2013年11月10日日曜日

本日公開 三谷幸喜監督作品「清須会議」を見てきました。三谷さん得意の群集+場所固定作品。作りこまれたメイク,華やかな衣装。キャストもぴったり。とても楽しめる作品でした

本日公開の三谷幸喜監督の映画「清須会議」をレイトショーで観てきました。個人的に三谷さんの作品は大好きで,ドラマ「王様のレストラン」以降の作品は大体観ています。ただし,映画館で三谷さんの作品を観たのは今回が初めてでした。
とても楽しめたので久しぶりに映画館でパンフレットを購入。左はチラシです。
 三谷さんの映画と言えば,バックステージもの風の群像コメディが多く,ややドタバタした印象があります。どちらかというと演劇やテレビドラマの方が「本職」という印象を持っていたのですが,今回の清須会議は時代劇ということもあり,コメディ的要素は控えめにし(それでもクスリとさせる場面多数),結果は分かっているにも関わらず,「どうなるのだろう?」というスリリングさがありました。三谷さんが監督した映画の中ではいちばん良い作品なのでは,と思いました。それと「会議」を扱っている点で,三谷さんの初期の戯曲の代表作である「十二人の優しい日本人」と似た要素もあると思いました。

清須会議は,本能寺の変と山崎の戦の後の織田信長の後継者選びを行った会議で,その結果,秀吉が実質の後継者となり,柴田勝家が力を失うことになります。この映画では,大泉洋演じる秀吉を冷静な判断ができ,人を引きつける魅力を持った「新しいタイプの武将」として描き,役所広司演じる柴田勝家を,戦場でしか力を発揮できない「古いタイプの武将」として描いていました。

戦場でない「会議」で,勝家の方が敗れてしまうのは当然なのですが,その”時代遅れ”感を役所広司が見事に演じていました。セリフ回しや荒っぽい外観は,黒澤明の時代劇に出てくる三船敏郎そのままという感じでした。その時代遅れ感が自然なユーモアにつながっていたのですが,だんだんとその純粋さが”哀感”となって感じられました。

対する秀吉の方は,大河ドラマの主人公でよく見かけるような,派手でコミカルで弾けた感じです。この秀吉と勝家のコントラストが鮮やかでした。

清須会議は宿老と呼ばれる,主要武将4人で後継者を決めたのですが,秀吉と勝家意外の丹羽長秀と池田恒興のキャスティングボードを握ることになります。この2人を自分の方に組み込もうとする,秀吉側と勝家側のそれぞれの工作も見ものでした。そもそも小日向文世演じる丹羽長秀は勝家の参謀役だったのですが....詳細は省略しておきましょう。小日向さんの「たくらみつつも苦悩している」演技はこの映画のいちばんの見所だったかもしれません。

佐藤浩市演じる池田恒興の方は,「どちらにしようか」と揺れ動く役でした。両陣営からの裏取引の条件が出されるのですが,そのレベルの違いが面白かったですね。秀吉の方は「○○の国をやろう」という天下国家レベルなのですが,勝家の方は「越前のカニを送ろう」「米一年分を送ろう」というレベルで,最終的には秀吉側になります。

この秀吉側の工作には,中谷美紀演じる秀吉の妻も大活躍していました。もう一人,重要な役割を果たす女性が鈴木京香演じるお市の方です。メイクの方は「白塗り+お歯黒」という感じで,勝家に激しく迫る姿には,黒澤明の「羅生門」に出てくる京マチコを思わせる鬼気迫る雰囲気がありました。もしかしたら勝家とお市の方のイメージには,往年の黒澤映画へのオマージュ的なメッセージがあるのかな,とも感じました。

最終的に秀吉が後継者になるのですが,この会議の後,勝家とお市の方が結婚することになります。そういう点では,秀吉と勝家はWin-Winともいえます。最後の方で松姫(信長の長男の妻で武田信玄の子供)は,自分の息子・三法師が正式な後継者になることが決まり「武田の血を残すことができた」と不敵につぶやいていました。色々な思惑が絡まりつつも,「最適解」が出された会議だったのではないかと思いました。

金沢在住者として忘れられないのが浅野忠信演じる前田利家です。1カ所ユーモラスなシーンはあったのですが,基本的にはこの映画で一番のクールな二枚目役でした。出番はそれほど多くなかったのですが,ドラマをぐっと引き締めていました。

このように非常に登場人物が多いのですが,各人物に印象的な出番を作っているのは,「さすが」です。「あまちゃん」でお馴染みになった「でんでん」さんの会議の議長・前田玄以役なども味がありました。

その他の役者のことも書き出すとキリがないのですが,各役者のメイクや衣装にも非常に凝っており,三谷さんらしい「作りこまれた感」たっぷりでした。例えば,織田信長(金沢出身・篠井英介さんが演じていました)とその子供たちは全員鼻が高いメイク,秀吉の家族の方は全部耳が大きいメイクになっていました。ちなみに篠井信長が「で,あるか」と一言つぶやくシーンがあったのですが,これは,NHK大河ドラマ「利家とまつ」の時の反町信長のパロディでしょうか。

パロディと言えば,1シーンだけ登場する西田敏行の雰囲気は,同じ三谷監督作品「ステキな金縛り」の中に出てくる衣装と同じでしたね(たまたま,家に帰ってテレビを観たらこの映画を放送していたので気づきました)。西田さんの場合,出番が多過ぎると,ドラマを乗っ取ってしまうところがあるのですが,今回も1シーンだけでしっかりと暖かな笑いを取ってくれました。

三谷さんの盟友,梶原善さんと近藤芳正さんもしっかり出ていました。近藤さんの役柄(パンフレットを読んで気づいたのですが)は,清須城の門番役でしたが,「十二人の優しい日本人」の守衛役と対応する感じだなぁと勝手に関連付けてしまいました。

お客さんは,見た感じ中年の夫婦のような感じの人が多かったのですが,三谷作品の好きな人にとっては特に楽しめる作品だと思いました。