「真昼の決闘」は,フレッド・ジンネマン監督,ゲーリー・クーパー主演による,1952年公開のモノクロ作品です。一度,衛星放送で観た記憶はあるのですが,細部まで覚えていなかったこともあり,この際,じっくり観たいと思い出かけてきました。
ストーリーは,次のような感じで大変シンプルです。ゲーリー・クーパー演じる保安官ウィルが目出たく保安官としての任務を終え,グレース・ケリー演じるエイミと結婚式を上げた日に,かつてウィルが逮捕した悪党ミラーが保釈されて,その日のお昼の12:00に列車で戻ってくることが判明。このまま新妻と一緒に町を去りたいところだが,平和になった町を再び悪党の手に渡したくない...ということで,町に残って,戦うことにします。
悪党の方は,子分や弟と合わせて4人。スーパー・ヒーローの出てくる西部劇ならば,1人で立ち向かって,最後は正義が勝ち,皆に喜ばれる,という流れだと思いますが,この作品の場合,ゲイリー・クーパーはかなり年輩。1対4だと「絶対負ける」と覚悟している点でかなり現実的な雰囲気が漂います。この「カッコよ過ぎないゲイリー・クーパー」がとても良いと思いました。
しかも町の人たちは,さんざん保安官にお世話になったにも関わらず,ウィルからの協力要請に誰一人として応えようとしません。悪役の怖さに怖じ気づいていること,自分の生活を守りたいという保身者ばかりが出てくることが,やはり,リアルな設定と言えます。正義の味方的な存在への反発も感じられる気もました。
妻のエイミも,12:00直前に,夫を捨てて,一旦,駅から立ち去ろうとします。というわけで,勝つ見込みが非常に薄い状況で,スーパー・ヒーローでない主人公が4対1の戦いに臨まざるを得なくなってしまいます。
***以下,ネタバレになります。***
結局,最終的に,妻のエイミが戻ってくれたこともあり,「何とか勝利」という結末になります。が,描き方としては,「全員が敗者」といった雰囲気が漂っていました。エイミは「参戦」するのですが...背後から撃って倒すという「禁じ手」を使います。エイミは最後,悪党に捕まるのですが,彼女が抵抗している隙を狙って,ウィルが悪党を撃って何とか勝利します。というわけで,妻が相手の不意をついてくれたので「勝てた」という描き方でした。
結局,町の人たちは,全く参戦しない傍観者。すべてが終わってからゾロゾロ集まってきます。ずっと家の中からのぞいていたんですね。その中でウィルは,保安官のバッヂを地面に捨てて町を去ります。町の人たちは,平和が戻って取りあえずは嬉しかったと思いますが,保安官を見捨てた後ろめたさがあります。保安官の方は,協力を得られなかった時点で,相当精神的に傷ついていたはずです。この辺の安全な場所から眺めているだけの民衆の描き方は,現代社会に通じるような不気味さを感じました。
尊敬を集めるのが当然といったムードのあるゲイリー・クーパーが,皆に見放されてしまうという点については,やはり現代の会社の管理職あたりにも言えそうで,結構,身につまされる話だと思いました。その上で何とか最善を尽くして,そんなに格好良くはないけれども「何とか勝った」という点も,現実にありそうだと思いました。
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というわけで,異色の西部劇ではありますが(まわりで観ていた年配の方は「こんな,切ない話やったかねぇ」と期待と違っていたような口ぶりでした),私としてはリアリティを感じながら観ることのできる傑作だと思いました。映画の時間進行(時計を映すシーンが結構沢山ありました)と現実の時間進行が一致しているのも,リアルさを盛り上げており,とても面白いと思いました。
泉野図書館では毎月,映画会を行っているということです。画面については,やや遠かった気もしましたが,何と言っても無料イベントですので,機会があればまた観に来たいと思います。ちなみに来月は日本映画の「父と暮らせば」です。