2013年10月13日日曜日

昨日,室生犀星記念館で一色誠子さんによる「本を造るということ:犀星とその周辺から」を聞いてきました

昨年ぐらいから,金沢市内で開催される講演会で面白そうなものがあると,積極的に聞きに行くようにしています。90分ぐらいのものが多いのですが,同じ時間を使って本を読んだりするよりも,自分の「経験」として記憶に残るので,自分の関心の幅を広げたり知識を深めるためには効果的だと思っています。しかも,嬉しいことに無料で行っているものが大半です。

この日は室生犀星記念館で行われている展示「犀星の本づくり:装幀は書物の晴着」にあわせて行われた,徳山工業高等専門学校教授の一色誠子さんによる「本を造るということ:犀星とその周辺から」という講演を聞いてきました。会場は記念館の中の会議室のような部屋で,かなり狭かったのですが,その分,しっかりと聞くことができました。

# 「装幀」という言葉については,「装丁」という言葉もありますが,物理的に製本するだけではなく,「装い,仕立てる」という意味を込めるために今回の講演では「装幀」を使うとのことでした。

今回の講演では,数多い犀星の本の装幀の特徴,時代による変化などについて本を撮影したスライドや現物をまじえて紹介して頂きました。犀星は装幀について,強いこだわりを持っていた作家で,「著者こそはあらゆる装幀家の装幀を司るべきである」と語っています。一色さんは,ブック・プロデューサーという言葉を使っていましたが,今回の話を聞いて,私も同様だと感じました。

犀星は,外箱を取って,表紙を開いて,目次が出てきて...という読書のプロセスまで意識しているようです。テキストが始まるまでの期待感を作ることも作家の仕事と考えていたのかもしれません。また,本というモノを作るという点では,工芸品として本を見ていたのかもしれません。

電子ブックが普及し始めている現代,本については「テキストさえ読めればよい」という面も出てきており,その方が好都合のジャンルもあることも確かですが,特に小説などの文学作品については,犀星のようなあり方はこれからも残る気がします。特にその作家の熱烈なファンという人の場合,本に形があることを求めると思います。

ただし,スマートフォンなどを使ったディスプレイ上のテキストのやり取りに慣れた若い世代が紙の本をどれだけ求めるのかは未知数です。また小説を集中して読む時間を確保できるのか?という問題もあります。

このことを逆手に取って,ネットワーク依存気味の若い世代に対する処方箋として,外箱付きの凝った装幀の本を作ってみることはもしかしたら効果があるかもしれない。そう考えると本の外箱から原稿が始まっているという意識で本を造っていた犀星のようなスタンスは現代の出版業界でも見直しても良い傾向ではないか。そんなことを思いながら話を聞いていました。

この展覧会場に置いてあったパンフレット(無料)ですが,犀星の著作の写真が時代ごとに分類されてずらりと並べられた大変素晴らしいものでした。今回の一色先生の話を聞きながらこのパンフレットを読み,さらに展示を見ると,犀星の意図が大変よく理解できます。展覧会のガイドとしてぴったりの内容の講演会だったと思います。

一般的に文学館の展示というと,達筆で書かれた自筆原稿など文字の展示が多く,読むのが面倒なのですが,今回のように装幀に注目した展示だと,一種美術館の展示のようにも楽しむことができます。装幀にこだわった犀星ならではの良い企画だと思いました。


 
 

金沢市の文学館では毎年秋に,スタンプラリーをやっているのですが,今年もやっていました。2日間有効のパスポート(金沢市内の文学館などにどこでも入れる)を500円で売っていたので,今回はこれで入館しました。その後,石川近代文学館も見てきたので,取りあえずこれでモトは取れているのですが,今日もいくつか出かけてみようと思います。