昨晩はシネモンドで濱口竜介監督の映画「偶然と想像」を観てきました。昨年,同監督の「ドライブ・マイ・カー」を観て,「演劇の読み合わせ」の延長に濃密なドラマが展開していくような雰囲気に惹かれ,今回の最新作も観に行くことにしました。この日が最終日ということで,平日夕方からの上映でしたが(休暇を取って観にいきました),かなりお客さんが入っていました。
作品の方は「濱口竜介短編集」という副題のとおり,濱口監督自身の脚本による3つの短編小説を映像化したような雰囲気でした。3作を通じて,物語の始まりの部分では,シューマンのピアノ曲「子供の情景」の一部を使っており,作品全体に漂う「文学的な気分」を盛り上げていました。
3つの作品のタイトルは,第1話「魔法(よりもっと不確か)」,第2話「扉は開けたままで」,第3話「もう一度」というものです。第1話は親友2人が同じ男性を好きになっていた「偶然」,第2話は小説家でもある元教授に卒業に必要な単位を落とされた男子学生が,女友達と共謀して色仕掛けで仕返しをする話。最後,ある「偶然」かつ致命的なミスで思わぬ事態に...。第3話は高校の同窓会で仙台に戻った女性がエスカレータで「偶然」と級友と出会い,お互い手を取り合って話し込むのですが...。
それぞれのドラマの中心の大半は,2人(一部3人)による会話。濱口監督の前作では,チェーホフの「ワーニャ伯父さん」の脚本を出演者全員で感情をこめずゆっくりと読み合わせをするシーンがかなり長く出てきましたが,今回の会話シーンからもその雰囲気が伝わってきました。激しい語り口の部分は少なかったのですが,会話がだんだんと濃くなってきて,それぞれの人物のこれまで出したことのなかったような本性がリアルに立ち上がってきます。その緊迫した雰囲気に何ともいえないスリルと怖さを感じ,作品の世界に引き込まれました。
出演者は次の方々。濱口監督作品の常連の役者さんを含め,すべての役にリアルさと魅力を感じてしまいました。
- 第1話:古川琴音(朝ドラ「エール」で見覚えがありました),中島歩(この方も朝ドラ「花子とアン」に出演されていましたね),玄理
- 第2話:渋川清彦(本当にいい先生だと思いました),森郁月(最後の致命的なミスが返すがえすも残念),甲斐翔真(3作を通じていちばんの悪役でしょうか)
- 第3話:占部房子,河井青葉(この2人は名コンビでした。ステージで演劇としても観てみたい雰囲気の作品でした)
第3話の最後に出てくる音楽だけは,シューマンのピアノ曲「森の情景」の第1曲。どこか軽く弾むような感じが,作品を観終えた開放感としっかりとマッチしていました。
というようなわけで,これからも濱口監督の作品には注目したいと思います。
PS.金曜日夕方に,街中の映画館で観る映画というのは...やはり最高かなと思いました。