この半年間,1回も欠かさずに見て来たNHK連続テレビ小説「あさが来た」も大詰めです。本日は,あさの夫の新次郎が死去。すべての人に愛された素晴らしいキャラクターがついに亡くなってしまいました。それぞれの人物の悲しみの表現が胸を打ったのですが,次第に何故か少しずつ笑顔に変化。最後,「晴れているのに雨が降っている」という絶妙の天候。その不思議な雰囲気に包まれるあさ。こういう点が「あさが来た」の清々しさですね。明日の最終回,どう締めてくれるのか楽しみですが,きっと明るく前向きに,「びっくりぽんや」という感じで結んでくれるのではないかと思います。
このドラマのストーリーの柱は,創成期の日本企業を描いた点と複数の家族の死を非常に沢山描いた点だったと思います。
炭鉱,銀行,生命保険,そして女子大学。全然関係がなさそうだけれども,見終わってみると,「こうなるのが必然」という感じでうまくつながっていました。江戸時代から明治時代へと社会が近代化し,企業が家族的経営から大規模化してい中,そこで働く人たちを支える仕組みとして生命保険が登場し,次世代を育成する教育機関が求められる,という流れが自然に理解できました。そして,何より素晴らしいと思ったのが,お金への尊敬の気持ちです。しっかり働き,しっかり稼ぐことで,しっかり家族を支えるという当たり前のことがとても気持ちの良いことに感じられました。
もちろん,これは脚本家の設定した登場人物のキャラクターが生き生きと魅力的だったことによります。主役のみならず,主要な脇役のほとんどすべてに大きな見せ場を作り,お互いを絡ませ合った手腕は凄いと思いました。今回のドラマで,一体どれだけのカップルが登場したのでしょうか?考えてみると...世代を超えた,ほとんどの主要登場人物に恋愛ドラマがあったのではないかと思います。大小さまざまの恋愛をドラマの登場人物と一緒になって視聴者が暖かく見守る,そんな感じの幸せ感がずっと持続していました。
ドラマの後半,あさの娘の千代と啓介が,絵に描いたような展開で夫婦になりましたが,視聴者自身,しっかりとドラマの登場人物の一員のような感じになってしまっていたので,このベタな感じが嫌味ではなく,清涼剤のように思えました。
このドラマでは,あさとはつの実家,あさの嫁ぎ先,はつの嫁ぎ先の3つの家族が出てきましたが,それぞれが家族経営だった点もポイントだったと思います。はつの嫁ぎ先は,商売に失敗したけれども,みかん農家として別の生き方を見つけたのは,見ていて嬉しかったですね。あさとはつの人生は,AKB48のテーマ曲どおり,2つのメロディが独立して動きつつも,見事にハモっていました。ドラマ版のテーマ曲に出てこない歌詞に「その距離を競うより どう飛んだか どこを飛んだのか それが一番大切なんだ」というのがありますが,あさとはつの人生を振り返ると,非常に味わい深い歌詞に思えてきます。
3つの家族をしっかりと描いていた結果,ドラマの終盤では,毎週誰かが亡くなっていた気がします。それにも関わらず,トーンが暗くならず,ドラマの勢いが継続していたのも脚本の素晴らしさだったと思います。本日の玉木宏だけでなく,ドラマの前半で亡くなった近藤正臣や林与一など,それぞれに死ぬ間際でも飄々としている粋な空気がありました。しかも,家族に囲まれて亡くなるということで,ある意味,理想的な亡くなり方の連続だったと思います。
そして,何よりも不思議で面白かったのが,「びっくりぽん」というあさの決まり文句です。ずっと昔から関西で使われてきた言葉のような自然さがありました。流行語大賞という感じとは一味違い,これからも,普通の関西弁としてずっと使われていくのでは?という気さえします。
色々とストレスフルな社会の中で,毎日15分間は別世界にトリップさせてくれた,名作ドラマだったと思います。最初から最後まで,見事な安定飛行で,安心して楽しむことができました。終わってしまうのが本当に寂しいドラマです。