2019年11月3日日曜日

石川四高記念文化交流館で行われた「ひとりよみ『天守物語』妖恋の景」へ。おなじみ東雅夫さんが「天守物語」の後半を朗読+北村紗希さんの美術。朗読後は「天守物語」についての充実の講座。勉強になりました

本日は午後から,石川四高記念文化交流館で行われた,「泉鏡花没後80年記念 ひとりよみ『天守物語』妖恋の景」というイベントに出かけてきました。

このイベントは,石川近代文学館で開催中の「恋するいしかわ」という企画展の関連イベントとして行われたもので,金沢の文学関係のイベントではすっかりおなじみの,文芸評論家でアンソロジスとの東雅夫さんが,泉鏡花作の戯曲「天守物語」の後半部分を朗読するというものでした。
この廊下のいちばん奥が会場。雰囲気のある内装です。
東さんは,数年前,能楽師の安田登一座のメンバーとして,「天守物語」の金沢公演に参加されていましたが,それに味をしめて(?),どんどんと活動の場を広げているようです。朗読後のトークの中で,安田登一座の島根公演の稽古の際,多忙だった玉川奈々福さんの代理で色々な役割を読んでいるうちに,「朗読の面白さ」に目覚められたようです,

元々,東さんの声は大変良く通り,凜とした声や落ち着いた声などを見事に使い分けられますので,作品に関する豊富な知識と合わせると,この作品の朗読者として最適といえるのかもしれません。
窓の外にはいしかわ四高記念公園
今回は上述のとおり,姫路城の最上階に住む富姫と鞠つきをするために,東北地方の「お化け」たちを連れて,猪苗代から亀姫がやってくる,という前半は省略し,富姫と図書之助の恋愛物語となる後半が朗読されました。

今回のもう一つの目玉は,こちらも金沢ではお馴染みの型染作家,北村紗希さんが舞台美術を担当されていた点で,この作品の鍵となる,獅子頭が描かれた布に,要所要所でセリフや絵が投影されながら進むという形になっていました(ちなみに,今回,北村さん自身が投影の操作も担当されていました)。
布の右側に文字や絵が投影されていました。
さすがに朗読だけだと,鏡花のセリフは難解なので,北村さんの美術は,雰囲気を盛り上げるために大きな効果を上げていました。文字も全部切り抜いて作った(と確かおっしゃられていました)というのが驚きでしたが,このことにより,日本各地に伝わる民話の一種的な味も出ていた気がしました。

東さんは,21世紀美術館での公演では,最後の最後にいきなり登場して,「化け物」たちの世界を救うような,名工・近江之丞桃六の役ででしたが,今回も,そのお得意の部分を中心に,大変雄弁な語りを聞かせてくれました。「天守物語」は,恋愛ドラマであると同時に,「化け物の世界」と「現実の世界」との争いを描いているのですが,私にはこの「化け物の世界」が「何でもありのアートの世界=作りものの世界」の象徴のように感じられます。そのアートの世界を桃六が爽快に救ってくれる最後の部分が,大好きです。北村さんの美術が加わっても,語り中心だとやや分かりにくい部分はあったのですが,1時間弱の時間で「天守物語」の世界にしっかりと浸らせてくれました。
A5版サイズで手作りのパンフレットです

朗読の後,東さんは疲れを見せず,本職である文芸評論家に戻り(?),「天守物語」についての解説をされました。この日は無料だったのですが,「泉鏡花『天守物語』ミニ読本」という素晴らしいお土産もいただきました。ここに書かれている「「天守物語」関連年表」が,資料として素晴らしい内容で,どういう経緯で,「天守物語」が鏡花の代表作として,受容されていったのかが,大変よく分かりました。次のような説明がありました。

■桃六の役割について
  • 「天守物語」は,最後,突然,桃六が「デウス・エクス・マキーナ(注:一言で説明するのは難しいのですが,日本大百科全書オンライン版では「有機的な展開とは無関係な偶然的要因によって物語に決着をつける便宜的な技法」といったことが書かれています)として登場して終わる。桃六は,獅子頭の作者であるが,この獅子頭は100年以上前に作られたもの。つまり,この世の人でないことになる。妖怪たちのいる魔界を支配している大妖怪が桃六という位置づけ。
  • 鏡花は人間よりも妖怪の方が倫理観を持っているといった「妖怪至上主義」。そのことがこの作品にも表れている。
■「天守物語」の受容史
整理すると次のような感じになります。
  • 大正6年(1917) 「天守物語」を雑誌に発表するが,上演されず(当時,鏡花は新派の演劇の作家として知られていたが,内容にリアルさがない怪しい作品である「天守物語」は,新派のスタイルで上演することは不可能だったので)
  • 昭和26年(1951) 新派で初演され,評判も良かったが,その後しばらく上演されず。
  • 昭和30年(1955) 歌舞伎として中村歌右衛門が「天守物語」を上演。歌舞伎との接点が出来る。
  • 昭和44年(1969) 三島由紀夫と澁澤龍彦が対談の中で鏡花を評価したことが契機となり,怪奇幻想文学の側からの『天守物語』が再評価される。
  • 昭和53年(1978) 板東玉三郎が片岡孝夫と『天守物語』を演じ,大評判となる。その後,玉三郎はシネマ歌舞伎の中でもこの作品に出演している。富姫は,「天上の女性」的雰囲気と「お侠な芸者」的な雰囲気の2面を持ったキャラクター。「桜姫廓文章」などに通じるキャラクターで,玉三郎の当たり役になる。
  • その後,玉三郎は鏡花の「海人別荘」「夜叉ケ池」などにも出演。
  • 波津彬子さんが原文の味を活かした形で少女マンガ化。ちなみにこの日,波津さんも会場にいらっしゃっていました。
  • 鏡花の人気は今でも高く,読み継がれてる。
■「天守物語」のストーリーのオリジナルは?
  • 鏡花は江戸時代の説話などを参考にして,この作品に,「朱の盤坊」などの「ご当地妖怪」を入れている。これは,明治時代に柳田國男が復刻した活字本をもとにしたもの。柳田と鏡花は,「お化け好き」という点で接点があった。
  • 1910年柳田が『遠野物語』が発表した時,ほとんどの人が無視した中で,鏡花だけは大絶賛。
  • 柳田は,その後「獅子舞考」という論文を発表。これが「天守物語」のヒントになっている可能性あり。
というわけで,物語を朗読で味わったのに加え,「天守物語」についての色々な角度からの知識も得ることができました。今後も東さんの朗読+解説で,鏡花の名作を取り上げていく...というシリーズに期待したいと思います。

PS. 今回のお話を聞いて,東さんが編集した『文豪妖怪名作選』(創元推理文庫)も読んでみたくなりました。うつのみや香林坊店に沢山あるはず(サイン入り本もあるかも)...ということで買いに行ってみるかな?

PS.今回の朗読の小道具として使われていたのが「夜歩きする燭台」。東さんが名鉄エムザで購入したものとのこと。波津さんの情報によると,小松市出身の金工作家,河上真琴さんの作品とのこと。本日はLEDの蝋燭を使っていましたが,我が家にも一つ欲しくなりました。鏡花を中心にあれこれ広がっていくのがうれしいですね。
文学館の隣のアメリカ楓も美しく色づき始めていました。
PS. ちなみに我が家にも獅子頭ありました(目は青くないですが)。かなり前からずっとあるものです。調べてみると,「中島めんや」のものでした。一家に一個...とまでは行かないと思いますが,金沢市内の「獅子頭保有率」はかなり高いのではないかと思います。