2016年9月18日日曜日

江戸時代の軍書からみる関ケ原合戦:史実と虚構@金大サテライトプラザで講演を聞いてきました。「真田丸」をより立体的に楽しめそう。夕食はサンマの塩焼き+ひやおろし

本日の金沢は朝から天候が悪かったのですが,先週から今週に掛けての「真田丸」に合わせるかのように,金沢大学サテライトプラザで金沢大学の山本洋先生による講演「江戸時代の軍書からみる関ケ原合戦:史実と虚構」が行われたので聞いてきました。

会場の金沢大学サテライトプラザ(金沢市西町教育研修館)です。この日の金沢市内は,観光客で恐ろしく混んでいましたが,何とか到着。



この建物は谷口吉郎設計ですが,この天井の折り鶴(?)が特徴的ですね。


内容は,(1)色々な文学やドラマで関ケ原合戦をどう描いているか?(2)本来の史実とどうだったのか?(3)どういう背景があるのか? といったもので,かなり専門的な内容を含んでいましたが,とても分かりやすく紹介していただきましたので,「なるほど。ガッテン」という感じで関ケ原合戦に関する知識を深めることができました。

関ケ原合戦については,一般的には「天下分け目の戦い」「東軍対西軍」「家康の老獪な戦略によるの勝利」...といった印象があると思うのですが,史実は少し違うというところから始まりました。

まず「関ケ原図屏風」の話題が出ました。下のような屏風です。
http://heritager.com/wp-content/uploads/2015/04/sekigaharascreen-big.jpg


ご存じのように今年の大河ドラマ「真田丸」では,関ケ原合戦自体は全く描かれませんでしたので,この図屏風を見て,改めて「こんな感じだったのか」と振り返っているところです。が,この絵には,描いた人の思惑が現れているとのことです。

山本先生は,実際に関ケ原古戦場に行って確認をしてきたとのことですが,例えば,「小早川秀秋が,急斜面を降りて,大谷吉継を攻めるのは多分不可能」とのことでした。

その他にも,こういった資料には,史実と虚構が混ざって描かれているということが,紹介されました。関ケ原合戦には,色々な「有名なエピソード」がありますが,もとをたどれば「関ケ原軍記大成」という資料に行きつくことが多いようですが,この資料自体にも色々な思惑が盛り込まれており,時代を経るにつれて,「尾ひれが付いて来た」というのが実際のようです。例えば次のような感じです。

(1)東軍対西軍 という構図
明治時代の研究書以降流布するようになったもので,当時は,「石田三成+毛利輝元」対「徳川家康主導軍」というのが実体だったようだ。

(2)七将による三成襲撃事件
前田利家の死後,三成に恨みを持った7人の武将が三成を襲撃し,三成は伏見の家康の屋敷に逃げ込んだ...という話。実際は,三成は伏見の自分の屋敷に逃げ込んでいたようだ。

(3)小山評定
小山で軍議を行い,福島正則,黒田長政らが石田三成征討を決定。あったかもしれないが,黒田長政,細川忠興らが参加するのは物理的には難しかった。

(4)問鉄砲
東軍になかなか寝返らない小早川秀秋に対して,家康が督促するように鉄砲を撃ち,慌てて小早川軍が寝返ったというエピソード。実際は,小早川軍は,開戦と同時に裏切っている。また,距離的に鉄砲の音は聞こえなかったはず。

(5)凡庸な毛利輝元
毛利輝元が家康と正面衝突をしたくなかったのは事実だが,当時,西国で広範囲に渡って領土拡大のための活動を行っていた。

こういったエピソードが,どこから出てきているのか?を『関ケ原軍記大成』の本文で確認したのですが,ちょっとした謎解きのような感じでした。

後半は,山本先生の本来の専門である,岩国藩の吉川広家の話が中心になりました。この『関ケ原軍記大成』には,版本が全くなく,写本により全国各地に広範囲に流布したという点に特徴があります。一種,「影響力のあるメディア」のような位置づけの資料と認識されていたので,吉川広家は,そのことを利用して,吉川家の格を上げるために(賄賂のような形で),この大成に「架空の書状」を掲載させた,といったことが紹介されました。藩が取り潰しになるかどうかの厳しい状況の中での生き残り策ということで,のんきな状況ではないのですが,「これは面白い」と思いました。

いずれにしてもこの『関ケ原軍記大成』には,純粋な史実以外にも色々な虚構も含まれており,歴史学の史料としては,単純には使えないとのことです。そのことを理解した上で,利用するならば良いのですが,例えば,「町おこしのための観光地の説明書き」の典拠として使うのは,危険なことです。通説化した有名なエピソードの中にもこういう例は多いようですが,徳川史観にならざるを得ない江戸時代当時の歴史書を無批判に使うことはあり得ず,どういうメカニズムでその歴史認識が形成されたのかを考えることが重要というのが結論ということになります。

私自身,小学校~中学校に掛けて,暗記科目としての日本史が大好きで,得意科目だったのですが,現代のアカデミックな歴史学というのは,いわゆる「暗記科目」とは全く別もので,大変スリリングなものなんだ,ということを具体的に知ることができました。歴史学入門としてもとても面白い講演会だったと思います。

この日は講演会まで少し時間があったので,駐車場からの途中にあった,Cony's Eyeというギャラリーショップ&カフェに寄って見ました。

本当は何も買う予定ではなかったのですが,ついついプラスティック製万年筆(500円程度)を購入。万年筆という言葉に弱いからなのですが,携帯もしやすいので,気軽にサラサラと楽しむことができそうです。

さて,夕食です。先週買った「ひやおろし」(能登のお酒の竹葉です)との取り合わせを考えて,サンマの塩焼き。このお酒の旨味と心地よい飲みやすさとの取り合わせが最高でした。