2011年8月12日金曜日

映画「マーラー:君に捧げるアダージョ」をシネモンドで観てきました(1週間以上前ですが)。

今日から夏休みです。が,今年は子供が多忙なので,どこへも出かけず,金沢でじっとしている予定です。いろいろと勉強をしないといけないことも多いので,読書を中心に過ごそうと思っています。

1週間以上になりますが,金沢の香林坊に唯一残った映画館シネモンドで久しぶりに映画を観てきました。香林坊109が出来て25年以上にもなりますが,1990年代前半頃までは,シネモンド(109シネマと言っていましたね)で映画を観て,山蓄でCD,地下の北国書林で本を探す,というようなことをよくやっていました。今から思うと贅沢な時間でした。今では,山畜も書林もなくなってしまいましたが,マーラーの伝記的な映画が上映されるということで,久しぶりにシネモンドに出かけてきました。

この作品は,マーラー生誕150年・没後100年記念の作品で,マーラーの若い妻・アルマの浮気に悩むマーラーの内面を,交響曲第10番「アダージョ」などの音楽を交えて描いたものです。フロイトに相談に悩みを打ち明けるというのが映画の枠で,回想シーンと現在とが頻繁に交錯します。いろいろな要素が混在し,気分がガラリと変わるという点で,この作品自体にマーラーの交響曲を思わせるところがあるのが面白いところです。

ストーリーの核,というかマーラー夫妻の葛藤の原因になっていたのが,結婚後,アルマの作曲家としての才能をマーラーが封じこんでしまったことです。アルマ自身,夫の作曲の才能を認めてはいるけれども,自分自身ももっと自由に生きたいという欲求が次第に強くなっていきます。かなりドロドロとした濃いドラマなのですが(現実もそうだったのだと思います),画面全体に世紀末ウィーンの上流階級の雰囲気が漂っており(建築家のグロピウス,指揮者のブルーノ・ワルター,ウィーン・フィルのコンサートマスターのロゼーなど有名人も大勢登場),観ていて文学的な気分にさせてくれます。
それ以外にも夏の避暑地風の美しい自然もふんだんに登場するので,観ていて,心地良さすら感じました。この映像の美しさは,パーシー・アドロン監督(映画「バグダッド・カフェ」の監督)の持ち味なのでしょう。

俳優も非常にリアルな雰囲気を出しています。特にマーラー夫妻は,写真に残っているイメージどおりです。貴族的な感じと繊細さと頑固さが混ざったようなマーラー,表情豊かで人を引き付ける魅力に満ちたアルマともにハマリ役だと思います。

この作品を観ると,特にアルマの人生に興味が出てきます。アルマの書いた回想録のような本を持っていたはず(ずっと読んでいなかったのですが...)なので,これを機会に読んでみようかと思っています。映画のイメージと重ね合わせると,きっと読みやすいのではないかと思っています。

マーラーを描いた映画を観るのは,ケン・ラッセル監督の「マーラー」以来2回目のことです。ただし,この内容については,はっきり覚えていません(確かこれも109シネマで観たはずです。映画のいちばん最後に指揮者のベルナルト・ハイティンクの顔が出てきてびっくり(というかガッカリ)したことは覚えています。あまり面白くなかったのかもしれません。)。今回の作品は,ケン・ラッセルのものよりは,面白く観れた気がしました。

というようなわけで,マーラーのお好きな方にはお勧めの作品です。私の場合,久しぶりに香林坊で映画を観て,その後,古本(シネモンドの一つ下の階で営業していました)を眺めることもできたのも嬉しかったですね。20年ほど前の気分に浸ることができ,懐かしく感じました。