2021年2月21日日曜日

シネモンドで「天井桟敷の人々」4K修復版を鑑賞。途中休憩を含めて3時間以上,フランスの魂を感じさせる素晴らしい作品。クリアな画面と音声の威力は大きく,初めてこの名画全体を楽しむことができました。

本日はシネモンドでフランスの名画「天井桟敷の人々」の4K修復版を観てきました。映画の上映時間は,第1部が1時間41分,第2部が1時間29分,合計3時間10分。途中,休憩をはさんで日曜日の昼間にたっぷり楽しんで来ました。


この作品は,「映画オールタイムベスト100」のような企画があると,かつては必ずベスト3以内には入っているような作品でしたが,私自身,実はしっかりと観たことがありませんでした。やはり自宅のテレビの画面でモノクロの古い作品を集中して観るのは,なかなか難しいですね。衛星放送から録画したDVDはあるのですが,全部観た記憶がありません。それとフランス映画については,「何となく難しそう」という先入観を持っていた部分もあります。

本日この作品を一気に観て,「やっぱりすごい。この名作を劇場で観られたことを誇ってもよいかも」と思いました。舞台は19世紀前半のパリ。雑多な人たちで溢れかえる「犯罪大通り」にある劇場を中心とした長編恋愛ドラマ。フランス語はほとんど理解できないのですが,そのセリフの中には,シェークスピアの「オセロ」などを折り込んだ文学的な気分が漂い,詩的で粋なやり取りが随所に散りばめられていました。3時間以上をかけて,フランス文学の世界にはまり込んだような充実感を感じました。

映画の構成としては,最初に劇場の幕が上がり,その中でこのストーリーが展開し,最後は幕が下がっておしまいという形になっていました。「人生は劇場である」といったメッセージなのかなと感じました。

ビデオで観ようと思って挫折していた時とは違うのは,やはり画面と音声のクリアさです。ストレスなくストーリーに入ることができると,主要登場人物はそれほど多くなく,ストーリーも比較的単純。各キャラクターの違いも鮮やかに理解することができました。

ストーリーの核は,アルレッティが演じるガランスという名の妖艶な女性。彼女をめぐって,パントマイム俳優・バチスト(ジャン=ルイ・バロー),陽気で口の上手い俳優・ルメートル(ピエール・ブラッスール),悪のにおいの漂う作家・ラスネール(マルセル・エラン),第1部最後に登場し,第2部ではガランスの夫になっているモントレー伯爵(ルイ・サルー)といった男たちが駆け引きを繰り広げる,というのが物語の筋ということになります。

男優の中で印象的だったのは,やはり白塗りのパントマイムシーンが素晴らしかったバチスト役のバローでした。一見繊細だけれども,ガランスに対する思いを貫きとおす純粋さがこの作品の重要な柱になっていました。ガランスは既に人妻で,バチストも第2部では結婚しており,子供もいたので,ドロドロの「不倫」ということになります。が,バチストの純粋な気持ちがひしひしと伝わってくるだけに,観ている方も一緒になってもがいてしまう感じになります。

バチストの妻と子供を見たガランスは,最終的には身を引き,彼女を追ってバチストは,カーニバルの人出であふれかえる街の雑踏の中に入り込みます。身動きができず,もがき続けるバチストの姿を見ながら,人間の人生は,自分自身の力だけではどうしようもできないものだな,と思わせるラストシーンだと感じました。

第2部が始まった段階では,各人がそれぞれに成功しており,一見「幸福」な状態だったのですが,ガランスとバチストが再会したばっかりに全てが崩れていく,という展開は見応えがありました。ガランスは,まさに「ファム・ファタル(運命の女性)」だと感じました。

それにしても,このラストシーンをはじめとして,犯罪大通りに溢れる人の数にはびっくりします。映画の最初と最後のシーンは,画面全体が人で覆いつくされていました。そして映画のタイトルにもなっている,劇場の天井桟敷に溢れるお客さんたち。コロナ禍の中では,あり得ないほどの「密」状態でしたが,「フランス人の魂」そのものと感じました。この映画は,第2次世界大戦末期,フランスがドイツに占領されている時期にマルセル・カルネ監督とジャック・プレヴェール脚本・台詞により作られたのですが,この群衆の発散する圧倒的エネルギーは,困難な時代でも負けることのない,フランス人の心意気だと思いました。

この作品の音楽担当は,シャンソンの「枯葉」の作曲者としても知られている,ジョセフ・コスマで,全編に渡って,オーケストラによる音楽が流れていました。この雰囲気も良かったのですが...クレジットされていた演奏はパリ音楽院管弦楽団,指揮はシャルル・ミュンシュ。この名前を見つけて「そうだったのか」と思いました。演奏にも「フランスの魂」が感じられた(ような)気がしました。

というわけで,色々な意味で記念碑的な大作を,じっくりと映画館で観ることができ,本当に良かったと思いました。入場料は2300円とやや高めでしたが,「記念に」と思いパンフレットも購入。

後でじっくりと読もうと思ったのですが...カバンの中にうっかり缶コーヒーを大々的にこぼしてしまい(蓋をしっかり締めていませんでした...),ぐちゃぐちゃに。この点だけが想定外でしたが,充実した時間を過ごすことができた日曜日でした。

冊子がぐちゃぐちゃになったので,ページがくっつくのを防ぐため
ホッチキスを取ってしまいました。こんなことになるとは...

PS. 本日は春が来たような陽気でした。
映画に出かける前に撮影。浅野川です。

映画を観た後に撮影。春色の感じの金沢城の石垣