先日亡くなられた指揮者の秋山和慶さんを偲んで,今日は我が家にある音盤や本を色々と取り出して聞いたり読んだりしていました。
実は秋山さん指揮のCDはほとんど持っていません。オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)を指揮したCDも,前橋汀子さんと共演したべートーヴェンのヴァイオリン協奏曲しかないのですが,これは「前橋さんのマイペースにしっかりと合わせた演奏」という感じですね。
それ以外だと,1980年代にトロント交響楽団を指揮したストラヴィンスキーの「火の鳥」(1910年バレエ版)のCDぐらいです。
このCDを何故持っているのか記憶は定かでないのですが,1990年代「秋山さんが海外のオーケストラを指揮した録音がある。面白そうだ」と思い買ったような気がします。カップリングは,ストラヴィンスキーの「春の祭典」(こちらはアンドルー・デイヴィス指揮トロント交響楽団)というお得盤(?)です。演奏の方もかっちりとまとまった良い演奏ですが,一度実演で聞いてからは,バレエ版については音盤だと少々物足りないな,という気になっています。
それよりも私にとって大切なのは,私自身の幼少時によく聞いていた研秀出版の「世界の名曲シリーズ」というレコードのシリーズです。17cmで33回転という不思議な規格でいくつかのテーマごとにちょっと立派げな箱に2枚レコードが入っているというものです。なぜこのレコードがあるのかは謎ですが,もしかしたら両親が「子どもの教育のため」買ったのかもしれません。そうだとすれば,現在のクラシック音楽好きの私を作った大元とも言えます。文部省推薦といった感じの小学校の音楽で聞くような曲が収録されています。
いずれにしても私が最初に自分の意志でレコードを聴いたのはこのシリーズに違いありません(自分で操作していた気もします)。小学校の低学年の時でした。そしてこのシリーズの一部を秋山和慶さんが指揮されていました。これは確かではありませんが,私が最初に聞いたクラシック音楽が秋山さん指揮だった可能性もあります。
このレコードは長年物置の中にしまってありました。ほとんど聞くこともないのですが,やはり最初に聞いた音盤ということで...捨てられないですね。今回,秋山さんを追悼して本当に久しぶりに取り出して聞いてみました。ちゃんと鳴るのか不安でしたが...しっかりと鳴ってくれました。デジタル録音と違い,経年変化で音が少しふやけた感じに聞こえるのも,良い味わいです。今となっては貴重な音源だと思うので,どういう曲を秋山さんが指揮していたのか紹介しましょう。
このシリーズは次のとおり全15巻構成です。我が家にはこのうちの最初の6枚がありました。©1966と書いてありましたので,秋山さん25歳の頃の演奏ということになります。
このうち次の3セットの一部を秋山さんが指揮されています。次のとおり,世界の名曲を表紙に使っています。マネの「横笛を吹く少年」などは,このシリーズで見覚えました。

1.行進曲集1各曲の演奏者は音盤のレーベル面にしか書いてないので,その写真で紹介しましょう。片面10分以内ぐらいの収録時間なので,イメージとしてはほとんどSP盤の雰囲気です。
「おもちゃの兵隊」はかなり昔,「キューピー3分クッキング」のテーマ曲でしたね。次の曲が「キューピーの観兵式」というはたまたまですね。演奏の「フィルハーモニア管弦楽団」といのは,英国のあのメジャーオーケストラではなく,レコーディング用の楽団の名前ではないかと思います(詳細は不明)。この演奏ですが,秋山さんが編曲も行っています。
その裏面です。
「アメリカ巡ら兵」は,現在では「アメリカン・パトロール」と呼ぶのが普通ですね(行進曲なのか謎ですが)。その他の曲は,現在ではほとんど演奏されない曲ですね。
2枚目のA面
ベートーヴェンのトルコ行進曲だけは,東京交響楽団の演奏。秋山さんとは,本当に長いつきあいですね。
2枚目のB面
ラデツキー行進曲はとても軽快なテンポ。曲の最初の方で全休符が入る部分では,シンバルが加えられていました。大太鼓が入るのは結構聞きますが,シンバルというのは珍しいかもしれません。
タイケの「旧友」は,最近はあまり聞かれなくなりましたが,この頃から好きな曲でした。演奏時間が6分以上ということで,繰り返しを律儀に行っています。
2.描写音楽
描写音楽という言葉自体,ほぼ死語でしょうか。「セミ・クラシック」と呼ばれる(こちらも死語でしょうか)ような曲が収録されています。実はこの分野,今でも結構好きです。
1枚目A面
「森のかじや」「森の水車」...タイトルは似ていますが,別の作曲家によるものです。両曲とも聞いていると懐かしくなります。
1枚目B面
この盤はなぜか傷だらけでした。「かっこうワルツ」がいちばん有名だと思いますが,それでも最近は演奏される機会はほとんどないでしょうか。
2枚目A面
「口笛吹きと小犬」は今でも時々聞かれる曲ですね。のどかな気分にさせてくれる曲です。
2枚目B面
「クシコスの郵便馬車」は,当時の運動会の徒競走のBGMの定番でした。この曲も好きでしたね。リストのハンガリー狂詩曲を後から聴いて,「なぜクシコス・ポスト(この名前の方が一般的ですね)が入っている?」と思った記憶があります。その次の「国際急行列車」は駅から出発して次の駅まで到着するような曲。このタイプ(スピードを上げて,快適に進み,最後はスピードダウンして停車)の曲は時々ありますが,鉄道大好きとして有名な秋山さんにはぴったりの曲。私もこの曲は当時から好きな曲でした。
3.管弦楽曲集
このセットの演奏の大半は,渡辺暁雄さん指揮の日本フィルなのですが,せっかくなのでご紹介しましょう。
1枚目A面
1枚目B面
ハイドン作曲となっているのが時代を感じさせますね。
2枚目A面
これは秋山さん指揮東京交響楽団の演奏。カルメンはとても颯爽とした演奏。「ペルシャの市場にて」は小学校の音楽鑑賞の定番曲でしたね。
2枚目B面
こちらは渡辺暁雄さんの指揮です。
というわけで,久しぶりに聞いてみて,形ある音盤の良さを実感しました。このセットですが,我が家にも残っているぐらいなので,この時代結構売れていたのかもしれないですね。次のとおり1セット800円という金額が書いてありましたが,LPレコードよりはかなり安かったのではと思います。それで買ったのかもしれません。
最後に紹介するのは,アルテスパブリッシングから発売されている,秋山さんの回想録『ところで,きょう指揮したのは?』です。
秋山さんと冨沢佐一さんという方の共著になっていますが,秋山さんの話をこの方がとりまとめた形のようです。穏やかそうな雰囲気の秋山さんですが,色々な苦労をされたり,厳しく立ち回ったり,客席からだけでは見えない部分がしっかりとまとめられています。
本の最初の方に秋山さんの写真がありますが,2015年にOEKを指揮された際に,その上にサインを頂きました。
本を差し出した時,「この場所が良い」という感じでとてもバランス良く,金色のペンで書いていただいたことを思い出します(写真だとはじめから印刷されているようにも見ええますね)。私が幼少期に最初に聞いたクラシック音楽のレコードとともに,この本も私にとっての宝物の一つになりました。
秋山和慶さんに心から哀悼の意を表したいと思います。