2016年9月24日土曜日

昨晩は徳田秋聲記念館で行われたBookwormに参加。山崎円城,滝口悠生,Akeboshiの各氏とお客さんによる,ちょっと不思議な朗読と音楽の世界へ

金曜の夜は,仕事モードから休日モードへの切り替えの時間です。金沢市内の各種ミュージアムが夜遅くまで開いている「ナイト・ミュージアム」企画の一環で徳田秋聲記念館で行われた,Bookworkというイベントに参加してきました。
記念館の入口
浅野川付近には大変美しい夕景が広がっていました。
梅の橋から見る徳田秋聲記念館
これは「自分の好きな詩や本の一節を持ち寄って朗読する」という会で,この日来られていた山崎円城さんが19年前から行っているとのことです。「好きな本を紹介する」といえば,ビブリオ・バトルというのが最近は色々な場所で行われていますが,Bookwormの方は,順位を決めたり,時間制限を設けるわけではなく,「それぞれの人が「それぞれのスタイルで,ただ好きなものを朗読する」というものです。
背景に浅野川と夜景が見える場所で行われました。
山崎さんによると,ミヒャエル・エンデの「人は自分の好きなものを紹介するとき,とても上手く話すことができる」という言葉にヒントを得て始めたものとのことです。この言葉は,とてもよく分かります。私自身,自分の聞いた音楽について,感想をまとめているのですが,「好きなもの」について書く方が圧倒的に簡単で,楽しいものです。

今回は,最後のコーナーで応募者9名による朗読があったのですが,それに先立って,山崎円城,Akeboshi,滝口悠生の各氏によるトーク,演奏,朗読がありました。

最初に登場した山崎さんは,Bookwormの創始者ということで,色々なスタイルでの表現を聞かせてくれました。基本的にブルースな世界(?)を表現されていました。指パッチンのリズムに乗せて,味のある歌を聞かせてくれたり,カセットテープから流れる効果音(子どもの声とか楽器の音とか)に乗せて朗読したり,途中からメガホンをマイクがわりにして歌ったり,ギターの弾き語りで曲を聞かせたり...アナログだけれども創意のある世界を楽しませてくれました。

続いて,作家の滝口悠生さんが登場し,徳田秋聲と自作の朗読を行いました。滝口さんは,今年芥川賞を受賞した方で(石川県出身の本谷有希子さんと同時期の受賞ですね),実は,この方のお話を聞くことが今回のいちばんの目的でした。滝口さんもBookwormの出身者で,今回は,山崎さんに誘われて,金沢に来られたとのことです。

秋聲ゆかりの場所での朗読ということで選ばれたのが『町の踊り場』という短編の一部でした。自作の方は,芥川賞受賞作の『死んでいない者』の一節でしたが,どちらも「葬儀」を描いている点で共通しています。秋聲のこの作品は,読んだことはなかったのですが,音で聞くと,現代の作品と通じる部分があると思いました。滝口さんの作品と,違和感なくつながっているような印象がありました。ただし...聞いているうちに,ちょっとウトウトとしてしまったので,今度,両作品ともしっかり読んでみたいと思います。

Akeboshiさんの音楽は,今回初めて接したのですが...と書きたいところですが...プロフィールを読んでみると...映画「恋人たち」の主題歌担当を書かれています。この映画は見たことがあります。その他にも井上陽水さんとの共演などもされているということで,意識せずにその音楽に接しているようです。

今回は,電子ピアノの弾き語りでした。Akeboshiさんは,英国の音楽大学に留学されていたことがあるということで,英語で歌われる曲が中心でした。雰囲気としては,ビリー・ジョエル(私が知っているのは1980年代だけですが)のスタイルに近いと思いました。力強く響く部分と気持ちよく流れる部分のバランスが良く,ずっと聞いていたいな,と感じました。

トークの中で,歌詞の作り方として「内容重視」と「音にはめ込む」の2つの方向性があることを紹介されていました。井上陽水さんの場合,後者を意識的にやっており,曲にアクセントを付ける部分に,意識的にカ行音を集中させるようなことをやっているとのことでした。これはとても面白いと思いました。そうなると...結構,無茶苦茶な歌詞になってしまうのですが,そう思わせないテクニックも求められるようです。

留学中,アイルランドに一人旅をした時,イスラエル出身の少年に会い,意気投合し...といった体験をもとに作曲したことを語られていましたが,この異文化体験との接触というのは,音楽に限らずアーティストにとっては大きな刺激になるようです。

後半は(前半の3人のトークが結構長くなったので,かなり押し気味になったのですが),事前に応募のあった9名の方の朗読がありました。自作の詩を読む人がいたり,好きな本の一部を読む人がいたり,様々な年代・性別の方がいたり...「好きなものを表現する」という点だけで偶然集まった人たち,という設定が面白いと思いました。ただし「常連さん」的な方もいらっしゃったようで,実際に参加するには,ちょっと敷居の高さもあったかもしれません。

ビブリオバトルのように競技をしているわけではないので,どういう朗読でも構わない自由さがあります。実際に聞くとなると,トークの内容が整理されており,明快なトーンで読んでくれる人の方が確かに心地よいのですが,スムーズではないけれども,強い「こだわり」を感じさせてくれる表現もあります。

自分の持ちネタとして,朗読用の「好きな一節」や「好きな詩」をコレクションしておく。これはとても面白いと思いました。これを目当てに読書をすると,読む目的もできますね。

大江健三郎の『レイン・ツリーを聴く女たち』の中の一節を朗読した方がいらっしゃいました。確か武満徹の作品にインスパイアされた作品のはずです。音楽に関連する文章の中から,好きな一節をコレクションする,というのは,ちょっとやってみたいな,と個人的に思いました。

記念館の入口。イベント後です。