以前から注目していた「生誕140周年熊谷守一展:わたしはわたし」が石川県立美術館で始まったので,本日の午前中に観てきました。全国を巡回している展覧会で,数年前にも別のタイトルで同様の展覧会が行われていましたが,金沢に来たのは初めてだと思います。
熊谷守一は1880年生まれ,1977年没ということで...引き算をすると97歳。晩年の風貌から「画壇の仙人」「超俗の画家」と呼ばれていたようです。今回の展覧会は,その代表作を含む180点を通じて,その人生・芸術・生活を紹介する内容でした。チラシに使われている「牝猫」の作風どおり,赤で縁取りされた単純な形態と明快な色彩を特徴する「モリカズ様式」は一度見たら,忘れられない分かりやすさがあり,その死後も人気のある画家です。初日ということもありますが,(密になるほどではありませんでしたが)多くのお客さんが観に来ていました。
熊谷守一の作風は上述のとおりで,印刷物で見ると,ベタっと塗り絵のように見えるのですが,それを実際に見ると,単純に塗りつぶされているわけでなく,きっちりと油彩の筆の跡が見え,丁寧に塗られているのがよくわかりました。地面を表す茶色が地の色になっているものが多いのですが,空を表す水色もよいなぁと思いました。守一は,こういった作品の多くを,1950年代以降,つまり70歳以上になってから描いています。そこがすごいと思うと同時に年を取らないとここまで迷いのない表現はできないのかな,とも感じました。
展覧会場内の撮影可能スペース |
その人生についてもパネルで紹介をしていました。「仙人」ではあるけれども,他人や家族とのつながりも大切にしていた人だということも展示を通じて伝わってきました。1945年の終戦後,守一は,自分の子供を次々と失いますが,その時に描かれた「ヤキバノカエリ」という作品がすごいと思いました。絵の真ん中の白い部分が娘の遺骨。シンプルな画面構成の中から,何とも言えない虚無感が伝わってきます。
チラシでも紹介されていました。 |
それ以外にも,妻・秀子との生活というのも,なかなか面白そうです。チラシによると,熊谷守一夫妻の生活を描いた映画「モリのいる場所」が,関連企画として上映されるようなので,時間があればぜひ観に行ってみたいと思います。この2人ですが,毎日規則正しいリズムで暮らしていたようです。昼間,自分の庭の植物や動物などを観察し,毎日夜に絵を描いていたというのも興味深い点です。
油彩以外にも,日本画や書も展示されていました。書の方には何とも言えない「ヘタウマ」感があり気に入りました。「五雨十雨」と書かれた書がありましたが,個人的に座右の銘にしてみたくなる言葉だと思いました。「五日ごとに風が吹き、十日ごとに雨が降る」ということで,悪い意味なのかなと一瞬思ったのですが,「世の中が平穏無事であるたとえ。気候が穏やかで順調なことで、豊作の兆しとされる」(三省堂 新明解四字熟語辞典のオンライン版)とのことです。
というわけで,色々な側面から,熊谷守一の作品と人生を感じ取ることができる展覧会となっていました。
実は,今回招待券で観たこともあり,グッズの方を少し多目に買ってしまいました。巣ごもり気分を晴らすためという意図もありました。買ったのは次のようなものです。
絵葉書3枚。
夜空の半月を描いた「宵月」。今年の干支にちなんだ牛。ハサミが良い味を出している「柚」。家に飾ったり,実際に郵送することをイメージして選びました。熊谷守一の作品は,「絵葉書映え」するので,よく売れるのではないかと思います。
絵葉書サイズ(A6)のクリアフォルダー。
牛の絵葉書を入れてあります。手前の猫は受付でもらったおまけ。 右側はブックカバー |
描かれているのは「稚魚」という作品。水色の背景に赤い魚ということで,マティスのダンスを彷彿とさせる感じです。
そして,文庫本サイズのブックカバー。描かれているのは,「あぢさい」。
よくよく調べてみると,今回展示されていない作品でしたが,この華やかな色合いに惹かれ,勢いで買ってしまいました。熊谷守一のサインは,「クマガイモリカズ」とカタカナで入れるものですが,これも今からみてもモダンですね。
というわけで,モリカズ様式のシンプルで明るい絵の数々は「コロナ時代の落ち込んだ気分」を少しは晴らしてくれるような気がしました。この際,モリカズ様式でアマビエを描いてみようかな,と思ってしまいました。
美術館を出た後,広坂を降りて,香林坊方面に向かったのですが...途中の歩道の模様も「モリカズ様式のようだ」と感じてしまいました。モリカズ・フィルターで世の中を見るのも面白いかもしれませんね。