2017年8月18日金曜日

加賀市美術館で「空と大地の画家 森本仁平展」を観てきました。人物画や風景画の独特の色・静謐さを3つのコーナーに分けて展示。もっと知られても良い,すごい画家だと思います。

夏休みの続きで本日は1日休みを取りました。明日以降の,いしかわミュージックアカデミー関連の演奏会に備えて,家の中で休息していても良かったのですが,どうも昼間ゴロゴロ寝ているよりも,昼間は活動し,夜しっかりと休息を取る方が体調が良い感じなので,本日は,加賀市まで車で出かけ,加賀市出身の画家・森本仁平の展覧会を加賀市美術館で観てきました。
この画家の存在を知ったのは,石川県立美術館の常設展示です。洋画コーナーには,鴨居玲,高光一也など石川県関連の画家の代表作が飾られていますが,その中で,いつみてもパッと目が止まる絵がありました。それが森本仁平の作品でした。

例えば次のような作品です。
「タンクの多い工場」
http://www.ishibi.pref.ishikawa.jp/collection/index.php?app=shiryo&mode=detail&list_id=1905990&data_id=1861

一瞬,「写真?」と思わせるリアルさがあります。それと同時に静謐な空気感が漂っています。何枚か所蔵作品はあるようで,最初は名前を覚えていなかったのですが,どの絵を見てもハッとします。そのうちに作者の名前を覚えました。一言で言うと「好みの作家」です。

今回の展示では,その森本さんの作品が3つのパートに分けて,56枚ずらっと展示されていました。平日の午後ということで,ほぼ展示室を独占する形で楽しんできました。


今回は森本さんの個展ということで,配布資料の中には森本さんの年表も入っていました。それを読むと,1945年の終戦直後,ものすごくドラマティックな体験をされていることが分かりました。

終戦時,森本さんは朝鮮半島に取り残され,ソ連の捕虜となってシベリアに連行される途中,脱走。1000キロを40日以上かけて山岳地帯を踏破して,家族と合流。その後,さらに38度線を越えて,ソウル経由でプサンから帰国。

そのままドラマになりそうな経験です。

そういう思いで見ると,初期(といっても50歳以上ですが。93歳で亡くなられているのですが,晩成型の画家といえます)のシュールレアレズム風の作品であるとか,自分の内面を厳しく見つめるような肖像(例えば「空の肖像」(1974年)など)からは,その人生経験がにじみ出ているような気がします。
http://ishibi.pref.ishikawa.jp/collection/index.php?app=shiryo&mode=detail&list_id=170035&data_id=1859

「絵をかく自画像」という1997年(86歳の時の作品)の自画像が展示のいちばん最初に飾られていましたが,この2つを比べると,晩年の表情の方が随分穏やかで,森本さんの数多くの風景画を観ていると同じような自然さが感じられます。

今回の展示では,「I  リアリズムの時代:社会派画家として」「II 写実に向かう:自己への回帰」「III 詩情を込めて:懐かしき日本の原風景へ」の3コーナーに分けていましたが,森本さんの人生のタイムラインと重ね合わせて,その変化を味わうことができました。個展ならではの楽しみ方だと思います。

さて,森本さんの絵の作風ですが,次のような特徴があると思います。
  1. ハッとさせるほどリアルで巧い。先に書いたとおりです。どの絵も巧く,ムラがないのがすごいと思います。
  2. 構図は常に安定している。風景画については,どの絵も水平線で上下に分かれるような感じです。上が空,下が水や地面ということになります。言ってみればワンパターンで,実は,特に風景画については区別がつかないぐらいですが,どの絵にも静謐さや孤独感が漂っています。風景画の中に人物が描かれているものは一つもありませんでした。
    記念に買った絵葉書。いちばんシンプルな構図の絵葉書を買ってみました。
    その名も「天と地」というタイトルです
  3. 色合いとしては独特のセピア色というか黄褐色をベースに描かれた絵ばかりです。特に「湖畔のはす田」http://www.ishibi.pref.ishikawa.jp/collection/index.php?app=shiryo&mode=detail&list_id=1833417&data_id=1888 )という作品がとても気に入りました。色合いについてもワンパターンなのですが,色合いに重苦しさがなく,透明感やキラキラと光る感じが鮮やかに表現されているので,実際の風景から抽出された空気感のようなものを感じることができます。このリアルな雰囲気は,アメリカの画家のワイエスと似ている気もします。
  4. 色合いとセットになっているのですが,絵のマチエール(絵の表面の感じ)は大変滑らかで緻密にしっかりと塗られています。
どの絵もとても完成度が高く,油絵のお手本のようなオーソドックスさや隙の無さがあるのですが,その中に冷たい感じはありません。静謐な孤独感と暖かみが両立している点が,森本さんの絵に魅かれている理由のような気がします。問題は...やはり,どれが?どれも!という感じで風景画については,区別がつきにくい点でしょうか。

その後,加賀市に関連のある作家の絵や工芸作品を集めた常設展を観た後,すぐお隣にあったアビオシティ加賀(アルプラザ)へ。

この商業施設は,美術館の本当に近く(というか渡り廊下でくっついている感じ)でした。さらには加賀温泉駅にも隣接していました。ざっと巡ってきたので写真を紹介しましょう。


遠くに「巨大観音像」が見えます。

こうやってみるとウルトラマンか何かのように見えて,かなりシュールです。その手前がJR加賀温泉駅です。

アビオシティ加賀は演歌歌手が頻繁にショーを行っているようです(たまたまこの時期だったから?)

吹き抜け部分にこのようなステージがありました。座席に座布団が置いてあるのが心憎いばかりです。演歌歌手だけでなく,庄司智春さんなど各種芸人も登場しているようです。
この日は高速道路を使わずに,国道8号線で出かけたのですが,行きは事故があったせいで片側交互通行になっている部分があり(よりにもよって,国道とは思えないような狭い場所だったので),思わぬ時間が掛かってしまいましたが,我が家からの場合は,山側環状~加賀産業道路~国道8号線経由ならば1時間程度で着くことが分かりました。今度は,是非,温泉や料理とセットで出かけてみたいものです。

国道8号線の途中にあった道の駅「こまつ木場潟」です。