2015年8月30日日曜日

金沢文芸館で金沢三文豪記念館学芸員によるバトルトーク。近江町市場で金沢市商店街プレミアム商品券を入手後,小雨の中街歩き。

昨日は,この1年間気になっていた,プライベートの荷の重いイベントが無事終了しました。肩の荷がおりました。そんな時には,金沢市内をあちこち歩きしたくなります。今日はあいにくの雨天だったのですが,金沢文芸館で行われた「おもしろい!文学 金沢三文豪記念館学芸員によるバトルトーク」に参加した後,傘をさして街歩きをしました。

この「バトルトーク」ですが,尾張町にある金沢文芸館の開館10周年を記念して行われたもので,金沢市内にある,室生犀星,泉鏡花,徳田秋聲の金沢三文豪の各記念館の学芸員が,それぞれの作家について語るという内容でした。タイトルを見た感じでは,ビブリオバトルのようなことを行って,参加者が投票を行うイベントかな,と思っていたのですが,もっと「普通」の内容でした。

その点では,ちょっと期待とは違っていたのですが,1時間30分の間に3文豪に関する「ここがポイント!」というツボが詰まっており,大変参考になりました。お客さんもよく入っており,超満員でした。

スピーカーとして登場したのは,室生犀星記念館の嶋田亜砂子さん,泉鏡花記念館の穴倉玉日さん,徳田秋聲記念館の薮田由梨さんの3人。司会(レフリーということでしたが)が金沢学院大学の蔀際子さんでした。全体の進行は,司会の蔀さんが,3人に質問し,それに順番に答えながら,学芸員の皆さん相互で質問し,という形で進んでいきました。

以下,その質問ごとの要点をご紹介しましょう。作品名については,音を聞いただけで分かりにくい部分があったので,本当はホワイトボードぐらいあると良かったのですが,会場が狭かったので仕方がなかったかもしれません。

【1】3文豪のここがすごい。

秋聲
  • (薮田さん自身について)もともとは中原中也のファンで,秋聲のファンではなかった。
  • 秋聲は自然主義文学ということで,変哲のない日常を起承転結もなく描くことが多く,魅力がわかりにくところがある。
  • 秋聲の妻の死を描いた「折鞄(おりかばん)」という小説を読んで大変な作品だと思った.。人間の死をこれほど鮮やかに描いた作品はない。
  • 秋聲の作品は「人間の真実」を描いている。指先の「ちょっと気になるささくれ」のような,日常の中のちょっとしたひっかかりのようなものを描いている。
  • そういったことは,読み手側から取りに行かないと分からない。これは中原中也のようなストレートに思いをぶつける作家とは対照的である。読み手側の感性が試され,読み手の感性が蘇る。
  • 夏目漱石は秋聲のことを「書きっぱなし」と評したが,実はすごい作家である。
  • そういったコツをつかんでからは,面白くなった。
鏡花
  • (穴倉さん自身について)薮田さんとは逆に,大学生の時に鏡花を知ってはまった。努力してはまったのではないので,毎日が幸せである。
  • 私自身,ロマンチストではなく,自分の体験を優先するリアリストである。そして,非日常の世界に連れて行ってくれるのが文学の価値と考えている。その最高峰が鏡花である。
  • 現実にないものを組み合わせて見せているのが鏡花である。

犀星
  • 犀星の全作品を読んではいないが,何を読んでも生命力や強さを感じる。
  • 犀星は学歴や後ろ盾もなく,ペン一本で,書くことだけで家族を支えた人である。
  • 三文豪の共通点について3人で語ったことがあるが,「決して自殺しない文学者」という結論になった。犀星を読むと生きる力を得られる。
  • 犀星は,新しい表現や胸に響く言葉を感覚的に作り出した人で,用語が独特である。
  • 犀星の言ったこと,書いたことを沢山見せることを主眼に展示を行っている。
# 蔀さんが言われていたとおり,各学芸員さんのバックグランドも見えたのが面白かったです。

【2】3文豪について持たれているイメージで実体と違うと感じることは何か?

秋聲
  • 「女性の描き方がうまい」と小学生に説明したら,「女好きか」と言われた。いろいろスキャンダルもあり,そう思われるが,女性が好きでたまらないというのとは違う。
  • 『あらくれ』に出てくるお島などについては,時に冷笑するような厳しい視点で描かれていると感じることがある。秋聲は誰に対しても,自分に対しても厳しい描き方をする。
  • 人生をそのまま見せるのが秋聲の持ち味である。
  • (薮田さん自身)シンデレラのように報われるような話は嫌いである。

鏡花
  • 鏡花のことを女だと誤解している人(若い人)がいる(何かのゲームの中で美少女として描かれているため)。
  • 作品の印象から実生活も「おどろおどろしい」と考える人もいるが,実際は大変堅実な人である。(穴倉さん自身)鏡花の人間そのものには興味はなかったが,この仕事をするようになって分かった。大変な潔癖症ではあるが,まっとうな生活者である。
  • 「変態」だと思われていることもあるが,そういった誤解を訂正していくのも,私たちの仕事である。

犀星
  • 「ふるさとは遠きにありて思うもの」のイメージから,金沢嫌いだと誤解されている。実際は金沢のことが大好きである。これほど金沢を誉めている作家はいない。この詩は,金沢からもう一回東京に出て行ったという詩である。ただし,段々と分からなくなる詩でもある。
  • 犀星は自分の詩を生涯に渡って何回も直しているが,この詩については,全く手を入れていない。
【3】3文豪が文学を志したきっかけは何か?

犀星
  • 犀星が文学者になっていなかったらロクな人になっていなかっただろう。若い頃は常にけんか腰で,生活が苦しいのに働かない人だった。
  • 金沢という都市にいたから,文学をやるのは自然だったのではないか?犀星に,たまたま,文学の才能があり,独学で勉強し,そのまま進んで行った。金沢には,美術工芸なども含め,実学でないものを認めるような土壌があるのではないか。
鏡花
  • 犀星とは時代が違い,鏡花は子供の頃は,江戸時代の草双紙(絵本のようなもの)を読んで育った。絵を見て楽しみ,物語に親しんでいた。
  • その後,尾崎紅葉の作品に出合い,その門下生を目指すことになった。

秋聲
  • 秋聲は内向的な性格だったので,もともと文学者向きだった。
  • 第四高等学校の前身校に通い,秋聲の回りにも文学好きが多かった。秋聲自身は消極的な人だったが,浅野川の橋の上で,先輩から文学者に向いていると言われたり,同級生の桐生悠々の影響を受けて,一緒に小説家を目指して上京するなど,いろいろなきっかけが周りにあった。

(余談)当時,上京する時,どういうルートを取っていたか?
  • 鏡花:米原経由だった。米原までは徒歩か人力車。
  • 秋聲:越後湯沢経由だった。やはり鏡花とは逆ですね。
  • 犀星:米原経由。全部列車を使っていた。
【4】3文豪の作品数はどれくらいか?
# この数字は,どの作家についても確実なことは言えないようです。目安です。
  • 鏡花:明治24年頃から昭和14年にかけて活躍し,300~400作品ぐらい。
  • 秋聲:明治30年頃から昭和18年にかけて活躍。全集にも収録しきれていない作品があり2000作ぐらいあると言われている。とにかく多作である。
  • 犀星:約40年間に渡って活躍した。詩が2000作,小説が800....
【5】声に出して読みたい3文豪コーナー。好きな作品の一節を読んでください。
  • 鏡花 『春昼・春昼後刻』 鏡花の恋愛観が出てくる場
  • 秋聲 『黒い幕』 『折鞄』が好きだが,別の死を描いた作品を選んだ。
  • 犀星 『つくしこいしの歌』 奥さんへのプロポーズの部分
【6】3文豪の人間や生活のスタイルなどについてのとっておきの話

鏡花
  • 潔癖症だった鏡花が,関東大震災に被災した後,どう過ごしたか?
  • 野宿をしていたが,それでも潔癖症を貫いていた。極端さをぶれずに貫いた。
  • 震災の体験を『露宿』という作品で克明に描いている。鏡花の観察眼,記憶力のすごさが分かる。幻想文学とのギャップが面白い。
  • 学芸員をしていると,鏡花が実際に使っていたモノに触れることがある。活字と違ったモノに触れると厚みが出る。
秋聲
  • 関東大震災の頃,秋聲は,たまたま金沢に帰って来ていた。
  • 秋聲の作品の中の「私」については,本当に本人なのか区別がつかないことがある。
  • 震災については,「面倒くさい」と思っていた。非常時のシミュレーションをするのが苦痛で,「多分大丈夫」と思おうとしていたのではないか。秋聲は無精な人である。この「無精な人」というのは,秋聲のポイントである。これで色々なことを読み解ける。
犀星
  • 犀星はマメな人だった。
  • 震災の時,妻を探すために車で上野に行っているが,がむしゃらに探すのではなく,あれこれ万端用意をして探しに行っている。
  • その頃生まれたのが,室生朝子さんである。
【7】3文豪をつないでみましょう。

犀星と鏡花
  • 直接会ったのは数回である。何をしゃべったか気になる。
  • 昭和4年5月,金沢からの帰りの列車の中で一緒になり,話をしている(鏡花が『山海評判記』を書くために和倉に行った頃)。
  • その後,犀星から鏡花に対して,軽井沢のものなどを色々送っている。
  • 鏡花から犀星へは,電報+とらやの羊羹を送ったりしている。
犀星と秋聲
  • 犀星が秋聲に竹を送っている(「この竹は今でも生えている」と秋聲のお孫さん(この日来られていました)の徳田章子さんが語っていました)
  • 犀星と秋聲は庭造りの趣味が共通しており,仲良く付き合っていた。
  • 「秋聲を囲む会」である,「二日会」にも犀星は入っていた(鏡花は入っていなかった)。
秋聲と鏡花
  • この二人は合わなかった。「言ってはいけないこと」を秋聲が言ったのが鏡花は許せなかった。
  • 鏡花が秋聲について触れている文章は,不自然なほどない。意識はしていた。
  • 秋聲に『和解』という作品はあるが,若いしていないのではないか。
  • 秋聲の「無精さ」は,大らかさにもつながっており,色々と弟子の面倒は見ているが...鏡花とは合わなかったのかもしれない。
【8】最後に各館の現在の展示についてのお知らせ
  • 秋聲: 「芙美子と秋聲」秋聲は,あれこれ芙美子の力になっている。
  • 鏡花: 「鏡花と〝旅〟する金沢・石川―明治・大正・昭和を辿る」
  • 犀星: 「犀星と田端文士村」展 芥川龍之介とのつながりなど,人間性の分かるエピソードを紹介


というようなわけで,大変充実した内容でした。何よりも,金沢出身の文学者だけでネタがつきないのが素晴らしいと思いました。個人的には,秋聲を「無精な人」というキーワードで読み解いた,薮田さんの説明がいちばん面白いと思いましたので,「この日は秋聲の勝ち」ということにしておきたいと思います。是非,また違った切り口で3文豪勢揃い企画を期待したいと思います。



この日ですが,金沢文芸館へは,武蔵が辻でバスを降りて徒歩で尾張町に向かいました。意外に尾張町商店街をじっくり歩くことはないので(いつも裏通りを通っているので),歩きながら写真を撮ってみました。

まず,武蔵のバス停付近で,金沢市商店街プレミアム商品券なるものを販売していました。


1万2000円分の商品券(市内の色々な商店街で使えます。ただし,有効期限あり)を1万円で買えるというものです。特に関心はなかったのですが,「とっくに売り切れているのかと思った」「使い道は多そう」...など色々考えているうちに,「話しのネタになりそう」ということで,引換券をもらい,1万円分を購入してみました。全く待ち時間無しで買えてしまいました。


その後,近江町市場を通り抜けました。すっかり観光地らしくなり,この日も行列の出来ている店がいくつかありました。市場というよりは,海鮮丼の店や寿司屋などの飲食店の方が人気なのかもしれませんね。






この日は,アカペラタウンのイベントもやっていたのですが,雨が降っていたので,規模を縮小していたようです。近江町市場前でも歌っていました。

さて,尾張町商店街ですが,建物がそれぞれに味があるのが良いですね。歩道が狭く,連続していないのが残念ですが,他の都市にはないような店が多いと思います。

味噌の店

「ふ」の店

自転車屋の店頭のスクリーン。いつの時代?ジュリアーノ・ジェンマでしょうか。


この週末に行っていた,金沢燈涼会のポスター。

各店のショーウィンドウが博物館の展示のようになっているのが面白いところです。なぜかバラライカ?

このレトロ感は残していって欲しいですね。

金沢文芸館に到着

イベントが終わった後は,せっかくなので泉鏡花記念館方面へ。ただし,中には入らず。

その向かいの久保市乙剣神社。イベントをやっているかと思っていたのですが...8月29日だったようです。残念。

その後,方角を変えて,兼六園下方面まで歩きました。歩いて10分ほどで石川門が見えてきました。これからの金沢観光のテーマは,「ウォーキング&サイクリングコース」を分かりやすくすることかもしれません。


さらに歩いて,金沢21世紀美術館へ。21美主催の展覧会が今日が最終日ということで,最後にさっと見てきました。相変わらず繁盛していました。




さらに徒歩で,柿木畠商店街へ。うつのみや書店の店頭には,例のプレミアム商品券のポスターが。書籍の購入にも使えるようです。

何やら楽し気な音楽が聞こえてきたので,石川四高記念公園の方へ。

オクトーバーフェストをやっていました。ただし,さすがに小雨交じりなので,お客さんは少なかったようです。来週末に期待でしょうか。

さすがに疲れたので,バスで帰宅したのですが...家に戻る前に,近所の酒屋によって,日本酒を購入。少し気温が下がると,日本酒を飲みたくなります。早速プレミアム商品券を使ってみました。

購入したのは,能登のお酒 「竹葉」。実は金曜日の夜に飲みに行く機会があり,出てきたのがこの銘柄でした。とてもおいしかったので,買うことにしました。

そろそろ,「冷おろし」の季節ですね。酒屋には,チラシも置いてありました。

というわけで,かなり歩いたこともあり(雨は降っていたけれども,気温的には丁度よい感じでした),心地よい疲労感があり,お酒もおいしく感じました。

最後に入手したプレミアム商品券と,金沢文芸館でいただいた扇子です。扇子は入場料100円より高そうな感じでした。