2013年9月29日日曜日

石川県立図書館で作家・光原百合さんの講演「書く楽しみ:作家が教える創作の秘訣」を聞いてきました。光原さんの「十八の夏」を読みたくなるような楽しい内容でした。

このところ金沢では,とても過ごしやすい気候が続きています。1年中この気温,湿度,天候だとどれだけ世の中全体の仕事の生産性が高まるだろうか,と無粋なことなどを考えてしまうくらいです。

空はこんな感じで大変おだやかな一日

その中,兼六園周辺文化の森ミュージアムウィーク協賛講演会として,作家・光原百合さんの講演会が石川県立図書館で行われたので参加してきました。一年前の翻訳家・越前敏弥さんの講演の時もとても知的で面白い内容でしたが,今回もまた,色々な本を読んでみたなるような,楽しい内容でした。


私自身,光原さんについては全く知らなかったのですが,チラシを見て,代表作の「十八の夏」を購入し,半分ほど読んでから講演に臨みました。光原さんは,小説家であると同時に現在,尾道市立大学の教授もされています。文芸作品の創作についての講義を行っているということで,今回の講演内容もきちんと整理されていました。

内容は,
  1. 物語の構成方法
  2. 短編集「十八の夏」の執筆の経緯
  3. 「十八の夏」所収の各作品の内容
の3部に分かれており,その後,質疑応答がありました。きちんと整理されているといっても,光原さんの語り口はとても穏やかで,色々と余談もされていましたので,リラックスして聞くことができました。

まず,「物語の構成方法」ですが,(1)どうしてそうなったか型(2)それからどうなったか型に分けることができます。光原さんの呼び方によると,(1)が「鵜飼型」(2)が「鷹狩型」ということになります。まず,この呼称が面白かったですね。(1)の方は,何か事件が起こった後,その理由を解き明かしていくような「ミステリー」小説タイプ,(2)は自由にエピソードが展開していく,「ファンタジー・SF」小説タイプということになります。もちろん,ミステリーとファンタジー・SFできっちり分かれるわけではないのですが,ミステリーという分野自体,「事件とその謎解き」ですので必然的に(1)が多くなります。

この「鵜飼」というネーミングですが,作者がいくつか伏線を張った後,それらを糸が絡まないように全部拾い集め,1点に集中していく感じが鵜飼のイメージを思わせるからです。「鷹匠」の方は自由にエピソードを羽ばたかせるという形です。光原さん自身は,「鵜飼型」でないと怖くて書けない」とのことでした。全体の設計を行った後,ストーリー展開の中でこのことを語らせるにはどういうキャラクターが必要か,といったことを全部考えてから執筆されるとのことです。私自身についても(もちろん小説は書いたことはありませんが),書くならば「鵜飼型」かな,と思います。ちなみに,宮部みゆきさんなどは,(1)も(2)も巧い稀有な作家だとのことです。

その「鵜飼型」の作品の例として,今回は光原さんの代表的短編集である「十八の夏」に収録された4作品について,ネタバレにならない程度に創作過程を紹介して頂きました。こういった話を作者自身から聞く機会は滅多にないことなので,大変興味深く聞くことができました。今回たまたま,この短編集を購入して,読み始めていたので,その点でもタイムリーでした。

この短編集に収録されている4作品については,光原さん自身は「ミステリー」として書いたと言われていましたが,本全体の書名にもなっている「十八の夏」などは,恋愛小説として紹介されることもあるそうです。実際私も読んでみて,ミステリーなのかな?と思いました。

ただしこのことは悪い意味ではありません。登場する女性のキャラクターがとても魅力的で,彼女に対して恋愛感情を持つ18歳の浪人生とその女性とがどうなっていくのかな,というストーリー展開に強く引かれてしまうからです。物語自体が終わった後,人間関係について謎解きをするという形になっているので,「ミステリー」ということになるようです。

その他の作品についても,名探偵とその助手が出てくるような絵に描いたようなミステリーではなく,日常生活や色々な人間関係の中にちょっとした謎が埋め込まれているような「地味な作風(光原さん自身が語っていました)」です。今回読んでみて,こういうタイプの作品はありそうでないなぁ,と感じたので,「十八の夏」以外にも光原さんの作品を読んでみたくなりました。ただし...緻密に設計を行って執筆されるせいか,光原さんは書くのにとても時間がかかるのだそうです。

講演会の後には,(予想どおり)サイン会があったので,持参した「十八の夏」の標題紙にサインをいただいてきました。

それにしても県立図書館で時々行われている講演会のシリーズは毎回とても面白い内容です。次回にもまた期待したいと思います。

講演会の後,柿木畠方面に向かったところ,うつのみや書店の隣で,古本市をやっていました。古本の販売というよりは,「自由に持って行ってください。よろしかったら1冊100円ぐらい払ってください」というリユース市でした。




このところ,本が増えすぎないように注意しているところなのですが,文庫本を2冊もらってきました。

その後,金沢21世紀美術館に行きました。コレクション展の方が新しいものに切り替わっており,ざっと眺めてきました。

いくつか見覚えのある作品がありましたが,ビデオ作品が多かったので,もう少し秋が深まってから,じっくりと鑑賞してみたいと思います。