2020年1月2日木曜日

#男はつらいよ 第50作 #お帰り寅さん を新春の映画館で観てきました。回顧的というよりは,しっかり作られた続編・完結編。おなじみの登場人物,特に久しぶりに見る 後藤久美子さんが大変魅力的でした。

約50年前の1969年8月に映画版の第1作が公開された「男はつらいよ」の第50作目が新作で公開されたので,ユナイテッドシネマズ金沢で観てきました。


寅さん映画の新作をお盆と正月に映画館で観るというのは,高度成長期から昭和時代後半に掛けての「季節の風物詩」ということで,その気分を味わうために出かけてきました。

今回の作品も,フォーマットとしては「夢」で始まり,「青空の下の啖呵売」で終了という型を踏まえていましたが,当然のことながら,主役を務めていた渥美清さんは亡くなっていますので,基本ストーリーは,寅さんの甥・満男の物語になっていました。単純に寅さんの思い出を回顧するのではなく,寅さんから満男に引き継がれた50話に渡る壮大なストーリーに決着を付けるようなオリジナルな作品となっていました。その点で,過去の作品(特に満男の比重が高まる42話以降)を知っておく方が楽しめるのですが,「妻を亡くした満男が昔の恋人と再会し,寅さんのことを思い出しながら,その恋愛に決着を付ける」というストーリー展開だけでも十分に見応えがあります。総集編というよりは,続編・完結編という印象を持ちました。

主役の吉岡秀隆さんは,子役時代からリアルに年齢を重ね,今回は中学3年生の女の子供を持つお父さん役になっていました。まず,そのことに感慨を持った人は多かったと思います。昔から,とても自然だけれども語り口に常にどこか不器用なぎこちなさを持つ役者さんですが,その雰囲気がそのまま継続しているのが良いなと思いました。その不器用さを,寅さんが見えないところから支えているという感じが,多くのお客さんの視点と重なるのではと思いました。

そして,今回のヒロインといっても良い,満男の初恋の恋人・泉役の後藤久美子さんの存在感に感動しました。演技力というかセリフ回しは,巧いという感じではないのですが,その表情には,しっかりと20年分ぐらいのリアルで美しい年輪が刻みこまれていました。海外で活躍し,ずっと日本に戻っていないという設定は,ゴクミさん自身の人生とも重なる部分があります。内面からにじみ出るような美しさを持った泉と満男が偶然再会してしまう。一体どうなる?という点が今回の作品の肝だったと思います。

ちなみにゴクミさんの設定は,国連難民高等弁務官事務所勤務。この設定は,山田洋次さんのこだわりでしょうか。ゴクミさんは,フランス語と英語を話しており,リアリティを感じました。

このストーリーが,過去の寅さん映画の懐かしのシーンの「回顧」と「スピンオフ」を交えて展開していきました。

ドラマ全体のもう一つのベースが「くるまや」という場と,満男の両親である,博とさくら夫妻の存在です。こちらは現在という時代を反映して,家の方は少しリフォームを加え,お2人はすっかりおじいさん,おばあさんになっていました。変わった部分と変わらない部分との絶妙の取り合わせをあじわうことができました。いつも律儀でまじめだった,博・さくら夫妻が,基本的な情の深さを維持したまま,結構ゆるい感じになっているなど,リアルに時の経過を感じることができました。

過去の作品の映像を使った回顧シーンでは,やはり,歴代マドンナ役の個性的で魅力的な女優たちのベストショットが続く辺りが見所だったと思います。映画「ニューシネマ・パラダイス」のラストシーンに通じるような,懐かしさが沸き立つようにあふれるようなシーンでした。マドンナの中では,やはり浅丘ルリ子演じる,リリーが別格で,現在も銀座で店を営業しているリリーが登場したのがうれしかったですね。

回顧シーンでは,博がさくらにプロポーズをする第1作の見せ場は,何度見ても熱くなります。今回の作品の原点となるシーンですね。

寅さん映画恒例の,茶の間での「ささいな口論」では,さくらが忘れられないと語っていた,「メロン騒動」が出てきました。寅の分を考えずにメロンを切り分けて食べようとした途端,寅が戻ってくるという有名な(?)場面ですが,この何とも言えない泣き笑いは寅さん映画の「花」でしたね。おいちゃんと寅さんの激しい口論が盛り上がり,手をあげたところで,三崎千恵子さん演じるおばちゃんが泣き声で止める...という辺りはほとんど歌舞伎などに通じる古典を見るような世界だと思いました。

その一方,複雑な事情を持つ,泉の両親については,高齢化社会のリアルさを感じさせるような描き方をしていました。寅さん映画以外にも,庶民の視点から社会問題を取り上げた作品を沢山作ってきた山田洋次監督らしい雰囲気を感じました。その中に少々ブラックなユーモアを含む落語的な語り口があったのも監督ならではだと思いました(介護施設に入っている父親が良い恰好をして泉に1万円を渡した後,後から,結構困っているんだと満男から「香典の前借りだ」と1万円をせびるあたり)。泉の母についても奇麗ごとだけでない雰囲気を伝えてみました。身勝手だけれども人間味あふれる演技は,夏木マリさんならではだと思いました。

二世代に渡るネタでは,裏の印刷工場のタコ社長の気質を,三保純さんが演じる娘のアケミがそのまま引き継いでいたのがおかしかったですね。回顧シーンでは,タコ社長が,茶の間の中まで入らず,上がり框の「定位置」に横向きに座っていたのが懐かしかったですね。こういう,「ちょっとした奥ゆかしさ」も寅さん映画の魅力の一つだと思います。

気になる,寅さんの消息ですが...亡くなっていない「ような」描き方でした。おいちゃん,おばちゃんについては,仏壇の中に遺影があったのでが,寅さんについては遺影がありませんでした。この辺は「ファンタジーの世界」になっていたようです。「困ったことがあったら,寅さんはいつでも現れる」といったメッセージとなっていた気がしました。

満男が小説家になっており,その出会いが書店でのサイン会だったという設定も個人的には良いなぁと思いました。フィクションを創造する世界とその出会いを演出する場への信頼のようなものを感じました。

この作品は,倍賞千恵子さん,前田吟さんの年齢を考えると,「今しか撮れない」作品だったと思います。1~49作(49作は再編集版ですが)の熱心なファンはもちろん,寅さん映画を初めて観るような,「新しい人」にもアピールする作品だと思いました。

映画を観た後,パンフレットは充実しているに違いないと思い,1200円と少々高かったのですが,購入してみました。その予想どおり,全50作の見所や写真も掲載されてた充実の内容で(パンフレットが非常に厚かったです),単独の本を購入したような感じでした。


最後にネタバレ的ですが...

冒頭に出てくる,お馴染みの山本直純さん作曲のテーマ曲は...何と桑田佳祐さんが歌っていました。思い入れたっぷりに,寅さん映画が好きなんだなぁという思いが伝わるような歌唱でした。まず,このタイトル部分で,ぐっとつかまれました。ちなみに最後に出てくる歌は,オリジナルの渥美清さんのものでした。