2013年4月20日土曜日

今日一日,村上春樹著『色彩を持たない多崎つくると,彼の巡礼の年』にはまっていました。金沢21世紀美術館に展示中の北川宏人の「色彩をもった若者群像」とも符合

昨日買った村上春樹の最新作『色彩を持たない多崎つくると,彼の巡礼の年』を読み終えました。

村上春樹の作品については,文章は読みやすいのにストーリーが分かりにくい,ということがよくありますが,この作品についてはストーリーもシンプルだったので,一気に読んでしまいました。久しぶりに村上さんの作品を読み,その知的で巧みな語り口に,はまってしまいました。こういう一日も良いものです。

この作品については,何といっても "Colorless Tsukuru Tazaki and His Years of Pilgrimage"という英文を直訳したような”変なタイトル”が印象的です。村上さんにしか許されないタイトルですね。ただし,読み終わってみると,「これしかない」と思いました。

ストーリーは,名古屋在住の多崎を含む男3人,女2人の仲の良い高校生グループの話が起点です。多崎以外は,アカ,アオ,クロ,シロといった色の入った苗字を持っています。多崎だけは,苗字に色が入っていないので「色彩を持たない多崎つくる」ということになります。このグループがある事件がきっかけで崩壊してしまいます。その16年後の現在から過去に遡るのがストーリーの中心です。

後半,かつての友人を訪ね,過去の「なぜ」に迫っていく辺りが「巡礼」という感じでしょうか。そして,何よりもリストのピアノ曲集「巡礼の年」がストーリーの重要な小道具として使われています。「ラザール・ベルマンによるLPレコード」と固有名詞がはっきり書かれているあたりも,村上さんらしいところです。ちなみに後半ではアルフレート・ブレンデルのCDも出てきます。

文章の語り口は,いつもどおりです(朝早く起きて,トーストを食べて,コーヒーを飲んで,水泳をして,シャワーをあびて,さっぱりとした服を着て...みたいな感じ)。どこがで読んだことがありそうな既視感がありますが,個人的には,そういう律儀な記述を読むのが好きだったりします。

ストーリーの中心は,信頼していた友人からの裏切りとそこからの回復ということでしょうか。人と人とのつながり(最近の流行語で言うと「絆」)というものがテーマになっているように感じますが,そこに,多彩で知的な味わいを持つ人間関係が絡まり,独特の味わい(読んでいると,段々テレビとかを見たくなくなってきます)を醸し出しています。「気の利いたセリフ」や「巧いこと言い過ぎ」といった比喩なども含め,いかにも村上春樹らしい,バランスの良い読み物になっていると思います。

ところで...今日の午前中,金沢21世紀美術館に行ってきたのですが,何と「色のついた5人」を見かけました。この小説との符合を見つけ,一人で喜んでいました。

現在行われているコレクション展「ボーダーライン」の展示作品の中に北川宏人による5体の若者の像があります。次のような作品です。
http://www.kanazawa21.jp/data_list.php?g=51&d=8

そのタイトルが,「ニュータイプ2003 ブラック」「ニュータイプ2005 ホワイト」「ニュータイプ2005 グリーン」「ニュータイプ2005 ブルー」「ニュータイプ2003 ワンピース」というものです,1つだけタイトルに色が入っていないことと,1体だけ別の場所に飾ってある点が「多崎つくる」の設定と同じです(多崎だけ他の4人から分かれて東京に出てきていることになっています)。

我ながら結構,面白い発見だと思っているのですが... しっかり「多崎つくる」にはまってしまった1日でした。