2016年6月12日日曜日

21美で行われた第七劇場ツァー2016 金沢公演「オイディプス」へ。盛大なノイズ入りの暗転を交え,「目がひとつ多いオイディプス」の悲劇がシャープに伝わってきました。

本日は19:30から金沢21世紀美術館のシアター21で第七劇場による「オイディプス」が上演されるということで,自宅で夕食を食べた後,見に行って来ました。19:30開始というのは珍しかったのですが,金沢の場合(特に土曜日だと),余裕で夕食を食べてから観ることができるので,こういう設定も良いな,と思いました。

今回の公演ですが,実は,第七劇場という劇団よりは,「オイディプス」の方に反応して観に行くことにしました。それと,「21美のシアター21ならば」ということで観に行くことにしました。この場所でのライブは,毎回,迫力のあるパフォーマンスを集中して楽しむことができます。

今回の「オイディプス」は,演劇の原点と言っても良い古代ギリシャのソフォクレス原作による2500年前のシナリオがオリジナルです。それを18世紀ドイツ啓蒙主義時代の詩人ヘルダーリンが訳しています。今回は,そのヘルダーリン版をベースに,第七劇場の鳴海康平さんが,再構築して作ったものです。

終演後の鳴海さんのトークでは,「分かること」や「知ること」に固執している現代社会と18世紀のドイツ啓蒙主義時代との共通性に着目し,知ることに固執した傲慢なオイディプス王が罰が受けるという点にポイントを置いた(多分)ことが紹介されました。なるほど,と思いました。そして,2500年前(日本で言うと縄文時代!)の作品が現代に通用することに驚きました。

# ちなみに英語タイトルは,「OEDIPUS TYRANT」となってました。Tyrantというのは,辞書的には,「暴君」「専制君主」ということで,その傲慢さを強調していたのではないかと思います。

シアター21は,「スタージ」がなく,お客さんと俳優が同じフロアにいる感じになります。役者さんの衣装も,「現代日本の若者の普通の衣装」でしたので,「オイディプス」が等身大の若者として伝わって来ました。

ストーリー展開は,ほぼ原作どおりで(多分),オイディプスが国を乱しているものの犯人を捜すために神託を聞いたところから話が始まります。お客さんの方は,「犯人はオイディプス自身なのに...」と分かっているので,最後の悲劇も読めます。どういうドラマで,そこに至るのか?がこの作品の見所なのだと思います。

ただし,普通のドラマティクな展開とは一味違ったものにしようという工夫も随所に見られました。というか,その点が鳴海さんの主眼だったのだと思います。

場面転換をする代わりに,何回も暗転していました。その度に強烈なザーッというノイズ音声が入ります。このことによって,ブツっとドラマの流れが切れ,余韻が消えてしまいます。そして,その後は,異様なまでに明るい蛍光灯の照明に切り替わるなど,ドキッとさせるような瞬間の連続でした。

役者さんでは,やはりオイディプス役の小菅紘史さん(なぜかスキンヘッドでした)の演技が見ごたえがありました。取り巻きのコロスなどは,不思議な抑揚を付けて,「近頃の若者は...」と言われそうな効果を出していたので,小菅さんの激しい演技だけが浮いているように見えるのが面白いと思いました。

自分の正体を知る場面での王妃イオカステとの絡みの部分では,ノイズによる暗転ではなく,通常の暗転でしたが,一つセリフを言うたびに暗転が繰り返される感じなっており,クールで不思議な高揚感がありました。

強烈なノイズで区切られながら,次第に追い詰められていく展開に強く引き込まれました。ノイズの音を聞くたびにドキリとするようなところはありましたが,ギリシャ悲劇の精神がしっかりと生きているのも素晴らしいと思いました。

今回の上演全体を通じ,構成・演出・演出・美術をすべて担当していた鳴海康平さんのコンセプトは,しっかりと表現され,伝わっていたのではないかと思いました。

いずれにしても,役者さんとの距離が非常に近い小ホールでのプロのパフォーマンスは本当に見ごたえがあります。21美では定期的に演劇公演を行っているので,刺激を得るために,また出かけてきたいと思います。

以下は今回の公演のでデータです。

第七劇場ツアー2016金沢公演(金沢21世紀美術館芸術交流共催事業)
OEDIPUS TYRANT: オイディプス
2016年6月11日(土) 19:30~

原作:ソフォクレス,ヘルダーリン
構成・演出・美術・約:鳴海康平
テ―バイの王オイディプス:小菅紘史,オイディプスの義弟クレオン:伊吹卓光,預言者テイレシアス:米谷よう子,王妃イオカステ:菊原真結,コリントスからの支社:峰松智弘,元テ―バイの羊飼い:堀井和也,コロス:川田章子,佐々木舞,田中みな



公演前に「雲を図る男」付近を撮影


こちらは,タレルの部屋です。この時間帯はライトアップもしているので,かなり大勢の人が入っていました。