語る場合,文章で書かれるよりも正確ではなくなりますが,色々な聞き手がいることを意識して,分かりやすい言葉になります。語られる内容については,体系化されていない場合が多数ですが,著者が今現在考えている本音のようなものが言葉の間からポロッと出てくる面白さがあります。
この日行われた安藤忠雄さんの講演会もそういった形でした。その内容について紹介しましょう。
安藤忠雄講演会「地方都市の可能性をつくる」
2014年11月22日(土)19:30~ 金沢市文化ホール
この講演会は,金沢21世紀美術館開館10周年記念で行われている「ジャパン・アーキテクツ1945-2010」関連プログラム として行われたものです。そのこともあるのか,21美の客層と重なる感じで,若い人が多い気がしました。講演会が始まる前,ロビーでは既に安藤忠雄さんがサイン会を行っていました。かなり長い列ができており,その雰囲気だけで気分が盛り上がるような感じでした(私もこの列に加わっていました)。
さて,講演会ですが安藤さんは,客席の通路からステージに登場しました。安藤さんは若い頃,ボクサーを目指していた時期があるそうですが,その登場のイメージでしょうか。
以下,私の方で勝手に見出しを付け,かなり「意訳」している部分もあるのですが,概要をまとめてみました。その語り口は生でないと伝わらないですね。
■21世紀美術館について
- ポンピドゥー・センターのミゲルー氏の企画による型破りな展覧会「ジャパン・アーキテクツ1945-2010」をよく受けたなと思う。その勇気が面白い。何事にも「勇気」や「情熱」が必要。
- 21世紀美術館が開館した頃,キュレーターの長谷川裕子さんや蓑豊初代館長など個性の強い方々のバトルがあったと思う。しかし,「スムーズにいくと(結果的に)うまくいかない」ものである。バトルの中に面白味がある。
- 秋元雄史館長は,以前,ベネッセアートサイト直島の企画に関わっていた。直島もベネッセの福武社長の情熱があったから出来たものである。その理想を追って,(安藤さんは)設計に参加した。
- 個性と個性のぶつかり合いで問題が起こるかもしれないが,情熱や理想がないと人は動かない。
- ヴィジョンが今日本から失われている。
- 資源,エネルギー,食糧問題などについて,どうするか考えるべき。日本はアジアの中でも特に遅れている。
- 2011年3月11日の東日本大震災後,自分のできる範囲で何ができるか考え,遺児の育英資金を集めることにした。
- ラフカディオ・ハーンは,日本の良さとして「自然,家族,地域,国を踏まえていること」を挙げた。金沢にはそれらが揃っている。
- クローデルとヴァレリーは日本のことを「世界でいちばん美しい国」と評した。
- 誰にも負けない,礼儀正しい建築を作るのが大切で,それが日本の国のアイデンティティになる。
- 日本の建築は世界一のレベルにある。建築現場の人を大切にすべきである。
- 1868年と1945年。ゼロからスタートした。これから世界が攻めてくる。若い人には挑戦する勇気を持って欲しい。
- 福澤諭吉は大阪の適塾で学んだ。自分で考える必要を説いた。
- 人間の脳の中の左脳は知識を詰め込む力,右脳は想像力を持つ。想像する力の方が挑戦する力になる。
- 最近の若い人たちの食事は貧しい。精神的な栄養の面でも不足している。本を読むべきである。
- あと10年もすると大変なことになる。
- 「自由」と「責任」はセットである。
- 「教養」と「野性」も必要である。
- 「野性」とは闘争心のこと。最近の若い人に不足している。
- 「感動」が生きていく力になる。なくなって来たと思ったら美術館に行くのがよい。
- 1997年,東大教授になった。
- 2004年の入学式でスピーチを行った。そこで「自立心」について,「自立心を持った上で,親や地域を支えなさい」と語った。
- 最近,入学式に親の参加が多いので,「今日から親と縁を切れ」と言ったが(事前原稿でチェックされたが,言ってしまったようです),他の教員も同様に思っていたらしい。
- サミュエル・ウルマンは,「理想のある間が青春」と言っている。
- 建築家は建物だけではなく,建物の回りまで考えるものである。京都の高瀬川付近では隣の家の設計まで勝手にしたことがある。
- 単なる消費物としての建築を作るのではなく,記憶に残るものを作りたい。
- 感性の豊かな子供を育てたいという思いで,兵庫県立こどもの館を設計した。子供の描いた作品の中から選んだオブジェを作った。
- 野間自由幼稚園,加賀錦城中学校など心の中に残るものを作った。
- 1988年,最初に直島を見たとき,全面が禿山たったので設計は無理だと思った。しかし,民家や文化は残っていた。
- 発想力に加え,「必ずなる」という思いの持続がないとできない。
- 神戸の六甲山も100年前は禿山だったが植林によって現在のような森になった。
- 直島については,アーティストが来てそこで絵を描いてもらえる場所にした。その見込どおり,白い壁と絵具を用意しておいたら,勝手に描いてくれた。その場にしかない芸術である。
- 芸術は自分を取り戻すものである。
- 戦後,「個人を捨てる」ような流れになったが,直島を企画した福武さんは違った。
- モネの作品を購入したのでオランジェリー美術館より良いものを作ろうと思った。
- モネはかつて日本の浮世絵に憧れていた。
- 過去と未来のどちらもを見て,生活の中から美意識を見つけるべき。
- ユニクロと共同で桜の迷宮を作ろうと思った。10年ぐらいかけてコツコツとやっている。最近,コツコツやることを忘れているのではないか。
- 大阪を「さくらの都」にしたいと思ったが,抵抗されると思い,あれこれ考え,桜一本ずつのオーナーを募集することでお金を集めることにした。
- その他,丸ビル,うめきた・水の広場,梅田スカイビル...いろいろやっている。
- 人間は面白いことを考えるべきである。個人が頑張り,企業は社会参加を行い,役所は大らかな気持ちで受けて止めて欲しい。
- 1日1万歩歩いているので快調である。ただし,歩くためには歩きたい街を作る必要がある。1か所ではだめである。
- 人生を楽しく過ごすことを考えるべきである。その中で東北のことも考えるべき。
- 何かに関わりながら生きたい。社会のためにも生きるし,自分のためにも生きる。
- 自分なりの考えをもっていれば,必ず道は開けるものである。ただし,勉強はしている。
- 本の中に1行でも1枚でも,すぐれた文章や写真があればよい。
- 自分の感性を磨かないと楽しめないものである。そのためには,自分なりの生き方を考えるべきである。
いちばん印象に残ったのは,やはり安藤さん自身,自分自身の力で自分の信念に従って道を切り開いてきた,という点です。いろいろと衝突しながらも,お金を持っている企業の社長や自治体の長などと正面からぶつかり,自分の理想を建築として次々と実現していっている点が一種,現代のヒーローのように見えます。
それと常に若い世代の育成を意識しているのが素晴らしいと感じました。その点で今回,比較的若い層の聴衆が多かったのは,刺激になったのではないかと思います。
演題と内容は全然違っていたのですが,この辺も含め「安藤さんらしさ」でしょうか。
サイン会では次の本にサインを頂きました。サイン会があると分かっていたので,事前に購入していった本です。15歳の子供向けの本で,自伝的な内容のようです。その方が「分かりやすい」と思い,買ったものです。
次のような感じでピンクのペンでサインをしていただきました。手際よく,「まいど」という感じでテキパキとサインをされていたのが,大阪人的だなぁと感心しました。