子(作詞:サトウハチロー,作曲:服部良一,アルバム「それゆけ!電撃流行歌」から
  3. 風は海から(作詞:西條八十,作曲:服部良一,アルバム「それゆけ!電撃流行歌」から
  4. 廉価版コレクター(作詞・作曲:町あかり,アルバム「総天然色痛快音楽」から)
  5. 素敵なご時世(作詞・作曲:町あかり,アルバム「総天然色痛快音楽」から)

  • 町さんの声は高音がとても可憐で美しく,民謡的な曲,小唄系の曲,アイドルポップス系の曲,どれにもぴったりはまる感じでした。
  • 「アイレ可愛や」は,戦争中に南方のエキゾティックな雰囲気をイメージして作られた曲で(当時,民族音楽と呼ばれていたとのこと),きっと朝ドラでも使われるのでは,とのことでした,この曲をカバーしているのは,町あかりさんぐらい?
  • 町さんオリジナルの「廉価版コレクター」は小唄系の曲で,客席から手拍子が入ったのですが...途中,七拍子になる部分があり,手拍子がバラバラに...。その点も含め面白い曲でした。
  • 「素敵なご時世」は,レトロ感とモダンな感じとがバランスよく合わさった心地よさがりました。町さんは,1970~80年代の歌謡曲的な曲から始まり,どんどん前の時代に遡っているようですが...個人的に「私の若い頃の歌=好みがぴたりと合いそう」です。

輪島さんは最後に「やさぐれていない,明るい昭和歌謡系の曲が受け入れられることに期待している」とおっしゃっていましたが,笠置シズ子+服部良一の世界を継承する町さんのカバーの世界そのままかもしれないと思いました。今後も町さんの活動には注目したいと思います。この日,CDの”実演販売”があれば,多分勢いで買っていたのですが...販売がなかったのが残念でした。

店内には懐かしの(と言いつつ試したことはありませんが)
ジュークボックスがありました

ちなみに会場で配布していたチラシを見ると,町さんは映画「男はつらいよ」の世界にもひかれているよう。コロナ禍中に全作を制覇(BSテレ東のおかげです)した私にとっては,これもまた「お話が合いそう」という感じでした。

せっかくなら,イベントの後に少しお話をしてくれば良かったかなと後悔をしています。というわけで...是非,また呼んで欲しいですね。

イベントの前後,石引商店街をぶらぶらと巡ってみました。日常的にはやや寂しい感じの商店街になっていますが,本日の賑わいを見ていると,昭和歌謡の世界に通じる空気感があるなと思いました。来年以降もこういった企画があれば,また参加をしてみたいと思います。

何か怪しい雰囲気の人だかり。
劇団アンゲルスの「飛び出す絵本劇」だったようです


この店では(トークと同じ時間帯に)寄席を行っていたようです

こちらは民謡パブ。外から見ていても楽しそうでした。


商店街も空き地が増えている感じですが,
イベント的には飲食スペースに使えるので好都合だったかもしれませんね。

福光屋さんの目印

写っていませんが,チンドン屋も頻繁に練り歩いていました。
トーク中にも,様々な音楽が聞こえてきて,なかなかカオスな雰囲気になっていました。