2013年11月24日日曜日

西田幾多郎記念哲学館で行われた諸富祥彦さんの講演「カウンセリングと癒し:人生には意味がある」を聞いてきました。カウンセラーとしての実践に基づく,非常に分かりやすい内容。隣の人と意見を共有しながら進める型破りスタイルは,常に生き生き。素晴らしい時間を過ごせました。

昨日に引き続き,今日も午後から無料の講演会を聞いてきました。本日は西田幾多郎記念哲学館で行われた明治大学教授で心理学者の諸富祥彦さんの講演でした(後述しますが,今回の場合,「聞く」というよりは「参加」でした)。
本日は大変過ごしやすい天候でした。

諸富さんの著作では,10年以上前に講談社現代新書から発売された「むなしさの心理学」や「トランスパーソナル心理学入門」などを読んで,なるほどと納得したことがあります。やはり,仕事を続けていると(というよりは,人生を普通に生きているだけでも)苦労は絶えません。「死」というゴールがある中で「生きる意味は?」ということを時々は考えたくなります。
諸富さんの著作と講演会のポスター
そういう時に諸富さんの書かれた本や,そこで紹介されていたヴィクトル・フランクルの著作などを読むと,前向きな気分になれます。今では,正直なところ,「人生の意味など考えても仕方がない」,「命がある限り,死ぬまで生きられれば良い」ぐらいに思っているところですが,それでも,こういう著作を読むと精神的に落ち着くことができる気がします。

そういう意味で今回の講演はとても楽しみでした。タイトルは「カウンセリングと癒し:人生には意味がある」ということで,どういう内容になるのかな?と考えていたのですが...一方的に諸富さんが話すのではなく,隣に座った人(たまたま隣に座った見知らぬ人ですね)と諸富さんがしゃべった内容について,「あなたはいかがですか?」と尋ねあいながら進めるというスタイルでした。

この形だと,諸富さんの語った言葉が自分の頭の中を一度通り抜けるので,聞いたことの印象が強く残ります。最近,大学教育で注目を集めている「アクティブ・ラーニング」のスタイルに近いものだと思いますが,それを一般市民向けのかなり大勢の参加者のいる講演会でやってしまうのがすごいと思いました。

今回の内容は,基本的に若い学生や生徒を相手としたカウンセラーとしての体験談をベースとしたもので,大変説得力がありました。諸富さんの著作からは,「包容力がありまじめ」という印象を持っていたのですが,この体験談を語る部分では,さまざまな声色を使い分けての生き生きした言葉が連続し,落語とは言わないまでも,堅苦しい講義とは別世界が広がっている感じでした。

以下,内容について箇条書きで紹介をしましょう。

1.リレーションが重要
  • 「人と人のふれ合い」が癒しの力になり,生きる力になる。
  • 「ふれあい」をエンジョイできることが健康な人生には必要である。
  • カウンセラーや教師にまず必要な力は,この「人間関係を楽しむ力」である(諸富さんの恩師の国分康孝さんによると「ふだんからほろ酔い加減」ぐらいで丁度良いとのこと)

2.援助希求される人に
  • クライアント自らがのぞんで援助をもとめてくれない(援助希求)とカウンセリングは始まらない。
  • どうしたら助けをもとめてくれるか?→そばにいるだけでホッとできる雰囲気が必要。
  • そのためには,「相手にモードを合わせること」「相手のための心のスペースを作ること」が必要
  • 太った人は,「安心キャラ」になりやすい。
  • 忙しい人は,そのスペースを無くしてしまっている。
  • 相手が話したいことのきっかけを作るような,開かれた質問(Opened Question)が重要(その反対が,警察などが行うClosed Question)
  • 「最近どうですか?」こういった「開かれた質問」だけで救われることがある(ただし,言い方にも注意)
3.本気で生きる
  • カウンセラーになるには,「修行」と言っても良いトレーニングが必要。
  • 自分自身がカウンセリングを受け,自分を深く見つめるようなワークショップに何回も参加する。カウンセラーは自分の心だけが「商売道具」
  • 人を癒せるカウンセラーになるには,本気で生きることが必要。そうでないカウンセラーは本気で悩んでいるクライアントにすぐばれる。
  • 仕事にしても夫婦関係にしても,本気で行い,本気で好きになることが求められるが...自分の仕事に満足できなくなったり,かえって夫婦関係が壊れたりする危険がある。
  • 「悩み」という形で自分を深く見つめることで,自分の人生の使命に気づくことがある。

4.カウンセリングの3つのアプローチ
  • カウンセリングには,(1)精神分析,(2)認知行動療法,(3)気づきと学びのアプローチの3つのアプローチがあり,場合によって使い分けることになる。
  • (1)精神分析は,自分の過去のトラウマを探るもの(”ドロドロ系”アプローチ)
  • (2)認知行動療法(最近流行している)は,現在の状況を改善するために,色々な練習を段階を追ってサクサクと繰り返すもの(例えば,コンビニの女性店員に声を掛ける練習をするとか)。(”サクサク系”アプローチ)
  • 諸富さんは,(3)を専門としている。これはトランスパーソナル心理学とか人間性心理学と呼ばれるもので,フランクルやロジャースもこの流派に入る。
  • (1)(2)が因果論であるのに対し,(3)は目的論である。「魂の目的論」の立場。
  • (3)では,一見ネガティブな出来事である病気,トラブルなどすべてのことに意味があると考える。「大切なこと」を学ばせ,気付かせるというアプローチである。
  • ここで,諸富さんが体験した不登校児を持つ親とのカウンセリングの様子が,「声色」を使って再現されましたが,この部分が今回の講演会の”肝”だったと思いました。4,5回カウンセリングを繰り返すうちに,クライアント自身が気づき始める,ということがリアルに伝わりました。
  • カウンセラーはあくまでも聞き手。聞き手に徹しているうちに,クライアント自身が気づくというもの。
  • 魂の成長というのは,頭のレベルではない。悩みのない人生はない。深く悩む人は,濃密な人生を生きている人である。

諸富さんは,このように,とても深い話をされていたので,しっかりとメモを取りながら聞いてしまいました。諸富さんの立場である,人間性心理学的アプローチだとカウンセリングに非常に時間が掛かるのでは?と思ったのですが,私自身の経験からしても,いくら他人から「ああしろ,こうしろ」と繰り返し言い続けても,本人が気づかないと全然意味はないですね。「気づかせる」というアプローチはもっともだと思います。
哲学館の中です。この地下のフロアに会場のホールがありました。
 
というわけで,2時間ほどがあっという間に終わりました。私自身,今からカウンセラーになるつもりはありませんが,「人間関係を楽しめる人」「相手のためのスペースのある人」ぐらいにはなりたいと思いました。何よりも「悩み」によって,自分を深く見つめることができ,自分の人生にとって大切な「気づき」を得られるという考え方は,生きていく上で励みになります。そのためには,何にせよ「本気で生きていくこと(うつ病にならない程度ぐらいにですが)」が必要なのかなと感じました。

私の隣の人は,石川県外から来ていた方だったのですが,その方とも思いがけなく色々な意見交換をできました。予想しなかった「素晴らしい時間」を過ごすことのできた休日の午後でした。

「思索の道」を通って駐車場へ。
PS. 今回の講演の中で諸富さんの最新の著作について案内をされていました。今回のお礼代わりにご紹介をさせていただきます。
あなたがこの世に生まれてきた意味 (角川SSC新書) 諸富 祥彦