本日で展覧会が終了となる金沢21世紀美術館の展覧会「内臓感覚」のクロージング・イベントとして,この展覧会に音声+映像作品を出展している,ハンス・ベリとナタリー・ユールベリのお2人を招いた エレクトロニック・ライブ・コンサートが行われたので,参加してきました。
この「内臓感覚」には,かなり不気味な作品が多かったのですが,その中でも特に印象に残ったのがハンス・ベリとナタリー・ユールベリによるクレイアニメによる映像作品でした。アニメ製作はナタリーさん担当,音楽の方はハンスさん担当で,この日はまず,ナタリーさんによる映像にハンスさんが音楽を付けるライブが行われました。ただし,ライブといっても楽器を演奏するわけではなく,ハンスさんがスクリーンの下で映像に合わせてPCの操作をする,といった感じでした。
映像は展覧会のようなクレイアニメではなく,より抽象的で幾何学的な映像でした。水滴のようなもの,宝石のようなものが分裂したり,合体したり,動き回ったり...予想が付かない動きをするのに合わせ,ビートが延々と続くようなハンスさんの電気音楽がエンドレスで続きます。ナタリーさんの画像の方は,何か顕微鏡でミクロの生命現象を拡大して見ているようなところがありました。
音楽の方は,テンポはほぼ一定で,音量の変化もそれほどなく,少しずつパラメータを変えながら変化を続けているような感じでした。やはり繰り返しの動きの多い画面の雰囲気とよく合っていました。会場のシアター21は独特の陶酔的な雰囲気に変わりました。が..さすがに繰り返しには催眠効果があるのか途中ウトウトしてしまいました。
後半は,この両人から作品制作に関する話を伺うコーナーでした。担当キュレーターの吉岡さんの質問に答えていたのは主にナタリーさんでした。やはりナタリーさんの考える映像についてのコンセプトが作品の核となっていたようです。
ナタリーさんは,「社会の中で何をやっても許されるのがアートである」「アイデアと技術は競合状態にある。アイデアに技術が伴った時,良い作品になる」と語っていました。アートに対する信念を聞くことができるのが,こういう機会の良い点だと思います。
ナタリーさんはクレイアニメを独学で学んだそうですが,確かにその作風はかなり素朴な感じです。その一方,ハンスさんの音楽の方は通常のダンスミュージック風です。というわけで,この2人の作品については,ナタリーさんの強烈な(かなり不気味で暗くてグロテスク...)アイデアを,クレイアニメというかなり素朴な感じの手法で表現し,ハンスさんの音楽がその雰囲気を盛り上げている(または中和している),という構成になっていると感じました。
やはりナタリーさんの方に「真のアーティスト」といったところがあり,「心地よいものを表現するのはアートではない。社会の中の間違い,恐怖感,変な部分について強く感じたことを表現すべき」といったことを繰り返し語っていました。その点でハンスさんの音楽の方向性との間で軋轢があることもあるようですが,客観的に見ると,この2人のバランスはとても良いのではないかと思います。
トーク以外にも過去の作品や最新の作品の映像が紹介されましたが,どんどん作品の雰囲気が洗練させてきていると思います。最後の方で粘土で作られたアイスクリームを切ったり食べたりする様子が続く「分化」という最新作を流していましたが,こういうポップな感じの表現もなかなか面白いと思いました。
現代美術については,作品に込められた作者の意図が分かるかどうかで,かなり評価が変わると思います。本来は「見れば分かる」というのが良いのでしょうが,今回のような「作者が直接語る」というような機会も貴重ですね。美術館主催の企画展ならではの良い企画だと思いました。