2018年8月12日日曜日

エッセイスト #酒井順子 さんと #BUH の #水口克彦 さんの対談「#裏が幸せ:裏日本って知ってる?」が #オヨヨ書林 で行われ,「裏」の魅力と大切さが楽しく具体的に語られました。

本日は,エッセイスト酒井順子さんとブックス・アンダー・ホッチキス(BUH)の水口克彦さんの対談「裏が幸せ:裏日本って知ってる?」がオヨヨ書林せせらぎ通り店で行われたので聞いてきました。


有料のイベントだったのですが,「東京と対比した金沢の魅力」についての話が出てくるのかな,と思い聞きに行くことにしました。それと,面白い切り口の著作を多数発表されている酒井さんなら,きっと面白いお話を聞かせてくれるだろうとの期待をもって聞いてきました。

聞き手の水口さんは,トーク用にスライドショーを用意されており,今回は,そこに書かれたキーワードをもとにお話が進んでいきました。このスタイルも良かったと思います。メモを取りながら聞いていたので,その内容の一部をご紹介しましょう。
# 間違った記述や問題のある記述がありましたらお知らせください。小見出しは,私の方で勝手に付けたものです。
1 導入
今回のトークショーは,BUHで昨日から始まった同名の展示に合わせて行ったもの。

2 酒井さんの経歴
  • 酒井さんは,かつて「アシカガ助手」「マーガレット酒井先生」というペンネームで執筆
  • 後者は,雑誌「オリーブ」での連載時(高校生から大学生の頃)のペンネーム。就職後には,本名を使うようになったそうです。
  • 会社勤めの後,博報堂生活総合研究所で客員研究員に。このとき,佐藤可士和さんと同期だったそうです。その後,性格に合わない会社勤めより,文筆業を選択し,執筆活動に専念
3 著作について
(1)2003年『負け犬の遠吠え』
  • 酒井さんの名前が一躍有名になった作品。
  • それまでは,半径数m範囲内の身の回りのことなどを書いていたが,「このままで良いのか?」と思い,中だるみ状態になった。
  • 当時の自分の心情を吐露した作品で,色々賞をもらった。
  • 装幀は佐藤可士和さん。
(2)Brutus 日本一の「手みやげ」はこれだ!
  • 雑誌「ブルータス」で,定期的に行っている好評企画。秋元康,佐藤可士和,松任谷正隆と一緒に,お薦めの手土産を選定しているそうです。
  • 松任谷さんは毎回,全部取り寄せている。
  • 酒井さんとしては,「軽くて日持ちのする,せんべい」がお薦め。
  • 「スッパイマン柿の種」は食べ出したら止まらないとのこと。 #今度見かけたら,購入してみようと思います。
(3)2015年『裏が、幸せ。』
  • 今回のトークの中心となる作品
  • その執筆のきっかけは,次のとおり
  1. 山陰地方に行った際,海や風景がそのまま残っていることに感動した
  2. 『金閣寺の燃やし方』という本を執筆する際,金閣寺についての小説を書いた三島由紀夫と水上勉の作品を読み比べ,犯人に対する扱い方が違うことに衝撃を受けた。三島は単なる題材として扱っているのに対し,水上の方は犯人に同情的。これは,金閣放火犯の出身地が,水上と同じ若狭だということと関係しているのだろう。
# トークイベント終了後,この本を購入し,サインをいただいてきました。こうやって見ると,NHK朝ドラ「半分、青い。」と字面が良く似ています。本の方が早いので,NHKが影響を受けたのでしょうか?


4 金沢について
  • 金沢に初めて来たのは高校3年生の時。当時,五木寛之の小説が「マイブーム」だったことがその理由。
  • ただし,当時の金沢は女子高生の一人旅には無理があった。その後,加齢とともに,好みが変わって来た。
  • 「新幹線開通後の金沢はどうですか?」という話題に。水口さんから「1年目は東茶屋街が原宿のようになり,浮き足立っていたが,ようやく落ち着いてきた」というコメント。
  • ストロー効果(金沢が東京に吸い取られる)については,会場に居た北國新聞の方から,距離がちょうど良い感じで離れているので「大丈夫,心配はない」というコメント
5 この場所の「裏性」がたまらない
  • 「裏日本」(この言葉,やはり私には使いたくない用語なのですが...)の人の特徴として,「何もない場所です」と自ら言うことがある。他県の人から見ると,沢山見所があるのに...。
  • このことは,他県での生活を経験すると見方が変わることがあるのではと水口さんは語っていました。水口さん自身,金沢の暗さが嫌いで東京で就職したが,その後,金沢に「半分」戻ってきています。
  • その一方,大切な場所は,「隠しておきたい」という意識もある。本当においしい寿司屋は簡単に教えない,という感じですね。
# この辺の,「裏と表の微妙な関係性」が今回のトークのいちばんの”肝”だったと思います。
そして,「魅力的な裏性」の具体例として次のようなことが紹介されました。
  1. 能登地方の普通の家に行くと,まず,大きな仏壇を見せてくれる。
  2. 日本海側の「盆踊り」は,顔を隠す文化がある点で共通している。
  3. 川端康成の『雪国』(「「表」は「裏」の純粋性を発見したことに興奮し,その純粋性を消費する」という酒井さんの文章の例として出てきました)。
  4. 能登半島は演歌が似合う(川中美幸や石川さゆりなど)。最近,酒井さんは演歌が好きになってきたそうです。石川さゆりは,熊本出身なのに「裏」化しているとのこと
イベントの最後では,「金沢の中の裏性」を感じる部分として,酒井さんは次を上げていました。
  1. 泉鏡花スポット(泉鏡花記念館や暗がり坂 #この辺り,私も好きです)
  2. 町歩きしていてフッと出会う瞬間(吉田健一が小説の中で書いているような,どこまで行ってもたどりつかない感じ)
6 「裏」の良さ
  • 以前は「華やかで新しい方が好き」という若者が大半だったが,現在の若者には「初めからキラキラしたものを求めない」人も多い。例えば,BUHには,金沢が好きで静岡から就職した人がいるそうです。
  • 「裏」の良さとして,和倉温泉にある大規模旅館・加賀屋の経営者の小田さんは「人の機微を受け入れる」ことを指摘。
  • 裏千家の方の言葉にも「裏というのは,大切なものがある場所」というものがある。日本も世界から見れば「裏」である。「裏」を望んでいる人もいる。
  • 次の言葉が「まとめ」のような感じだったかもしれません。
加賀屋の小田さんの「裏日本が表日本のようになってもしようがない」という言葉。田中角栄は「裏の表化(≒全国の均一化)」を図ろうとしたが,今は違う。そうでないところもあって良い。
7 PRいろいろ
トークと関連して,いくつかお知らせや宣伝がありました。
  • 今月末から,北國新聞で酒井さんによる連載がはじまります。その第1回は今回のトークの内容になりそう...とのことでした。
  • 最新刊は,「婦人公論」100年を読み返した研究論文的な作品。酒井さん自身,雑誌が大好きで,「オリーブ」も「婦人公論」も同様に考えているとのことです。
最後,フロアから「裏」という用語の使用の意図についての質問があり,「若い人は,裏日本という言葉自体を知らないので,「新しい良い意味」として意識して使っている」という回答がありました。「裏日本」という用語については,恐らく,金沢の人自身が好んで使うことはなく,現在,テレビではまず使われない「放送禁止用語」的な位置づけの言葉なのですが,その言葉を敢えて使うことで,「裏」の魅力を再発見しようというが酒井さんの意図のようです。

私としては,「富士山は静岡側と山梨側のどちらが表か?」というよく聞くネタ同様,日本海側が「裏」と呼ばれるのには,やはり抵抗感はあるのですが(特に東京の人には言われたくないという感じ...),若い人が,一般的にどう感じているのか知りたいものです。いずれにしても,酒井さんの著作を読んで,もう少し「裏性」について考えてみようかなと思います。

オヨヨ書林+ひらみパンの外観
オヨヨ書林の前の通りから眺める尾山神社
その後,同名の展示を8月10日から行っている BUHへ行ってみました。

南北を反対にした日本地図がポイントのようですね。

今回のトークの中で紹介された本も展示されており,トークを聞いた後だと特に楽しめる内容でした。特にトークの中にも出てきた,水上勉の作品など読んでみたくなりました。