2015年10月18日日曜日

本日も快晴。金沢市内ではスイーツ&丼のイベントが大賑わい。21美で行われた泉鏡花シンポジウムへ。鏡花の怪異作品の源泉を多面から分析。内容が充実し過ぎていて,時間が足りなかったですね。

本日の金沢は快晴。しいのき迎賓館やいしか四高記念公園では,毎週のようにイベントが行われていますが,今週は「いしかわスイーツ博2015」と「第7回全国丼サミット」を行っていました。

 


「人が多過ぎ?」と思ってよく見ると,辻口パテシエのトークショーを行っていました。

その後,「まれ」でおなじみになった清水富美加さんと鈴木砂羽さんも登場したようです。その横には,巨大ひゃくまんさんフワフワが。快晴の陽光の下で見ると,妙に幸せな気分になります。

その後,いしかわ四高記念公園の方へ。

こちらも大勢の人が列を作っていましたが,あまり待ちたくなかったので,比較的待ち時間の少なかった「能登・牛すじ丼」を食べることにしました。


本当に柔らかい肉でした。

公園周辺の木々も少しずつ紅葉が進んでいます。

その他,市内各地でイベントをやっていました。

泉鏡花生地近くにある久保市乙剣神社では,「鏡花うさぎまつり」。



こじんまりとした雰囲気が実に良い感じでした。鏡花記念館をはじめ,本日は市内各地のミュージアム類が,「石川県民入場無料」になっていました。



横安江町から武蔵が辻に掛けてもイベントをやっていました。ただし,通り抜けただけです。


ちなみにこの「目細通り」は,鏡花とのつながりも大きな場所ですね。

その後,14:00から金沢21世紀美術館のシアター21で,泉鏡花をテーマにしたシンポジウム「怪異の泉:鏡花 幻影の本棚」が行われたので,参加してきました。


このタイトルは,現在,泉鏡花記念館で行っている展示と同様のもので,鏡花の持ち味である怪異で幻想的な世界の源泉をその蔵書から探るといった内容でした。シンポジウムということでしたが,実際のところ,予定よりも時間がかなり伸びてしまい,4人の講師による,それぞれ別の観点からの講演を一気に聞く(だけ)という形になりました。シンポジウムというからには,講師同士の語り合いがあった方が良かったのですが(時間配分にかなり無理があったのかも),それぞれの内容が充実していた上,相互に内容が絡み合っていたので,自然なまとまりができていました。

今回の講師は,次の4人で,司会は泉鏡花記念館の学芸員の穴倉玉日さんでした。
  • 東京・神田神保町の和書専門の古書店・大屋書房四代目の纐纈(こうけつ)くりさん
  • 浮世絵などの日本美術史が専門の藤沢紫さん(国学院大学教授)
  • 近世文学専門の堤邦彦さん(京都精華大学教授)
  • 怪談史専門家の東雅夫さん(怪談専門誌「幽」編集長)
今回の泉鏡花記念館の展示の目玉は,現存する鏡花の蔵書を全点公開するという点です。鏡花の蔵書は,慶応義塾大学の図書館に寄贈されたのですが,昭和20年5月の空襲で大半が焼けてしまいました。今回展示されたのは,地下に移動されていたため戦火をくぐり抜けることのできた,約500冊の幸運な蔵書です。

その中心が草双紙類ということで,まず,纐纈さんが予備知識的に,草双紙の変遷についての紹介をしました。草双紙は,戯作者による物語と浮世絵師による絵画が一体になった小説で,現在のマンガの元祖のようなものと言えます。その草双紙の到達点が『偐紫田舎源氏』ということで,鏡花記念館での10月20日からの第2期の展示のメインはこの「マンガ版源氏」になとのことです。纐纈さんによると,「鏡花の蔵書の「源氏」は,今まで見た中でいちばんきれいな刷り」ということで,この話を聞いただけで,実物を見てみたくなりました。

続く,藤沢紫さんのお話は,浮世絵の中に出てくる幽霊や怪異表現がテーマでした。まず,藤沢さんの作ってこられたプレゼン(画像もトークも)が素晴らしく,浮世絵の面白さが分かりやすく伝わってきました。特に歌川国貞や円山応挙などの作風を実例を交えて具体的に説明していただいたのが面白く感じました。

鏡花作品の挿し絵は鏑木清方などが描いているのですが,しっかり歌川派の系列に入っていました。鏡花の世界と江戸後期の浮世絵の世界とは,挿し絵の点でも密接につながっていることが分かりました。鏡花の怪異作品に出てくるファム・ファタル的性格を持つヒロインの持つ二面性が,浮世絵の世界の美と粋,美と奇,写実と幻想...といった二面性に重なるのも面白いと思いました。

堤さんのお話は,「江戸怪談の法則と鏡花作品」についての話でした。江戸の怪談については次のような「法則」があるとのことです。①上方中心の初期は宗教的な寺社との関わりの強い作品,江戸中心の後期は芝居小屋中心に展開。②典型的な型を決めて組み合わせるような,「どこかで聞いたようなハナシ」が多い,③版本として類書が刊行され流行することで,怪談の普及が広まった。

鏡花の蔵書には,付箋がわりにワラが挟んであるのですが,そういった部分をチェックすることにより,鏡花の読み方が分かるというのが興味深い点でした。ちなみに,堤さんは慶応義塾大学で国文学を勉強していた頃,このワラの挟まれた蔵書の移動作業を手伝ったことがあるとのことでした。今となっては,これも貴重な経験ですね。

最後に東さんが,鏡花作品と怪談実話や海外作品との関連について,詳細な年表を参照しながら説明されました。鏡花の蔵書の中に含まれていた海外作品は少ないのですが,その1つが「アラビアンナイト(当時の訳名『全世界一大奇書』」です。実際の文章の紹介もあったのですが,明治時代の訳の雰囲気が,鏡花の初期の作品ととても似ているのが面白いと思いました。

さらに鏡花は,柳田國男とかなり若い頃から交流があり(2人ともお化け好き),「百物語」イベントなどで対談を何回か行っていたとのことです。フィールドワークで『遠野物語』などをまとめた柳田と先行する江戸時代の伝承的な素材を取り込んだ鏡花の対比も面白いと思いました。

というわけで,最初に書いたとおり,「まとめ」的なコーナーはなかったのですが,鏡花の怪異文学のルーツが立体的に明かにされたような充実した内容だったと思います。

鏡花記念館の展示は,時々,展示替えをしながら12月末まで行っています。特に刷の良い蔵書は一見の価値がありそうですね。