2020年9月6日日曜日

先週,金沢香林坊のシネモンドで映画「タゴール・ソングス」を観てきました。インドやバングラデシュで現在も親しまれているタゴール作の詩と音楽の力をリアルに体感できるような作品でした。

先週,金沢香林坊のシネモンドで,映画「タゴール・ソングス」を観てきました。この作品は,インドの詩人ラビンラナート・タゴール(1861~1941)の作った歌の数々「タゴール・ソング」がテーマで,インドやバングラデシュのベンガル地方で現在も多くの人々に歌われていることについて,現地の人々に取材を行ったドキュメンタリータッチの作品です。もちろん,色々な人が歌うタゴール・ソングそのものも,全編沢山登場します。

タゴールについては,アジアで初めてノーベル文学賞を受賞した詩人という情報は知っていましたが,その作品自体を読んだことはありませんでした。さらには,吟遊詩人のように,詩に音楽を付け,それがタゴール・ソングとして,インドやバングラデシュのベンガル地方などを中心に現在も民衆に親しまれ続けていることも知りませんでした。タゴールの同世代といえば,日本の文豪で言うと,1862年生まれの森鴎外辺りになります。そう考えると「一体どういうことだ?」となるのですが,そこに着目したのが,この作品の監督佐々木美佳さんです。

佐々木さんは,東京外国語大学でベンガル文学を学んでいた方で,まだ20代の若い方です。プログラムにも書いてあったのですが,卒業論文のテーマをさらに深めたいというのが映画作成の動機で,その実地調査の結果そのものが映画になったようなところがとても面白く,この作品のいちばんのオリジナリティになっていると感じました。

佐々木さんは,ベンガル地方で,色々な世代の人に「あなたにとってタゴール・ソングとは」という感じで取材をしていくのですが,恐らく,他国から来た若い女性である,佐々木さんが取材することで,特に若い世代から魅力的なコメントを引き出していたような気がしました。「どこの国の若者も同じなんだなぁ」という共感とインドやバングラデシュの若い世代は「やはり違うなぁ」という部分が鮮やかに描かれていたと思いました。

色々な人物が出てきますが,自由な生き方を求めているが,両親と意見が食い違っている女子大生オノンナ,ギターを弾きながらタゴール・ソングを歌うナイーム(すごくしっかりしていたのですが,高校生)など,だんだんと主役っぽい感じでクローズアップされてくる展開も自然で,それぞれの生き方を応援したくなりました。

タゴールの作った音楽がどうしてベンガル人の心に響き続けるのか?この点については,この作品で音楽を聞いただけでは,よく分からなかったのですが,代表曲である「ひとりで進め」に象徴されるように,自分の力で生きていけと励ますような曲によって,多くの人々をつなげている点については,曲の持つ力の偉大さを感じました。タゴールの作る音楽と詩の力を(その理由を言葉で説明できないのですが...)リアルに体感できた気がしました。

そして,ベンガル地方の特色なのかもしれませんが,「私のために何か歌って」という感じで頼むと,みんなが,それぞれの歌い方で歌ってくれるのがすごいと思いました(もちろん歌ってくれない人もおり,歌ってくれた人だけ取り出しているのだとは思いますが)。この「自然に歌う文化」,これがタゴール・ソングが浸透しているのベースになっているのではと思いました。

ノーベル文学賞受賞者でもあるタゴールが,曲と詞を作っていた「ソングライター」であったことを知って,数年前にノーベル文学賞を受賞したボブ・ディランのことを思い出しました。読まれる文学からするとボブ・ディランの受賞は異端なのかもしれませんが,歌われる文学という点では,この2人は同系列に入るのではと思いました。

というわけで,何と言っても特定地域の人みんなが歌ってくれる「タゴール・ソング」という文化に注目した着眼点が素晴らしい作品だと思いました。今回,タゴールのことやタゴール・ソングについての情報がまとめられているパンフレットも購入したので,これを読みながら(音源なども探して聞きながら),タゴール・ソングの世界にもう少し深入りしてみたいと思います。


PS. インドとバングラデシュの国歌も「タゴール・ソング」の一つであるということを知って,我が家にあった「世界の国歌」というCD(岩城宏之さん指揮ということで購入したものです)を調べてみると,確かにそのとおりでした。

「大全集」というのはやや誇大表示ですね。
ソ連の国歌が入っているなど歴史的な資料の価値もありそうです

CDの解説です

PS. 映画を観た後,便乗してインドのビールを買ってきて飲んでみました。パッケージに釣られたのですが,恐ろしく苦いビールでした。