2021年4月25日日曜日

石川県立歴史博物館で特別展「小原古邨:海をこえた花鳥の世界」を観た後,小池満紀子さんによる記念講演を聞いてきました。金沢出身の古邨の「里帰り」にふさわしい充実した内容で,その作風の特徴と世界に広まった経緯がよく理解できました。

本日は石川県立歴史博物館で昨日から行われている春季特別展「小原古邨:海をこえた花鳥の世界」を観た後,関連イベントとして行われた,小池満紀子さんによる記念講演会「小原古邨:光と雨の系譜を追って」を聴いてきました。



小原古邨(おはらこそん)という名前はずっと知らなかったのですが,数年前の日曜美術館でたまたま耳にし,金沢出身であることをその時に知りました。明治から昭和にかけて活躍した絵師で,伝統的な花鳥風月をモチーフにした木版画作家として,日本国内よりは世界で知られている作家とのことです。

今回の展示は,浮世絵蒐集家・原安三郎のコレクションの中の古邨作品の展示を中心に,その作風の変遷を古邨をめぐる人たちとの関係の中で紹介するような内容でした。美しく精彩な木版作品がぎっしりと展示されており,歴史博物館というよりは美術館で行われるような内容でしたが,大変見応えがありました。


チラシは2種類ありました

ポスターに「おかえり,KOSON」というキャッチコピーが書かれていましたが,石川県内よりも県外・国外で知られていた絵師の存在が,今後,金沢でも知られるようになるきっかけになるような意義ある展覧会だったと思います。

小池さんによる記念講演は,事前に応募していたのですが,展覧会と併せてお話を聞けて大変参考になりました。次のような内容でした。

  • 古邨の作風について(動物など中心的なモチーフは細部まで精密に表現されているが(木版画と思えない感じです),背景には余白が多く,月などもはかなり省略されていたりする。そのことで湿気のある空気感が漂ってくる。その辺が古邨の魅力,といったことを紹介されていました。)
  • 古邨の作品が世界に広まった経緯(松木文恭,フェノロサなどキーパーソンの紹介がされました。明治時代の浮世絵(錦絵)については,これまで,日清・日露戦争後衰退したということが言われてきたが,実は世界に広まっている時代だったとことが分かってきた,とのことです)
  • ラフカディオ・ハーンやルーシー・リトルトンといった人がその著作の中で古邨の作品を使ったりしている。
  • 古邨という画名を使っていた大黒屋(松木平吉)時代から版元が渡邊庄三郎に変わってから大きく作風が変化しているが,これは生活スタイルの変化など世の中のニーズの変化に対応したものである。
作風の変化は,浮世絵師の宿命と言われていましたが,お話を伺いながら,古邨時代の「余白が多く,湿った空気感を感じさせる作風」の方が古邨本来の作風なのかなと思いました。そして,そのことに関連して,湿気の多い金沢の天候の影響があるのかも,ということを最後におっしゃられていました。展覧会の行われた石川県立歴史博物館は「本多の森公園」の中にあり,市街地とは思えないぐらい大きな木が沢山ある場所ですが,古邨自身もこういう「身近な自然」を感じられる場所で育ったことが作風に影響しているのかもしれません。



というわけで,これをきっかけに古邨作品については,今後も注目していきたいと思います。

PS.
展覧会関係のグッズも充実していました。図録も欲しかったのですが...とりあえず本日はパス。6月まで展覧会は行っており,作品の入れ替えもあるそうです。もう一度,じっくり観たい気もしました。

作品の中では,やはり次のキツネがいちばん人気でしょうか。絵本の中に描かれていそうな雰囲気で,記念撮影できるようになっていました。