2017年7月30日日曜日

「これぞ暁斎!ゴールドマンコレクション」を石川県立美術館で観た後,及川茂氏による記念講演会を聞いてきました。素晴らしい描写力とウィットに富んだ作風は大変魅力的

昨日7月29日から,石川県立美術館では「これぞ暁斎!ゴールドマンコレクション」という展覧会を行っています。
http://www.ishibi.pref.ishikawa.jp/exhibition/4441/

この展覧会は,江戸時代末から明治時代にかけて,ウィットと風刺精神にあふれた多彩な絵画や版画を残し,世界的にも評価の高い河鍋暁斎(かわなべ・きょうさい)の世界有数のコレクター,イスラエル・ゴールドマン氏(英国在住)の所蔵品から約160点を展示するというものです。
全国数か所を巡回している展覧会ですが,金沢展のオープニングに合わせて,この展示の監修者でもある,及川茂氏(日本女子大学名誉教授)の講演が行われたので,展覧会を観た後にお話しを聞いてきました。

及川さんの講演は,及川さんの長年の知人でもあるゴールドマンさんについての紹介があった後,今回の展覧会に出展されている大半の作品の画像をスライドで投影しながら,90分以上説明をするような充実した内容で,この展覧会を鑑賞する上で大変参考になりました。
というわけで,この及川さんのお話に私自身の感想をまじえる形で,まとめてみました。

■イスラエル・ゴールドマン氏とコレクションについて

  • ハーバード大学出身のアメリカ人で日本美術を学んだ。
  • 現在は,ロンドンで浮世絵を中心とした画商。
  • 暁斎の「達磨」を描いた絵をきっかけで,コレクションを始める。
  • 及川さんとは35年来の友人。
  • 暁斎については,過去何回か展覧会が行われているが,今回が過去最高
  • ゴールドマン氏のコレクションについては,通常は大英博物館で保管しているとのこと

■暁斎の幼少時~修業時

  • 幼少の頃,駕籠かきから蛙をもらって,その写生をしたのが絵を描き始めたきっかけ
  • 蛙が好きで,その後も非常に多く描いている
  • 7歳のとき,浮世絵師の国芳に入門。川を流れてきた生首の写生をしたエピソードは当時から有名で,ジョン・ラファージというアメリカの画家がそれを絵にしている。
  • その後,狩野派の洞白に弟子入りする。
  • 当時は,火事場の様子など,写生をよくしていた。

■狂斎から暁斎へ

  • 「狂斎」など色々な号で絵を描いていたが,1871年頃,「暁斎」と改める。
  • 以前は「ぎょうさい」と呼ばれていたが,現在は「きょうさい」に統一されている。
  • フランス人のエミール・ギメやフェリックス・レガメなどと交流があり,彼らによって,「日本でいちばん上手い画家」として外国に紹介される。
  • 国内でも内国勧業博覧会に出品するなど,評価を高める。
  • 弟子には,その後建築家として有名になる,ジョサイア・コンドルがいる。

■暁斎の多彩な作品・作風
この後は,今回の展覧会に出品された個々の作品の紹介になりました。私の印象に残ったものを中心に紹介しましょう。

(1)蛙の学校

  • 学校の様子を「蛙」で描いた作品。暁斎は仏教を信じており,蛙と一緒にいつも蓮を描いていた。
  • 顔だけを「蛙」にするのではなく,体全体を蛙で描いており,しかも自然に描いているのがすごいところ。これは,解剖学の勉強をしていたからこそ可能なこと

(2)象を描いた作品

  • 筆を何回も動かさずに描いたような名人芸的な作品

(3)猫の月見

  • 猫がネズミを手にして,月見をしている様子を背後から描いた絵。# この作品が気に入ったので絵葉書を購入


(4)鍾馗のサッカー

  • 鍾馗(しょうき)様が鬼を蹴っ飛ばしている絵
  • こういった絵は,お客さんの注文に応じて描いたもの
  • 当時の江戸っ子の気質がわかる。また,江戸には余裕があったと思われる。#暁斎の絵には,本当にいろいろと”変な作品”があるのですが,江戸のお客さんの注文に応じて描いたとしたら,相当面白い時代だったのだな,という気がします。

(5)鬼の恵方詣で

  • 鬼が正月の初詣(?)に出かけているような絵。観ていると本当に可笑しくなります。
  • 暁斎自身,酔っぱらって描いたと思われる作品

(6)貧乏神

  • 本当に貧乏そうな雰囲気で,これもまた不思議なユーモアのある作品
  • 元は,沢山のキャバレーを経営していた福富太郎氏のコレクションだったもの。福富氏は,暁斎が日本で評価されないことに怒り,ゴールドマン氏が購入したものとのこと

(7)幽霊を描いた掛け軸

  • これはリアルに薄気味悪い作品でした。
  • 幽霊自体足が描かれていないのですが,今回,絵の中の暁斎のサインも下の方がわざと消されていることを発見されたとのこと。

(8)地獄大夫と一休

  • 大夫の背後に三味線を弾く骸骨。その上に一休が踊っている,という不思議な組み合わせの作品。次のような作品。

http://www.ishibi.pref.ishikawa.jp/wp-content/uploads/2017/05/74fee46ebe40abd46cd9ac9e2c8b6779.jpg

  • グロテスクな組み合わせだけれども,全体のバランスがとても良いなと思い,絵葉書を購入。及川さんもこの作品が暁斎の代表的な傑作だろうとおっしゃられていました。
  • 地獄大夫だけを描いた作品もあり。
  • 骸骨については,洋装をした骸骨が三味線を弾いているという,今みても斬新過ぎる作品も印象的でした。オリジナル トートバッグのデザインになっていました(ちょっと欲しかったのですが...)

(9)百鬼夜行図

  • いろいろな化け物の行列のような絵
  • 今回の展示の中でもいちばん大きな作品だったかもしれません。
  • 水木しげるの漫画の原点のような作品と思いました。

(10)版画・錦絵

  • どの作品も非常に大胆な構図
  • 日本の美術研究では,版画の評価は低いが,暁斎自身は晩年になっても錦絵に取り組んでいた。お金のためだけではなく,錦絵にふさわしいモチーフについては,錦絵で作品を描いていた

(11)暁斎絵日記

  • 非常にマメに絵日記を描いていて感心。
  • 日本の4コマ漫画とかに影響があった?
  • 国立国会図書館のデータベースを検索すれば,Web上でも閲覧可能。以下のようなイメージ。

http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1286727?tocOpened=1

というような感じでした。講演のタイトルにあった,「暁斎の近代性」という点については,質疑応答の中でも出てきたのですが,版画,挿画,デザイン,掛け軸といった多彩なメディアに応じた絵や技法を使い分けていた点にあるということでした。テーマとメディアを意識していた点で近代的ということができます。

特に人間の動きを的確に表現できる描写力が素晴らしいと思ったのですが,その高度な技法を使って,ウィットにあふれたポーズや構図の作品を描いているのが最高です。及川さんも最後に言われていましたが,もっと多くの人に知ってもらいたい作家だと思いました。そして,今回の展覧会はそのきっかけになると思います。
展覧会場の前には,記念撮影に良さそうなパネルなどがありました。