2018年1月2日火曜日

正月時代劇「#風雲児たち:蘭学革命篇」#三谷幸喜 らしく良沢と玄白という2人の対照的なキャラクターによる緊密さのあるコメディになっていましたね。関ヶ原の戦いなど,他のエピソードのドラマ化にも期待しています。

元日の夜,三谷幸喜脚本による正月時代劇「風雲児たち:蘭学革命篇」が放送されたので,観てみました。

原作は,みなもと太郎の同名の長編マンガです。その実写化については,この作品に惚れ込んでいる三谷幸喜さんが,長年構想を温めていたもの(のはず)です。関ヶ原の戦い以降の日本史を題材としたこのマンガは,実は我が家にも20冊以上揃っています(まだ完結していないはずです)。三谷さんのみならず,多くの根強いファンを持つ作品ということで,待望の実写化と言えると思います。
このマンガでは,非常に丹念に日本史のエピソードを描いているのが特徴ですが,今回はその中から,西洋医学を日本に紹介した本として画期的だった「解体新書」の翻訳についてのエピソードを取り上げ,90分のドラマにまとめていました。
主役は片岡愛之助演ずる蘭学者・前野良沢と新納慎也演ずる杉田玄白でした。この2人を
はじめ,登場する役者は,昨年の大河ドラマ『真田丸』に出演していた人たちばかり(ナレーターも有働アナウンサーでしたね)。内容的にも,三谷作品らしく,室内を中心とした才気煥発のコメディとなっており,『真田丸』を楽しんだ人ならば,同様に楽しめる作品になっていたのではないかと思います。

今回のポイントは,前野良沢と杉田玄白の2人が中心となって『解体新書』を訳したはずなのに,出版時には,前野良沢の名前が訳者として入っていないという謎です。その謎を,2人の間の考え方の違いを浮き彫りにしながら,熱く描いていました。

この2人は,「すべては医術のため」という目標と「必ず訳を仕上げるという」という信念を貫こうとした点では共通していたのですが,その性格とアプローチの仕方は正反対でした。このコントラストが,愛之助さんと新納さんの演技で見事に表現されていました。

杉田玄白の考え方は,楽観的,合理的,柔軟で,少しでも早く出版することが,医術の発展に役立つと考えます。一方,前野良沢の方は,完璧主義で疑り深く,細かいことにこだわり,訳すのにどれだけ時間がかかってもよいというスタンスを取ります。

良沢の方が,学究的で,次第に「医術よりも言葉へのこだわりの方た強い」と玄白らに指摘されるようになり,最終的に違う道を歩むことになってしまいます。この溝が埋まりようがないことを双方とも理解し,良沢の名前を外す形で出版ということになります。

この2人の同志でありながらも対立する関係は,同じ三谷幸喜さんのドラマ「笑いの大学」(映画化もされていますね)に通じるものがあると思いました。一つの部屋の中での,丁々発止の台詞やり取りのテンポ感がとても演劇的で,このまま舞台化しても面白そうと思いました。

今回はこの2人の対立を軸をしていましたが,それだけでない膨らみもありました。上述のとおり芸達者な「真田丸」メンバーがずらりと揃っており,「正月時代劇」という名前にふさわしい,オールスターゲーム的な楽しさがありました。

特に,山本耕史演じる平賀源内(何に役立つか分からないが面白いものを常に求め続ける,天才的な発想を持つ人)と草刈正雄演じる田沼意次(ザ・政治家という感じの懐の深さ)を加えることで,『解体新書』が発行された時代背景が生き生きと蘇っていると感じました。

その他の役者も,演技がやや大げさで,キャラクター設定も分かりやすいものになっていました。特に高嶋政伸演じる高山彦九郎と加藤涼演じる小田野武助は,もともと「漫画的顔立ち」ですので,リアルに「原作に出てきた?」と思わせる雰囲気があり最高でした。
高山彦九郎を実写化するなら,やはり高嶋さんしかいない感じですね。
そして,もう一つ。これは最近,三谷幸喜さんが朝日新聞に連載しているエッセーに書いてあったことですが,大昔のNHKドラマ『天下御免』へのオマージュにもなっていた点が良いなぁと思いました。この作品は,最近亡くなった早坂暁さん脚本による伝説的な娯楽時代劇で,エッセーでは三谷さんが子供の頃この作品が大好きだったと書かれています。

私も当時小学生だったのですが,このドラマのことを覚えています。三谷さんが書かれていた,玄白と良沢が「腑分け(人体解剖)」を見学に行くシーンというのも,何となく記憶に残っています。「時代考証は,大河ドラマほど厳密ではない」というエクスキューズが冒頭,有働さんのナレーションで入っていたのも,『天下御免』的な雰囲気を意識していたのかもしれませんね。

三谷さんのコメディについては,ちょっとしたエピソードや細かい蘊蓄にこだわった上で,それを笑いにつなげるのが特徴だと思います。しかし,そのベースには,各キャラクターへの愛情のようなものがあり,とても真面目に各キャラクターの情熱を描いています。こういった点が好きなのですが,そのテイストは,みなもと太郎の原作にも通じるものだと思いました。

というわけで...『風雲児たち』に描かれた題材は,キリなくありますので,機会があれば別のエピソードのドラマ化を期待したいと思います。いちばん見てみたいのは,『真田丸』では,衝撃の「ナレーションだけ」で終わってしまった「関ヶ原」です。このキャスティングは...とりあえず『真田丸』と同様で行けると思います。やるならば,早めに実現して欲しいものです。