ホールに入ると,既に伊藤さん父娘は,パフォーマンスを初めていました。「娘から父に対する質問(録音された音源)」が延々と流れる中,郁女さんが,お客さんの顔を眺めながら,ゆっくりとした不思議な動きを続けていました。この質問は,過剰なぐらいに多く,だんだんと息苦しくなってきたところで,ダンスが始まりました。言葉の限界を示しているようにも思えました。
最初の部分は,郁女さんだけのパフォーマンスで,面をかぶっての不思議な動きが続きました。その後,面を取って,博史さんと絡み合いながらの動きが続きました。郁女さんのダンスは,かなり独特でしたが,時折,クラシカルなバレエ風のダンスを交えつつ,ビシッと引き締まった,鍛えられた強さを持ったパフォーマンスを見せてくれました。
父上の博史さんの方は,はじめは穏やかな感じでしたが,だんだん娘に乗せられる感じで,フレンチポップス的な音楽を含む色々な音楽に合わせて,時にユーモラスなダンスを見せてくれました。
途中,音楽がゆったりとしたクラシカルな雰囲気になり(バッハの音楽だった?),父娘が手を取って,踊るシーンがありました。この部分が見せ場だったでしょうか。その後,父上が質問に答えるような音声が続きました。
いつもは日本とフランスに分かれて暮らしている父娘が,今回のダンスを通じてコミュニケーションを取り,最後に「別れの言葉」と「感謝」をダンスでさらりと伝えるといった感じでした。特に最後の方で,音声として流れていた父上の言葉がとても哲学的に響いていました。「生きようと思うからプレッシャーがかかる」とか「近くに暮らしていても近いわけではない」といった,さらりと飄々とした人生観が良いなぁと思いました。
終演後,お2人を交えての「アフタートーク」がありました。フロアから出てきた質問のそれぞれが,素晴らしいもので,観たパフォーマンスの内容が深められた印象を持ちました。郁女さんのは,ダンス・カンパニーには所属せず,個人で自立して,自由に活動しているようです。その言葉は,どこか哲学的で,自分のパフォーマンスに対して,しっかり分析をされていることも伝わってきました。
郁女さんは,ダンスをしている時だけでなく,質問に答える時の姿も魅力的な方で,格好良い生き方をしている方だなぁと思った人も多かったと思います。ライブパフォーマンスだけでなく,映像作品にも関心があるというこごで,今後は「Web上でのパフォーマンス」にも注目したいと思います。
ちなみに,この公演については,友の会割引があり,さらには「年間ポイント」による割引もあったので,合計1000円引きぐらいで観ることができました。現代のダンス公演を自ら進んで観ることはなかったのですが,この友の会制度を使って,最先端のパフォーマンスに触れられることは,私にとっては,とてもありがたいことです。今後の企画にも期待したいと思います。
この日もご覧のとおり,絵に描いたような快晴でした。 |