2014年11月16日日曜日

石川四高記念文化交流館で作家・上田秀人氏の講演会と「波乱:百万石の留守居役(1)」の朗読。3人の役者によるラジオ・ドラマを聞くような立体的な朗読でした。

我が家は,一応,浄土真宗です。どの宗教にも四季折々の行事がありますが,毎年11月頃に報恩講という法要を自宅で行っています。今日の午前中は,お坊さんに来てもらい,そのお経を挙げてもらいました。

何のためなのかよく分からずにお経を挙げてもらっているのですが,母はいつも「一年無事に過ぎたことに感謝するんや」と言っています。間違って理解しているような気もしますが,感謝することに越したことはないので,冬の始まりの時期の年中行事になっています。その後,家族で昼食には芝寿しのオードブルなどを食べました。

本日は和菓子も買ってありました。

午後からは,金沢市内に出かけてきました。石川県立音楽堂で少し用事を済ませた後,もてなしドームの地下に行ってみると,「雑貨×作家マーケット」というイベントを行っていました。昨年も行っていた記憶がありますが,このところ金沢市ではこういう手作り雑貨を野外で販売するイベントが増えている気がします。なかなか楽し気でした。明日までやっているようです。


その後,香林坊に移動し,石川四高記念文化交流館で「もみじウィークブックフェスタ」の一環で行われた,作家・上田秀人さんの講演会+朗読会に参加してきました。


ちなみに,交流館周辺も「もみじだらけ」でした。
雨の中,色々とイベントをやっていました。


上田さんの名前は,実は知らなかったのですが,加賀藩を題材とした「百万石の留守居役」というシリーズもの時代小説を書いている人気作家ということです。今回は,著者による講演とその作品の朗読が行われるということで,「面白そう」と思い,聞きに行くことにしました。

講演の内容は後からご紹介しましょう。

地元劇団の男女3人の役者さんによよる朗読は,まるでラジオドラマを楽しむような立体感がありました。上田さん自身,朗読が終わった後,「自分の作品が音として読まれるのは恥ずかしい」と言いつつも,「これからこの作品を書くときは,この方たちの声が脳内に聞こえてくることになりそう」とおっしゃられていいました。間近で聞いたこともあり,臨場感たっぷりの迫力のある朗読でした。

この小説は,外様大名である加賀藩・前田家と将軍家との関係を描いたものということで,この日の配布資料には,この小説の人物関係図(徳川家と前田家の系図+前田家の家臣たち関係図という感じでした)のがつけられていました。

歴史小説の場合,似たような名前の人物がたくさん出てくる点が問題なのですが,この人物関係図を見ながら,3人の声色によって描き分けられた話を聞くことができましたので,ストーリーが大変分かりやすく伝わってきました。何よりも,役者さんたちの張りのある声が心地よく感じました。

上田さんによる講演も楽しいものでした。上田さんは,全く原稿を見ず,思いついたネタを次々と紹介していましたが,「剣なくして闘う男たち」というテーマに沿う形で,将軍家と闘うことなく幕末まで生き延びた「前田家のすごさ」に焦点が当てられていました。さすがに加賀藩や将軍家についての知識が豊富で,いちいち「なるほど,なるほど」と頷きながら,聞いていました。上田さんは,かなり早口だったので,聞き逃してしまう部分もあったのですが,「百万石の留守居役」シリーズを楽しむための知識満載の講演会でした。

メモを取りながら聞いていましたので,そのポイントをご紹介しましょう。

■黒田官兵衛のこと
  • まず,今年の大河ドラマ「軍師官兵衛」の話題から始まりました。
  • 黒田官兵衛は,時流を読むのが巧かった。ただし,私自身はあまり官兵衛を高く評価はしていない。
  • (余談ですが)姫路城は,世界遺産だけあって,一見の価値があります。階段が締められるようになっているなど,面白い仕組みがある。最近,エレベータを付けたのは大胆。
■闘わないことを選んできた前田家
  • 前田家2代の利長は,母まつを人質に出すことで,徳川家と闘わずに済んだ。
  • その後,ほぼ百万石を維持している。これは闘わないことを選んできたから。
  • 3代利常は,鼻毛を伸ばすなどバカを装っていた。城内で立小便をするなど,かなり無茶なこともしていた。色々なキャラクターを使い分ける賢さがあったのではないか。
  • 江戸時代初期の藩主は,カリスマ的な力がないとうまく藩をまとめられなかっただろう。
  • 前田家の場合,2代,3代藩主には,戦の経験があり,それを藩政に生かすことができたことが良かった。戦を行うとお金が掛かることをよく知っていた。
■金沢という場所と将軍家から見た前田家
  • 徳川将軍家から見ると,前田家は邪魔だった。
  • 当時の金沢は北前船が通る,貿易の要所だった。
  • 前田家は,将軍家から狙われていることを分かっていた。それを知りつつ,刀の力なしで生き残ってきた。そこに巧さがある。
  • 利長や利常も将軍家からいじめられているはずなのに,浅野内匠頭とは違ってキレていない。加賀藩が取り潰しになると7~8万人が失職する。それを考えると我慢せざるを得なかった。
■加賀藩伝統の我慢の資質
  • 加賀藩に備わっている我慢する資質は,前田利家からの伝統ではないか。
  • 利家は若い時から,食べていくための苦労を重ねている。
  • 五大老の一人にはなったが,天下を取れないことを自覚し,無理をしないという現実感を持っていた。
■金沢の都市の特徴
  • 金沢という都市自体,戦災にずっと遭っていないが,攻められることを考えた街づくりになっている。
  • 道路は直線的ではなく,細い。そのため,道路の途中で人が見えなくなってしまう。
  • 街中に用水があり,簡単に渡れない。これも戦うことを意識したものである。
  • 寺町は出城のようなものである。
  • 街自体,百万石にしては小さい。城が大きいと兵力が必要だが,金沢城は大きくないので効率的に守れる。
  • こういった街づくりは,観光の面からすると魅力的である。例えば,碁盤の目のような街の多い,中国の人には面白いのではないか。兼六園や武家屋敷だけではなく,観光客にはこういう点も見て欲しい。
■加賀藩の良さ
  • 藩の重臣の「馬鹿さ」が将軍家から見えてしまうと潰されることがあるが,加賀八家はそういう馬鹿はしていない。# 上田さんの小説中で加賀藩の家臣が色々と悪いことを勝手に語っているが,これは「創作上のはなし」で,関係者がいたら「すみません」とのことです。
  • 加賀藩は分家をせず,百万石の石高を維持しているのも良い。そのことにより,江戸城に行った際も特別の扱いになっている。
■礼儀作法のチェック
  • 前田家と将軍家が対面する場合は,はいつも1対1になっている。その分,不作法があった場合目立つので,取り潰される可能性も高い。その面でも藩主は馬鹿では務まらず,才覚が必要となる。
  • 江戸幕府は,武力ではなく礼儀によって各藩を押さえつけてきた。幕府が決めた礼儀(畳の縁を踏んではいけない...的な細かい作法など)に添っているかが複数の目付役にチェックされていた。江戸城だと藩主自身がやらないといけないので,こういったことを覚えていないと藩主は務まらなかった。前田家の場合,1対1なるので特にチェックが厳しかった。それに耐えてきたのは,前田家に根性があったからでは。
■加賀の文化について
  • 加賀藩の文化は5代綱紀のころから始まっているものが多い。
  • 戦争がなくなり,平和になると,「明日があるから」贅沢ができるようになり,支出が増える。
  • 身分の上のものは,着るものにもこだわらざるを得なくなり,借金をするものも出てきた。
  • 金沢は京都からの距離が比較的近かったので,京都から職人が来て,色々な産業が興った。
  • ちなみに京料理の味が薄味なのは...貧乏だったから。
  • (余談)近江町市場に行ってみたら大賑わい。カニばっかり売っていた。そのうち,地元の人が行けなくなるのでは。

■歴史小説家の仕事について
  • 最後は,歴史小説家の仕事の話になりました。
  • 小説家は,ほとんど立たずに仕事をしている。体を鍛える必要がある。
  • 上司がいないのは嬉しい。締切さえ守れば,何も言われない。先が見えない怖さはあるが...
  • 原稿はパソコンで書いている。
  • 森村誠一さんは手書きで書いているが,修正するたびにインクの色が違い,読み取るのが大変。「森村番」のような編集者が必要である。
  • 電子ブックは,文字が大きくできて良いが,苦手である。紙の本の感触が好きである。
  • 前のページを読み返したい時も不便に感じたので,リーダーを子供にあげた。
  • 本屋も好きである。特に地元の人が書いた本が好き。まとめ買いをする。
  • 歴史小説については,資料は膨大にあるが,歴史自体は変わらない点が良い。例えば,現代の経済小説だとすぐに状況が変わってしまう。
  • それと歴史小説家には年輩の作家が多いので...すぐに席が空く。ただし,その席に自分が座れるかは分かりませんが...。
というようなわけで,色々な内容がぎっしりと詰まった講演会でした。

イベント終了後,サイン会も行われました。せっかくの機会なので,こちらにも参加してきました。いただいてきた本は,朗読された「波乱:百万石の留守居役(1)」です。この本の装丁も,石川県出身の西のぼるさんです。

筆ペンでさらさらと書いていただきました。

作家さんから見ると,ファンとの対話の場になり,著作の売り上げにつながる。お客さんから見ると,無料で著者自身の生の声を聞け,朗読も聞け,サインももらえる。主催者側から見ると,企画展の集客につながる。ということで「三方良し」の企画だったと思います。

イベント終了後,すっかり辺りは暗くなっていました。石川四高記念文化交流館のライトアップも美しく生えていました。

交流館の近くのライトアップされたアメリカ楓を眺めながら帰宅しました。