2012年10月7日日曜日

翻訳百景 「ダ・ヴィンチ・コード」翻訳者の越前敏弥さん(金沢市出身)の講演を石川県立図書館で聞いてきました。

今日の金沢は,雨が時々降ってくるけれども,結構空は明るい...という非常に微妙な天候でした。そんな中,石川県立図書館で「ミュージアム・ウィーク」の一環として行われた,金沢市出身の翻訳家・越前敏弥さんの講演会を聞いてきました。入場無料ということもあり,会場は大盛況でした。

 越前さんのお名前を聞くのは初めてだったのですが,「ダ・ヴィンチ・コード」の翻訳者という宣伝文句に釣られて, 今回は参加して来ました。ただし,話の内容としては,「ダ・ヴィンチ・コード」の話はほとんど出て来ず,海外小説の翻訳の面白さや難しさを豊富な事例とともに紹介するというものでした。「難しさ=面白さ」ということで,最初から最後までリラックスして楽しめました。話を聞き終わった後は,「頭の体操」をしたような気分になりました。

まず,翻訳者に必要な資質として,(1)日本語が大好き,(2)調べ物が大好き,(3)本が大好きという3点を上げていました。「英語が得意」というのは前提条件とも言えるのですが,越前さんによると,ウェイトとしては20%程度ではないか,とのことでした。翻訳された小説は,「結局のところ日本語」だからなのですが,この日の越前さんの話を聞いて,その理由が納得できました。

例えば,「仁王立ち」「寿司詰め」「狂言自殺」といった言葉を翻訳小説で使うかどうか,といった言葉のセンスが大切になります。越前さんは「和臭」という言葉を使っていましたが,翻訳小説を読みながら,「寿司がイメージとして頭に浮かんでしまうのはNG」ということになります。ちなみに,この3つの例の中では「狂言自殺は,OKだろう(人によって意見は分かれると思いますが)」とのことでした。

その他,英語によく出てくる,頭韻をどう訳すか,パロディ小説をどう訳すか...など経験豊富な越前さんならではの話を伺うことができました。

ちなみにダン・ブラウンの「ダ・ヴィンチ・コード(The Da Vinci Code)」のパロディ小説といして,”The Da Vinci Cod" by Don Brine という本があるそうです。Codというのは,タラのことで,Brineというのは塩水ということで,塩漬けになったタラをモナリザが持ちあげている表紙です。

amazonで調べてみたら出てきました。↓次の本です。
http://www.amazon.co.jp/The-Da-Vinci-Cod-Parody/dp/0060848073
 Fishyと書いてありますが,これは「うさん臭い」ということと魚を掛けているとのことです。

あまりにバカバカしくて翻訳されていないそうですが,翻訳講座の素材には,かえってぴったりだそうで,この本をネタに英語学習関係の新聞に連載を始めたとのことです。例えば,小説が始まってすぐに殺されてしまう,ジャック・ソニエールがCodの方だと,Jack Sauna-Lurkerとなります。パロディ小説の場合,これをどう訳すか?といった課題を翻訳学校の生徒さんにやらせたりしているそうです。

普通の小説ならばそのまま発音どおりカタカナにするのですが,パロディだと分かるように,例えば,ジャック・サウナデネール(=サウナで寝る) といった風に変えてしまうことも「あり」とのことです。こういう話は非常に面白いですね。こういう話を聞いているうちに,実際に翻訳小説を読んでみたくなりました(とりあえず,「ダ・ヴィンチ・コード」を読んでみようと思います)。

越前さんは,金沢市出身ということですので,是非,また来ていただいて,「続編」的な話を聞いてみたいものです。

PS.終了後,越前さんの本を持っている方にサインをします,ということでしたので「念のため」持って行っていた角川文庫版の「ダ・ヴィンチ・コード」にサインをしていただきました。