シネモンドの入口です。「シーモアさん」の一つ前に,大ヒット作「世界の片隅で」を上映していました。 |
この作品は,アメリカのピアノ教師,シーモア・バーンスタインのピアノレッスンの様子を次々と撮影した,イーサン・ホーク監督によるドキュメンタリー映画です。考えてみると,非常なシンプルな構成なのですが,そこで語られるシーモアさんの含蓄のある言葉と穏やかな語り口,そして,そこで演奏されるピアノ独奏曲の数々。それらが一体となって,一種,癒しにも似た時間が続きました。
シーモアさんのプロフィールは次のとおりです。ここに書かれているとおり,演奏者としてのキャリアは50歳で止め,その後はピアノ指導者としての道を歩みます。
http://www.uplink.co.jp/seymour/aboutseymour.php
現在89歳という年齢を見て驚いたのですが,テクニックは衰えておらず,穏やかな表情,穏やかな語り口にぴったりの,音を聞かせてくれました。そこで使われている言葉については,いちいちメモしたくなるほどでした。かなりゆっくりと明確に話していましたので,英会話の勉強にもなると思いました。とても聞きやすい英語でした。
覚えているのは,「宗教は外に解決を求めようとするが,実は自分の中に既に解決はある」といった言葉です(不正確かもしれません)。「日めくりシーモア」という感じで,シーモアさんの言葉を集めた日めくりカレンダーでも作っていただければ,部屋に飾ってみたいものです。
レッスンで使われているピアノ曲も素晴らしい曲ばかりでした。ベートーヴェンの後期のピアノ・ソナタ,モーツァルトの幻想曲K.475,シューベルトの即興曲op.90-4,シューマンの幻想曲op.17-3...考えてみると,各作曲家の晩年の作品が多かった気がします。すべての音に意味があるような,一種神秘的な雰囲気がありました。「音楽と宇宙の秩序が一致するという考えはギリシャ時代からの伝統」といったことが語られていましたが,シーモアさんの言葉と一緒に聞くと,すべて音符がこれしかない,という配列になっていると感じます。
このところ仕事で,精神的に疲れることが続いています。この映画を観ているときは癒しの時間だったと感じました。シーモアさんについては,ピアノ教師というだけではなく,人生の師,メンターといった風格を感じました。
ただし,日本語タイトルは,やや意訳し過ぎの気がしました。原題は,"Seymour: an introduction"というシンプルなものです。シーモアさんの仕事は,人生相談ではなく,あくまでもピアノレッスンだったので,このタイトルを見て,自己啓発書のような具体的な内容を期待したとしたら,期待外れだったかもしれません。
この作品を観た後は,この作品で取り上げられたピアノ曲をじっくりと聞いてみたくなりました。特に映画の最後の方で,「この曲はあらゆるピアノ曲の中でも最高峰だ」とシーモアさんが語っていた,シューマンの幻想曲op.17の3曲目は実演でも聞いてみたいものだと思いました。
映画が終わった後の東急スクエア |