2017年10月1日日曜日

夏目漱石生誕150年記念特別展「書斎の人:背景,夏目漱石様。」を徳田秋聲記念館で見てきました。展示解説を聞きながら見ると #漱石 と #秋聲 の小説観の違いがとてもよく分かりました。

昨日に続き本日も大変過ごしやすい一日だったので,本日から徳田秋聲記念館で始まった「書斎の人:背景,夏目漱石様。」を見てきました。

秋聲については,鏡花と犀星に比べると,現時点ではややマイナーな存在になっているのですが,それを逆手(?)に取るように,他の作家と秋聲のつながりに焦点を当てる形の展示を色々と行っています。

それでも,どうしても地味な感じになるので,学芸員さんによる解説を毎回行っています。本日はこの解説を目当てに出かけてきました。展示室に置いてあった,企画展のパンフレットと一緒に話を聞いていたので,大変よく分かりました。
企画展示室の入口。漱石が珍しく笑っていますが加工されたものとのことです
今回の展示については,漱石のメモリアルイヤー(生誕150年)に便乗する形で行ったとのことです。その展示の目玉は,岩波書店が所蔵する300通もの「漱石宛の絵葉書」でした。昨年は,「漱石没後100年」ということで,2年続きのメモリアルイヤーだったので,ずっとこの「絵葉書」の展示が全国を巡回しています。今回の展示も前半は,この漱石宛絵葉書が中心で,後半で漱石が送った秋聲宛の長文の手紙などを中心に,漱石と秋聲の「微妙な関係」が示されていました。

展示は,次の6つのパートに分かれていました。展示室自体は1つですが見ごたえがありました。

  • 第1章 猫の家
  • 第2章<<漱石山脈>>に連なる人々
  • 第3章一度きりの邂逅:秋聲との出会い
  • 第4章「女の夢」をめぐる話
  • 第5章編集者・漱石,奔走す
  • 第6章漱石vs秋聲,フィロソフィー論争

まず,漱石と秋聲の住所ですが,漱石が東京帝国大学の英語講師をしていた頃は,2人とも本郷に住んでいたとのことです。しかし当時は面識はなく,漱石が朝日新聞社に入社した後,漱石は新宿区早稲田の方に転居し,「終の棲家」になっています。秋聲の方はずっと本郷に住んでいます。ちなみに漱石の新宿の家の方は,漱石山房記念館として,つい先日オープンしたばかりですね。ここも一度行ってみたいと思います。
http://soseki-museum.jp

秋聲と漱石は,明治41年に一度だけ会ったことがあり,その時の「思い出」の書かれた文章の展示(第3章)の後,漱石の知人の作家の金策についての手紙のやり取りが続きます(第4章)。この中で,秋聲の代筆をしたことがある作家のことが紹介されます。当時は,ゴーストライターは当たり前だったとのことですが,漱石が代筆を容認したり斡旋していたというのも面白いですね。

第5章では,秋聲の代表作『黴(かび)』が,漱石の推薦によって朝日新聞に連載され,大ヒットしたこと,漱石の『道草』の連載後,秋聲に執筆を打診する,といったことが紹介されます。

漱石が「秋聲の遅筆疑惑」について,秋聲に成り代わって「いろいろ事情があって」の言い訳をしていたり,直接,秋聲宛に「わが社の方針もあるので,(次の連載小説は)女郎の一代記のようなものはあまり歓迎しないようです」といった編集者のような手紙を書いたりしているのも面白いところです。

そして,最後の章では,漱石と秋聲の小説観の違いが浮き彫りにされます。漱石は秋聲の『あらくれ』について,「現実そのままを書いているだけで,フィロソフィーがない(要約)」と上述の『道草』に続く小説(『奔流』という小説です)の連載中に書いています。余程気に入らなかったんですかねぇ。

そして,それに対して秋聲は,「私の小説は部分的に細かく観て行くことを大切に思っている」と書いています。その後,漱石が死んでしまい,「フィロソフィー論争」は途中で終わってしまうのですが,その漱石追悼として,秋聲は,「書斎の人(皮肉を込めたようなネーミング)」と題して,漱石に反論するような形の談話を残しています。

漱石の作品は,「理屈に陥りがち」「漱石氏の作にはほとんど血腥(なまぐさ)いような現実が描かれていない」という評価です。普通,追悼文ならば手加減しそうなものですが...こういった正直さも秋声らしいとのことです。

現在の感覚(個人的な感覚)からすると,フィロソフィーがある小説の方が読みやすいと思うのですが,一体,どちらが良いのでしょうか?実は秋声の長編小説については,1冊も通して読んだことがないので,これはやはり読んでから判断するしかないかもしれませんね。

秋聲は,文壇の中心的な人物だったこともあり,色々な文学者との交流があったようです。今後も,秋聲をネタに明治から昭和に掛けての日本の文壇の雰囲気が分かるような展示に期待したいと思います。

今回の展示に関連して『漱石の愛した絵はがき』という本が紹介されていました。
https://www.iwanami.co.jp/moreinfo/Soseki/index.html

この表紙の絵が素晴らしいのですが,石川県立近代文学館の展示の方で原画が展示されているのだそうです。サイトの方は...もう少し改善して欲しいところです。
http://www.pref.ishikawa.jp/shiko-kinbun/event/index.html

それにしてもこのイラストは面白いですね。
http://www.sankei.com/life/photos/161010/lif1610100026-p1.html

こちらの展示も行ってみたいと思います。

以下は,徳田秋聲記念館の周辺の雰囲気です。本日は本当に過ごしやすい一日でした。
梅の橋から記念館方面を眺めたところ
記念館の2階から見る梅の橋と浅野川
梅の橋から天神橋方面を眺めたところ