10月になると毎年,金沢三文豪の記念館を巡るスタンプラリーが行われます。今年も(今日ではないのですが)参加してきました。毎年のお目当てはオリジナルの景品なのですが,今年の紙製ブックカバー(文庫本サイズ)というのは,実は,いちばん実用的で良いのではと思いました。
今年は,いつも後回しになっていた,室生犀星記念館からスタート。
犀川大橋を越え,
企画展のテーマは,「旅する犀星:伊豆編」ということで,伊豆の温泉旅行の記録などを中心とした展示でした。「犀星は実は旅嫌い」と展示の中に書かれていたのですが,その割に,軽井沢,東京・田端など色々な場所で執筆活動をしているようです。
展示の中では,「ゐねむり」という大正9年12年に伊豆で書かれた詩が良いなぁと思いました。よくよく見ると,チラシの裏面にも書かれていました。次のような詩です。
ゐねむり
山峡の温泉は澄んでゐる
ひるさがりではあるが何の音もない。
わたくしはゐねむりがしたくなる
永いあひだしたことのない居睡りを。
温泉の涌くおをとがする
誰かがわたしを呼ぶやうな気がする。
やさしい温泉はひたひたと胸にくる
さざなみのやうに柔和に。
非日常生活での居眠りというのは,温泉ならではでしょうか。伊豆の温泉にゆっくりと逗留したくなります。
ハガキも沢山展示されていましたが(これは他の記念館でも同様ですが),現代で言うところのSNSなのかもしれませんね。
続いて,金沢市中心部を一気に横断し,金沢蓄音器館へ。ここは三文豪とは関係ないのですが,鏡花記念館の隣にあるので,いつもセットで出かけています。
いつもどおり蓄音器のデモに参加(別に目指していた訳でなかったのですが,ピタリとその時間に到着)。今回の収穫は,NHK朝ドラ「エール」でお馴染み,古関裕而作曲の「船頭可愛いや」をオリジナルの音丸さんの歌唱によるSP盤で聞けたことです。もともと味のある曲ですが,蓄音器で聞くとさらに味が増している感じでした。
どうしようか迷ったのですが,せっかくなので「百万石音頭」のCDを購入。
子どもの頃からずっとこの音源で聞いていたので(参加しなくても,町内会の盆踊りの日になると遠くから聞こえてきていました),これ以外はあり得ないというぐらい刷り込まれています。その他,一緒に収録されている「加賀ばやし」も懐かしい曲です。金沢方言満載の楽しい曲で(「金沢なまりは いってらっし ごきみつあんな おゆるっしゅおゆるっしゅ...」という歌詞が懐かしい),子どもの頃はこちらの方が好きでした。
ちなみにこのCDですが,懐かしのCDショップ,ヤマチクさんの製作のもの。その記念の意味も込めて購入。
さて続いて,鏡花記念館へ。この日は,記念館のすぐ近くの久保市乙剣宮では,秋祭をちょうどやっていました。
企画展は鏡花の「絵本の春」という作品がテーマです。金井田英津子さんが絵を描いた,まさに「絵本」が出版されたのですが,それにちなんでの企画のようです。金沢で取材をして絵を描かれたとのことで,何となく金沢らしい雰囲気が漂う本になっています。
「時代を越え,遠い憧憬を呼びさます鏡花の傑作短編」「異界を覗く愉悦と甘美な慄き!(澁澤龍彦)」と宣伝文に引かれ...ついつい買ってしまいました。
丁寧作られたハードカバーが手元にあると,それだけで嬉しくなるところがあります。というわけで...まだ読んでいません。
右岸の方は,「秋聲のみち」ということになっています。
最後は,秋聲記念館へ。こちらは開館15周年記念ということで「思い出(いず)るまま」という自伝を特集した企画展示を行っていました。秋聲には,自伝的作品は色々あるようですが,本当の自伝というは珍しいようです。雑誌「文芸春秋」に連載された後,単行本化されたもので,リアルな秋聲を知るには重要な文献なのではないかと思いました。