2016年9月22日木曜日

話題の映画「シン・ゴジラ」を観てきました。想定外の危機への対応をシミュレーションするリアリティを持った凄い情報量を持った怪獣映画でした

昨晩は,話題の映画「シン・ゴジラ」を金沢市内のユナイテッドシネマのレイト・ショーで観てきました。大ヒット作ということで,大入り袋の代わりに次のようなシールをもらいました。
「ゴジラ」といえば,怪獣映画の代表作ですが,この「シン・ゴジラ」には,娯楽的な要素はほとんどなく,想定外の人知を超えた危機が発生した場合の国の政治の中枢部の動きをドキュメンタリー・タッチでシミュレーションしたような映画になっていました。テンポが非常によく,特にドラマの前半は感情移入する暇も与えないほどの焦燥感が画面から伝わってきました。

タイトルの「シン」という言葉が目立ちますが,続編的な意味での「新」ではなく,全く別の切り口から「ゴジラ」を描いた作品ということで使っていたのだと思います。この「シン~」という用語は,映画の「別格さ」を表現している点で見事です(今年の新語流行語大賞はこれかも)。パロディとして真似した使いたくなるような言葉です。

ゴジラが海から東京に上陸し,甚大な建物の被害だけでなく,放射能汚染の被害が出るという点で,誰が観ても東日本大震災のアナロジーになっています。つまり「想定外の危機」を怪獣という形に具現化していたことになります。

ゴジラがなぜ生まれたかについては,1954年版「ゴジラ」と共通するのかは知らないのですが,人類の文明の発展の負の側面から生まれたという点は共通していると思います。ゴジラ自身には悪意はないけれども,いろいろな負の連鎖が重なった結果,海底の生物が異様に進化し,無敵の耐性を備えて,巨大化して出現したという形になります。

ネーミング的には「GODZILLA」(石原さとみが,英会話学校のCMのように発音していました)なのですが,特に前半の「GOD」という部分を強調していました。人間の能力を超えている点で,その前では謙虚になるべきというメッセージを感じました。

そのエネルギー源が核エネルギーで,自身に危機が迫った時に,ヤマアラシが棘を逆立てるように,強烈な白熱光を四方八方に発散します。そのエネルギーを出し尽くすと活動は取りあえず止まるのですが,エネルギーが溜ってくるとまた活動を始めます。

ゴジラの体は,溶岩のようにも見えます。活動期になるとマグマのようなものが体の内部に出現し,不気味な赤い光を見せます。この活動と休止を繰り返しながら,段々と大型怪獣に進化していくあたり(急速に進化するのもゴジラの特徴),火山の活動と似ています。初期ゴジラは,結構愛嬌がある感じでしたが,段々とお馴染みの形に進化していきました。しかも遺伝子の情報量(?)も人間以上ということで,敵が近づくと反応するセンサーのようなものまであります。

この想定外の危機に対する総理大臣を中心とした政府の対応ですが,ヒジョーに(と財津一郎風に言いたくなるぐらい)関係者の数が多く,しかも長い名前の会議を次々と重ねます。その結果として,初期の対応としては,正確ではない,国民が安心するような無難な情報を発表する,という形になります。一種,揶揄している部分もあったと思うのですが,最終的には,この日本式のチームで対応する方式でゴジラの活動を何とか食い止めます。批判するだけになっていないのが良いと思いました。

その対応の中心となるのが長谷川博己と竹野内豊という,「次期のリーダー候補」です。2人の役名は長くて忘れたのですが,その下に集まる専門家集団であるとか関係各所との調整の成果が,最後は東京を救うことになります。両者ともクールで爽やかでさえあるのですが,その中に熱い思いを持っており,そのことが対応チームをまとめる力になっていました。

個人的には,日常的には官僚的な組織の中では変人扱いされている,長谷川の下の専門家チームに注目しました。現状分析だけする大御所が役に立たない一方で,彼らの表情や動きが段々,生き生きとしてくるのを見ながら,多様な人材を抱えていることが強みになることを伝えたかったのかな,と感じました。

その他,日米安保条約や多国籍軍のことが出てきたリ,色々な要素を抜かりなく盛り込んでいました。最後,多国籍軍が東京に核ミサイルを撃ち込んでゴジラにとどめを刺す,という最後の手段が出てきて,カウントダウンも始まります。この案を阻止して,長谷川チームの対案(ゴジラを体内から凍結させるという案)で何とか食い止めるというのがドラマのいちばんの見所になります。最後の手段のワザの一つに代行総理が頭を下げ続けるというのもありましたが,「伝統的な手法」も駆使しているあたりも面白いところでした。

とにかく登場人物の数や飛び交う用語の数が多く,消化しきれなかったのですが,そのことによって中央官庁での意思決定の難しさが表現されていると思いました。子供向け怪獣映画では,結構簡単に軍が出動して,ミサイルなどを打ち込んだりするのですが,その手続きをしっかり描くとこんな感じになるのかもしれません。自衛隊の組織については,そもそも予備知識が全くないのですが,その組織力や責任感も,クールに描かれており,結構リアルなのではと感じました。

最終的には,新幹線を含む各種鉄道をゴジラにぶつけたり,ありとあらゆる手段を使うあたり,結構ワクワクと観てしまいました。が,最後の段階,とりあえずゴジラは動きを止めているだけで,「もしかしたらすぐに動き出すかも」という雰囲気で終わります。「ゴジラと共存をしていかなければ」というセリフも出てきましたが,火山が多く,地震が多発する日本では,他人事とは思えない警鐘になっていました。

重要なことを書き忘れました。音楽は従来どおり,伊福部昭作曲の音楽を使っていました。この音楽があることで,「シン」と同時に「伝統」も感じることができました。映画の最後のクレジットが出てくる部分でもゴジラのテーマを流していましたが,恐らく,1954年のオリジナル音源を使っていたのではないかと思います。

ドラマ全体としては,画面に緊迫感があり,カメラが激しく動く部分もあったので,観ていて結構疲れました。また,作り手側の意図が鮮明過ぎるかな,ということも感じました。しかし,こういったこと以上に,危機への対応を細かく積み重ねるように描くことで,荒唐無稽な怪獣映画とは思えないリアリティを感じさせてくれた点が凄いと思いました。