2023年12月24日日曜日

シネモンド開館25周年記念 映画「秋聲旅日記」を鑑賞。金沢らしさ秋聲らしさあふれる映画の後は,甫木元空監督を交えたトークイベント。シネモンドならではの上演&企画でした

本日の午後は,シネモンド開館25周年記念,青山真治特集として行われた,映画「秋聲旅日記」をシネモンドで観てきました。

シネモンドが開館したのは1998年12月。この時,映画「ムトゥ:踊るマハラジャ」を観たことは今もしっかり覚えています。あれから25年,金沢の香林坊には「無くてはならない場所」であり続けていると思います。

今回上演された「秋聲旅日記」は,昨年3月に亡くなった青山真治監督が,20年以上前に金沢で行われた映画のワークショップがきっかけとなって生まれた中篇(43分)です。タテマチ商店街とシネモンドなどが中心となって作られた作品ということで,25年を振り返るのには相応しい作品と言えます。

この作品ですが,ストーリーはシンプル。「訳あり」の秋聲が金沢に戻って来て,なじみの女性の営業する東茶屋街の宿に数週間滞在した後,東京に戻る...といったものです。独特なのは,ドラマの内容自体は,セリフなどはほぼ原作どおりなのに(複数の秋聲作品を組み合わせたもの。調べてみると「挿話」「籠の小鳥」「町の踊り場」「旅日記」が原作),映像の方は現在の金沢という点です。

冒頭,秋聲は小松空港に飛行機で到着するのですが,着ている衣装は当時の秋聲のまま。その後,現代の車で金沢まで移動し,鮎を現代のお店で食べます。その後,芸妓の歌や三味線を聴いたりします。いちばん面白かったのは,秋聲がジャズボーカルを昔なじみの芸妓などと一緒に聴くシーンでした。ここで出てきた店が,柿木畠の「もっきりや」(この店には何回も行ったことがあるので嬉しくなりました)。そして,ケイコ・リーさんによる情感たっぷりのボーカルをしっとりと聴かせてくれました。中篇作品なのに,この曲は1曲全部入れるなど,たっぷりと時間を取っていたのも大胆。時の流れ方が分からなくなる感じのする作品です。

そして,時空を飛び越えた映像なのに,全く違和感を感じさせないのは,やはり金沢でロケをしているからだと思います。金沢の観光地には,江戸時代から続く茶屋街だけでなく,金沢21世紀美術館などもありますが,その「金沢らしさ」がそのまま映像化されていると思いました(ただし21美がオープンしたのは,この映画の撮影後です)。そして,秋聲自身のキャラクターの「和洋折衷」感にも合っていると思います。同じ金沢出身でも,犀星や鏡花については,和服のイメージですが,秋聲の方は洋装のイメージが強いですね。その辺の「茶屋街を描きつつも,モダンさも持った雰囲気」が,秋聲らしいと思いました。

というわけで,物語的には大きなドラマはなくとも,時空を超えた不思議な雰囲気に浸れるというのが金沢人にとっては嬉しい作品です。恐らく,金沢在住者以外が観ても,怪しげな魅力が伝わり,金沢に来てみたくなるのではと思いました。

役者さんでは,秋聲役の嶋田久作さんの無骨で飄々とした感じが,秋聲に合っていると思いました。ただし,実際の秋聲よりはかなり長身ですね。相手役・お絹は,とよた真帆さん。故・青山監督の奥さんということで,映画後のトークでは,「明らかにとよたさんを丁寧に映していますね」といった話題が出ていました。確かに「もっきりや」の場で,とよたさんの「うなじ」を結構長く映していました。というわけで...とよたさんの美しさも見所の一つです。

この日は青山監督との弟子である,甫木元空監督も来館しており,上演後この作品のことを中心としたトークが行われました。こちらも興味深いものでした。次のようなことが特に印象に残りました。

  • 20年ぶりに上演して,フィルムの劣化で色が変わっていた。いつの時代か分からない感じがさらに強くなって,作品にマッチしているかもしれない。
  • 「風景はその時にしか撮れないもの。映画はそれを記録している」といったことを,酔った青山監督が語っていたとのこと。
  • 20年前,試写会をした際,「映画の中に金沢の湿度の高さが写っている」という感想があり,嬉しかった(トークイベントに登壇されていた,シネモンド開館時に支配人だった土肥さんのお話)

その他,「劇場で映画を観ることの良さ」について質問された甫木元監督が語った言葉については,私自身,「そのとおり,同感」と思いました。次のようなことをおっしゃられていました。

  • 自分以外の違ったお客さん観られることが楽しみの一つ。「ここで笑うんだ」など自分の感覚との違いが分かる。それも毎回違う。
  • 映画の前後の風景などの方が記憶に残ることもある(例えば,今日だと外に雪が残っているとか)が,それで良いと思う。映画が色々なことのきっかけになれば良い。
  • 映画館ごとに音の響き方が違う。ここもライブっぽい点だと思う。

私もこの「ライブ感」が好きです。自宅でテレビを観ても,映画館ほどには集中できないということもありますね。

トークの最後は,シネモンドの25年を振り返るスライドショー。色々と懐かしい写真が出てきました。上映された作品+トークということで,シネモンドでないと味わえない,上演&企画だったと思います。


映画を観た後は,久し振りに東急スクエアをブラブラ。世間はクリスマス・イブということで,賑わっておりました。その後は,久し振りにバスで帰宅。いつもしないことをたまにするのも新鮮な気分になって良いものだと思いました。