2020年2月1日土曜日

新作映画「キャッツ」をイオンシネマ金沢で鑑賞。結構リアルな猫たちは少々不気味な感じはありましたが,そのモードに慣れれば,ロイド・ウェバーの圧倒的な音楽の力で感動。ヴィクトリア役のフランチェスカ・ヘイワードのしなやかな美しさとジェニファー・ハドソンのソウルフルな「メモリー」が特に印象的

昨晩,NHK Eテレ「らららクラシック」で新作ミュージカル映画「キャッツ」の音楽の分析をしていたのを見て,実際に映画の方も観たくなりました。本日は2月1日,映画の日で映画館の入場料金が安くなるということで,この作品を早速観てきました。
 
ミュージカル版「キャッツ」は,1980年代以降,既に古典的な名作という地位を確立しているのでいつか観たい作品とずっと思っていたこともあります。

今回はイオンシネマ金沢に出かけ,朝一の回で観てきました。お客さんの数はそれほど多くなかったので,ゆったりと鑑賞できました。


この作品については,スタンダードナンバーとなっている「メモリー」を聞いたことがある,というレベルの知識しかなかったのですが,作品を全部見て,改めてこの曲の力の大きさを実感できました。映画化に際して新たに加えられた「ビューティフル・ゴースト」も魅力的なナンバーで,多数あるロイド=ウェバーの名曲リストに新たな1曲が加わったと思いました。

ストーリーは,ひとことで言うと,大都会ロンドンの街に住む猫たちが,歌って,しゃべって,踊る,夜中から夜明けまでの物語。「新しい人生」を生きることを許される一匹のネコが選ばれる特別な夜の舞踏会が舞台です。もちろん,ネコが歌ったり,しゃべったりすることはないので,「ネコに託した寓話」と言えます。

この舞踏会に集まるネコたち(「ジェリクルキャッツ」と呼ばれていました)は,個性豊かで,前半は,それぞれの自己紹介のような歌やパフォーマンスが続きます。一種,オーディションを受けている感じなので,ミュージカル「コーラス・ライン」などと共通する,群像劇ぽい要素もあります。この「オーディション」の審査をする役が長老ネコ「オールド・デュトロノミ-」,審査を勝ち抜こうと,邪悪な策を巡らす仇役が神出鬼没の「マキャヴィティ」。この両者の対立がストーリーの大枠になりますが。

「新しい人生を生きる」という設定については,どこか,佐野洋子の絵本「100万回生きたネコ」を思わせる感じがあり,ちょっと仏教的な雰囲気(成仏するといった感じ)があるのでは,と思いました。オールド・デュトロノミーについては,既に「永遠の生」を獲得している長老といった設定だったと思うのですが,途中,マキャヴィティに殺されそうな場面があり,「まだ実世界にいる存在?」とちょっとキャラクターが分かりにくい面がある気がしました。

というわけで,ミュージカル作品らしく,ストーリーを細かく追うというよりは,多彩なキャラクターによる多様なスタイルの歌と踊りを楽しむファンタジーという部分が中心だったのですが...メイクの方にかなりリアルさがあり,おとぎ話としてはちょっと不気味なムードが勝っていた面もありました。それと,夜のロンドンが舞台なので,大半が暗~い雰囲気。オリジナルのミュージカル版「キャッツ」も同様なのだと思いますが,実際のステージだと,クローズアップになることはないので,映画版ほど生々しい感じはなく,作り話っぽい感じになると思います。この辺が好みを分かつポイントだったと思います。というわけで,「暗く重くリアルな映像」というモードに慣れることができれば,しっかりと楽しめる作品だと思います。私の場合は,中盤以降,このモードに慣れてきたので,しっかりと楽しむことができました。

この映像とネコたちのメイクは,素晴らしく凝っており,このままの雰囲気でユニバーサル・スタジオのアトラクションやキャラクターとして使えそうと思いました(この作品はユニバーサル映画の作品でした)。

登場人物では,「人間に捨てられた若く臆病な子猫」ヴィクトリア役のフランチェスカ・ヘイワードが素晴らしいと思いました。群像ドラマだったので,誰が主役と言いにくい作品ですが,このヴィクトリアの初々しい魅力がストーリーを大きく動かしていました。英国ロイヤル・バレエのプリンシパル・ダンサーということで,随所に見せるしなやかな動きが美しかったですね。そして,初々しさのある歌も素晴らしいと思いました。上述の「ビューティフル・ゴースト」の雰囲気にぴったりでした。

この若いヴィクトリアに支えられながら,「メモリー」を歌う「誰からも愛されない孤独な猫」グリザベラ役のジェニファー・ハドソン。こちらのソウルフルな歌も凄かったですね。過去の幸福感を懐かしむホームレス的な役柄は,恐らく,現代の社会問題を想起させる部分もありました。このグリザベラが,輝くような美しさを持つ若いヴィクトリアに励まされるように,心からの叫びとして歌ったのが「メモリー」でした。オリジナル版では,もっと高い声の歌手が歌っていた印象があったですが,このハドソンによる大人の歌も素晴らしかったですね。過去は過去として存在するが,勇気を持って突き抜けるしかない,といった潔さを感じさせてくれるような歌でした。

そして長老猫・オールドデュトロノミー役のジュディ・ランチ。この方については,かなり以前から,色々な作品で存在感のある演技を見せている名脇役という印象があります。この尊敬を集める長老役にこれ以上相応しい人はいないのでは,と感じました(もともとの顔の雰囲気もちょっとネコっぽい方だと思います)。

その他,いろいろなタイプのネコが出てきて色々な曲を歌いますが,特に印象に残ったのが手品師ネコが中心となって歌う「ミスター・ミストフェリーズ」でした。この曲は以前から聞いたことはあったのですが,長老猫のピンチを手品で救う場面で使われ,「メモリー」と対を成すぐらいの盛り上がりを作っている名曲だったんだ,と再認識しました。ジェリクルキャッツたち全員(そして観ているお客さんの方も)がエネルギーを得て,大きく成長していく...そんな感じを与えてくれるようなナンバーでした。

チーム全体としての一体感が増し,思いが強く高揚していく感じ。これがこの作品の魅力であり,テーマなのかなと思いました。その「強い思い」が道を切り開き,その先に救いがあると言えそうです。そして,新曲を含めたアンドリュー・ロイド・ウェバーの音楽の魅力が,ネコたちの「救い」を,人間たちの救いにも共通するリアリティのあるものに高めていると思いました。

というわけで,この映画の制作のコンセプトなどをもう少し詳しく知りたいと思い,パンフレットを購入。じっくり読んでみたいと思います。それと,機会があれば,ミュージカル版を一度実際に観てみたいものです。

PS. 我が家にある,アンドリュー・ロイド・ウェバーのベスト・アルバムです。プレゼントでもらったCDなのですが...考えてみると30年も前のこと。まさに「メモリー~」と歌いたくなる感じです。

ミュージカルや映画で観たことのある,ロイド・ウェバーの作品は次の作品です。本当にどの作品も魅力的です。

  • 「ジーザスクライスト・スーパースター」(劇団四季)
  • 「エビータ」(劇団四季+マドンナが出演する映画版)
  • 「オペラ座の怪人」(DVDで映画版)