2025年2月1日土曜日

秋山和慶さんを偲んで幼少時に聞いていた,研秀出版「世界の名曲シリーズ」をものすごく久しぶりに聞いています。懐かしくてたまりません。トロント交響楽団を指揮したストラヴィンスキー「火の鳥」のCDも結構珍しい音源かも。回想録『ところで,きょう指揮したのは?』も読み返そうと思います。

先日亡くなられた指揮者の秋山和慶さんを偲んで,今日は我が家にある音盤や本を色々と取り出して聞いたり読んだりしていました。

実は秋山さん指揮のCDはほとんど持っていません。オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)を指揮したCDも,前橋汀子さんと共演したべートーヴェンのヴァイオリン協奏曲しかないのですが,これは「前橋さんのマイペースにしっかりと合わせた演奏」という感じですね。


それ以外だと,1980年代にトロント交響楽団を指揮したストラヴィンスキーの「火の鳥」(1910年バレエ版)のCDぐらいです。



このCDを何故持っているのか記憶は定かでないのですが,1990年代「秋山さんが海外のオーケストラを指揮した録音がある。面白そうだ」と思い買ったような気がします。カップリングは,ストラヴィンスキーの「春の祭典」(こちらはアンドルー・デイヴィス指揮トロント交響楽団)というお得盤(?)です。演奏の方もかっちりとまとまった良い演奏ですが,一度実演で聞いてからは,バレエ版については音盤だと少々物足りないな,という気になっています。

それよりも私にとって大切なのは,私自身の幼少時によく聞いていた研秀出版の「世界の名曲シリーズ」というレコードのシリーズです。17cmで33回転という不思議な規格でいくつかのテーマごとにちょっと立派げな箱に2枚レコードが入っているというものです。なぜこのレコードがあるのかは謎ですが,もしかしたら両親が「子どもの教育のため」買ったのかもしれません。そうだとすれば,現在のクラシック音楽好きの私を作った大元とも言えます。文部省推薦といった感じの小学校の音楽で聞くような曲が収録されています。

いずれにしても私が最初に自分の意志でレコードを聴いたのはこのシリーズに違いありません(自分で操作していた気もします)。小学校の低学年の時でした。そしてこのシリーズの一部を秋山和慶さんが指揮されていました。これは確かではありませんが,私が最初に聞いたクラシック音楽が秋山さん指揮だった可能性もあります。

このレコードは長年物置の中にしまってありました。ほとんど聞くこともないのですが,やはり最初に聞いた音盤ということで...捨てられないですね。今回,秋山さんを追悼して本当に久しぶりに取り出して聞いてみました。ちゃんと鳴るのか不安でしたが...しっかりと鳴ってくれました。デジタル録音と違い,経年変化で音が少しふやけた感じに聞こえるのも,良い味わいです。今となっては貴重な音源だと思うので,どういう曲を秋山さんが指揮していたのか紹介しましょう。

このシリーズは次のとおり全15巻構成です。我が家にはこのうちの最初の6枚がありました。©1966と書いてありましたので,秋山さん25歳の頃の演奏ということになります。


このうち次の3セットの一部を秋山さんが指揮されています。次のとおり,世界の名曲を表紙に使っています。マネの「横笛を吹く少年」などは,このシリーズで見覚えました。


1.行進曲集1

各曲の演奏者は音盤のレーベル面にしか書いてないので,その写真で紹介しましょう。片面10分以内ぐらいの収録時間なので,イメージとしてはほとんどSP盤の雰囲気です。


「おもちゃの兵隊」はかなり昔,「キューピー3分クッキング」のテーマ曲でしたね。次の曲が「キューピーの観兵式」というはたまたまですね。演奏の「フィルハーモニア管弦楽団」といのは,英国のあのメジャーオーケストラではなく,レコーディング用の楽団の名前ではないかと思います(詳細は不明)。この演奏ですが,秋山さんが編曲も行っています。

その裏面です。
「アメリカ巡ら兵」は,現在では「アメリカン・パトロール」と呼ぶのが普通ですね(行進曲なのか謎ですが)。その他の曲は,現在ではほとんど演奏されない曲ですね。

2枚目のA面
ベートーヴェンのトルコ行進曲だけは,東京交響楽団の演奏。秋山さんとは,本当に長いつきあいですね。

2枚目のB面
ラデツキー行進曲はとても軽快なテンポ。曲の最初の方で全休符が入る部分では,シンバルが加えられていました。大太鼓が入るのは結構聞きますが,シンバルというのは珍しいかもしれません。タイケの「旧友」は,最近はあまり聞かれなくなりましたが,この頃から好きな曲でした。演奏時間が6分以上ということで,繰り返しを律儀に行っています。

2.描写音楽
描写音楽という言葉自体,ほぼ死語でしょうか。「セミ・クラシック」と呼ばれる(こちらも死語でしょうか)ような曲が収録されています。実はこの分野,今でも結構好きです。

1枚目A面
「森のかじや」「森の水車」...タイトルは似ていますが,別の作曲家によるものです。両曲とも聞いていると懐かしくなります。

1枚目B面
この盤はなぜか傷だらけでした。「かっこうワルツ」がいちばん有名だと思いますが,それでも最近は演奏される機会はほとんどないでしょうか。

2枚目A面

「口笛吹きと小犬」は今でも時々聞かれる曲ですね。のどかな気分にさせてくれる曲です。

2枚目B面
「クシコスの郵便馬車」は,当時の運動会の徒競走のBGMの定番でした。この曲も好きでしたね。リストのハンガリー狂詩曲を後から聴いて,「なぜクシコス・ポスト(この名前の方が一般的ですね)が入っている?」と思った記憶があります。その次の「国際急行列車」は駅から出発して次の駅まで到着するような曲。このタイプ(スピードを上げて,快適に進み,最後はスピードダウンして停車)の曲は時々ありますが,鉄道大好きとして有名な秋山さんにはぴったりの曲。私もこの曲は当時から好きな曲でした。

3.管弦楽曲集
このセットの演奏の大半は,渡辺暁雄さん指揮の日本フィルなのですが,せっかくなのでご紹介しましょう。

1枚目A面
1枚目B面
ハイドン作曲となっているのが時代を感じさせますね。

2枚目A面 
これは秋山さん指揮東京交響楽団の演奏。カルメンはとても颯爽とした演奏。「ペルシャの市場にて」は小学校の音楽鑑賞の定番曲でしたね。

2枚目B面
こちらは渡辺暁雄さんの指揮です。

というわけで,久しぶりに聞いてみて,形ある音盤の良さを実感しました。このセットですが,我が家にも残っているぐらいなので,この時代結構売れていたのかもしれないですね。次のとおり1セット800円という金額が書いてありましたが,LPレコードよりはかなり安かったのではと思います。それで買ったのかもしれません。

最後に紹介するのは,アルテスパブリッシングから発売されている,秋山さんの回想録『ところで,きょう指揮したのは?』です。

秋山さんと冨沢佐一さんという方の共著になっていますが,秋山さんの話をこの方がとりまとめた形のようです。穏やかそうな雰囲気の秋山さんですが,色々な苦労をされたり,厳しく立ち回ったり,客席からだけでは見えない部分がしっかりとまとめられています。

本の最初の方に秋山さんの写真がありますが,2015年にOEKを指揮された際に,その上にサインを頂きました。

本を差し出した時,「この場所が良い」という感じでとてもバランス良く,金色のペンで書いていただいたことを思い出します(写真だとはじめから印刷されているようにも見ええますね)。私が幼少期に最初に聞いたクラシック音楽のレコードとともに,この本も私にとっての宝物の一つになりました。

秋山和慶さんに心から哀悼の意を表したいと思います。

2025年1月13日月曜日

新年ということで...我が家にあるウィーン・フィルのニューイヤーコンサートのCDを聞き比べてみました。ドナウ→ラデツキーに加え,こうもり,春の声も順定番曲ですね。

1月11日に石川県立音楽堂でオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のニューイヤーコンサートが行われました。今年はヨハン・シュトラウス2世の生誕200年のアニバーサリーイヤーということで,シュトラウス作品が沢山演奏されました。

シュトラウスといえば,ウィーン・フィルのニューイヤーコンサート。我が家にもいくかCDがあるので,久しぶりに聞き比べをしてみました。近年,世界的にCD新譜のリリースは減少していますが,このコンサートについては,現在でも即座に発売されていますね。我が家には次の年のCDがありました。
  • 1975年ウィリー・ボスコフスキー指揮
  • 1987年ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮
  • 1989年カルロス・クライバー指揮
  • 2002年小澤征爾指揮
ボスコフスキーのCDは中古で安かったので買ったのですが,それ以外は発売直後に買ったものです。近年はずっと買っていませんが,カラヤン,クライバー,小澤盤はそれぞれ発売時に話題になったものです。この3枚の選曲を比較してみると,最後の「ドナウ→ラデツキー」に加え,最初の方で「こうもり」序曲,中締め(少々意味が違いますが)で「春の声」(小澤盤には入っていません),というのも「パターン」と言えそうです。そして今年の松井慶太さん指揮によるOEKのニューイヤーコンサートがまさに「これ」でした。カラヤン盤には,当時大人気だったキャスリーン・バトルが「春の声」のソリストとして参加していますが,今年のOEKのコンサートでもソプラノの鈴木玲奈さんがソロを担当。お馴染みのカラヤン盤の再現のような形になっており嬉しく感じました。

というわけで,これらの公演のプログラム,CDのジャケット写真などを比較してみたいと思います。 

1987年カラヤン盤
「こうもり」「春の声」「ドナウ」「ラデツキー」以外に皇帝円舞曲も入っており,まさに王者の風格あふれるアルバム。ヨーゼフ・シュトラウスの「天体の音楽」「うわごと」など,カラヤンの好みがしっかり入っている感じですね。

1989年クライバー盤

こちらは,人気のクライバーが初登場ということで異例の2枚組。「こうもり」は前半の途中に登場(カラヤン盤もCDアルバム的に最初に置いたのかもしれません)。クライバーの指揮は,粋でスマートでダイナミック。「騎士パスマン」のチャールダーシュも定番曲ですが,この曲でのイキイキした感じなど素晴らしいですね。ちなみにラデツキー行進曲は,最初の小太鼓によるイントロなしです。

2002年小澤盤


小澤さんがニューイヤーコンサートに登場するということでクラシック音楽としては異例のヒットをしたアルバムですね。とても丁寧で,全体に暖かな空気感のある演奏だと思います。「新年の挨拶」ではVPOメンバーがそれぞれの出身国の言葉で新年の挨拶をしています(こういうのが入っているのはこの年だけ?)。小澤さんの前にコンサート・マスターのライナー・キュッヒルさんが挨拶をしているのですが,小澤さんを前に日本語で挨拶。小澤さんは困ってしまい(?),中国語で挨拶しています。この辺は当時の放送でも見覚えがあります。

1975年ボスコフスキー盤

これは中古CDで安かったので買ったのですが,なんと「美しく青きドナウ」が入っていません。全曲盤だと入っていたのかもしれませんが,アルバムとしては大胆ですね。ボスコフスキーは大変厳しいコンサートマスターだったと聞いていますが,演奏を聴いた感じはとてもリラックスしたさっぱりした感じの演奏に思えます。

そして最後はウィーン・フィルの演奏ではありませんんが,懐かしのマイケル・ダウスさんの弾き振りによるOEKのニューイヤーコンサートのライブ盤です。このアルバムにもしっかり,「こうもり」「春の声」「ドナウ」「ラデツキー」が入っています。さらには,「ウィーンの森の物語」「皇帝円舞曲」も入っており,有名曲満載といった感じです。

2002年マイケル・ダウス&OEK盤



ちなみに最後のラデツキー行進曲では,楽譜には書かれていない「大太鼓」が入っています。最初の導入部の後,一拍休符が入り,そこで「ドン」と入れたくなるので,以前は実演でも結構入っていたのですが,最近ではあまり入れなくなっているかもしれません。

このCD録音,私も収録されている拍手や手拍子で参加しています。久しぶりに,OEKによるこういう感じのCD録音も残して欲しい気はします。良い思い出になりますね。

2024年11月3日日曜日

昨晩NHK BS「伝説のコンサート」で放送していたチューリップのライブ...途中から何となく観てしまいました。変わっているようでずっと変わっていないのが良いですね。余談ですが「心の旅」はビートルズの「ハロー・グッドバイ」と結構似ているかもと思いました。

昨晩何となくNHKのBSを観ていると,かなり若い頃の財津和夫さんが歌っていました。「伝説のコンサート」という番組で,今回は次のとおり1980年代のチューリップのライブを取り上げていました。

https://www.nhk.jp/p/ts/KZ1WX2427V/episode/te/R37JQP8R2N/

私自身,チューリップをはじめ日本のポップス系のコンサートには全く行ったことはないのですが「この雰囲気」が懐かしく,その後最後まで観てしまいました。デビューして50年にもなるグループですが,変わっているようで基本的なスタンスがず~っと変わらないのが良いなぁと思います。

最後じっくりと聴かせる壮大な曲が終わった後,アンコールでいちばんのヒット曲「心の旅」が歌われましたが,この曲を聴いていると1970年代前半は,ビートルズの影響を受けた曲が多いのだなと改めて思いました。特にこの曲はビートルズの「ハロー・グッドバイ」と次の点で似ていると思います。

我が家にある「ハロー・グッドバイ」はこのベスト盤に収録されているものです

  1. どちらもイントロなしで始まる(こういう曲は少なくはないですが...)
  2. 「心の旅」は冒頭がサビだと思いますが,「ダンダンダンダン,ダンダンダンダン」という、強く歯切れ良いリズムのパターンが一貫しているのは共通
  3. 特に「心の旅」の最初の方の「あーだから今夜だけは、君を抱いていたい」の後に出てくる「上向フレーズ」については、「ハロー・グッドバイ」の中でも同様のフレーズが何回も出てきますね。この「ドレミファソラシド」的なフレーズはどちらも曲の「肝」になっていると思います。
この「心の旅」ですが、実はかなり長い間(チューリップは以前、あまりテレビに出ていなかったので)、財津和夫さんが全部ボーカルを歌っているのかと思っていたのですが、サビの後の少し甘い感じになる部分は別の人(姫野達也さん)が歌っているということにある時期に気づきました。この姫野さんが歌っている部分は結構長いのですが、聴くたびに良いなぁ思います。特に2番の詞の「愛に終りがあって心の旅がはじまる」という部分は沁みますね。

アンコールの最後は、多分これもお約束の曲、デビュー曲の「魔法の黄色い靴」。この曲もビートルズの雰囲気が漂っています。そもそも「黄色い」と聴いただけで「イエローサブマリン」を連想してしまいます。

チューリップが再度ライブを行うことは今後はないのかもしれませんが、自分と同時代を生きてきたアーティストが息長く活動をしているのを見ていると、大きな励みになりますね。

2024年9月1日日曜日

石川県立音楽堂 #音楽堂マルシェ オープン。カフェコンチェルトもリニューアル。タンノイのスピーカーから流れる音楽とともにリッチな時間を過ごせそう。

台風10号の方はスピードが遅すぎて金沢では,今のところほとんど影響なし。 そんな中,石川県立音楽堂に能登半島地震復興支援と音楽堂の有効活用を意図した「音楽堂マルシェ」がオープンし,音楽堂2階(ホール入口前)のカフェコンチェルトもリニューアルオープンしたので,出かけてきました。



まずはオープニングセレモニー。音楽堂の表館長から「がんばろー」の挨拶,そして出店者のジビエふじ子さんから感謝と期待の言葉がありました(実は,今年の連休のガル祭の時に出店していた「狩女の会」の店でふじ子さんの本を買ったことがあります。本当にエネルギッシュに活動されていますね)。

その後,カフェコンチェルトへ。この前の「OEKありがとうコンサート」の時から,「何かある」と気になっていたのですが,新しくオーディオ装置が設置され,音盤(CDやLPレコード)を聞きながら,コーヒーや軽食を楽しめるようになりました。



店の方は,このところOEKのコンサートの時にいつも出店している「金澤ちとせ珈琲」さんです。コンサートの時と違うのは,紙コップではなく,コーヒーカップで出てくる点です。オープン記念ということで,コーヒーを飲みながら高級オーディオを楽しんできました。

宣伝用の「うちわ」を配布していました。
奥に見えるのがタンノイのスピーカー

その後、セッティングを担当したオーディオファミリーさんによる説明がありました。

  • 今回40年ぐらい前のタンノイのスピーカーを設置
  • このスピーカーは部屋のコーナーに置くタイプだが,カフェコンチェルトは天井の高さの差が大きいため,2つをまとめて設置し,2つのスピーカーの前で音が完結するようにした。
  • 音の厚みと余裕のある音楽表現を楽しめる
  • スピーカーはタンノイ製,LPレコードプレーヤーはDENON製,CDプレーヤーはマランツ製,アンプはマッキントッシュ

    # 私自身高級オーディオの世界には縁はないのですが,名前ぐらいは聞いたことのあるメーカーばかりです)
ということで,これからこの場所を喫茶スペースとしてだけでなく,音盤を活用した軽めのイベントスペースとして使っていったも良いのではと思いました。音盤を使ったイベントでは,金沢蓄音器館が活発に活動を行っているので参考になるのではと思います。また金沢工業大学ではLPレコード(クラシック以外ですが)の大コレクションがあるので,それらを使ってイベントをしても面白いと思います。

コーヒーの値段はやや高めですが,音楽とセットでゆったりとした時間を楽しめるスペースとして定着していって欲しいですね。

ちなみにこの日流れていたのは、岩城宏之指揮OEKによるクラシック音楽の小品集の「カンタービレ」。その後、ゲオルク・ショルティ指揮シカゴ交響楽団によるマーラーの交響曲第3番になっていました。流すディスクの選定を誰が行うのかも少々気になりますね。


PS. せっかくなのでマルシェの方でも買い物。実は2週連続なのですが、輪島朝市の店で赤魚の干物を夕食用に買ってみました。

こちらは和倉のキャラクターですが、九谷焼とコラボでしょうか?

音楽堂のまわりには、マルシェのフラッグが出ていました。





2024年8月15日木曜日

映画「東京カウボーイ」(2024年8月10日,シネモンド)の感想と井浦新さんの舞台挨拶の内容などをまとめてみました。

今年の夏休みは8月10~18日の9連休。その初日,金沢の東急スクエアにあるシネモンドで「東京カウボーイ」を観てきました。



主演の井浦新さんの舞台挨拶&サイン会が行われるということで観に行くことにしたのですが,とても気持ち良く楽しめる作品でした。

作品のデータは次のとおりです。

  • 東京カウボーイ Tokyo Cowboy
  • 監督:マーク・マリオット(2023年・アメリカ映画)
  • 脚本:デイヴ・ボイル,藤谷文子
  • 出演:井浦新,ゴヤ・ロブレス,藤谷文子,ロビン・ワイガード,國村隼 他

アメリカ映画なのですが,監督のマーク・マリオットさんは,山田洋次監督の下で「寅さん映画」の現場経験もお持ちということで,映画のテーマやキャラクターの設定などに,山田洋次監督の影響があるような気がしました。そこが面白いなと思いました。

物語は米国モンタナ州にある経営不振の牧場が舞台。その立て直しのために渡米した主人公の商社マン,ヒデキ(井浦さんの役)の奮闘と変貌の物語というのが作品の大まかな内容です。日米の文化の違いを乗り越えて,変わっていく井浦さん(スーツ姿からカウボーイの服装へ)の演技が見ものでした。人間味のある濃密なコミュニティの中で,自然や動物と一緒に生きる生き方に馴染んで行ってしまう展開は,上述のとおり山田洋次さんの作品に通じるものがあると思いました(山田監督の場合,モンタナ州ではなく北海道になりそう)。

井浦さん演じるヒデキの表情がリラックスした表情に変わっていくのを観ていると,お客さんの方もまた「モンタナ...良さそう」という気分になったのではと思います。現実には「アメリカ=大らか」という単純なものではなく,モンタナでの生活はどうみても不便そうでしたが,日本社会そのものや日本での働き方に定着してしまっている「息苦しさ」に苦しんでいる人は「別の働き方」への共感を持つのではと思いました。

ヒデキに同行するばずだった和牛の専門家が渡米後早々,骨折して入院してしまい,全く役に立たず「ただアメリカ滞在を楽しんでいるだけ」という感じになっている感じも面白かったですね。この役を演じていた國村隼さんのコミカルなキャラクターも山田洋次監督作品に出てきそうだなと思いました。

ヒデキが現地の人たちと打ち解けるきっかけとなったのが,バタンガという「一見飲みやすいけれども強いお酒」。これで気持ち良く酔い,吹っ切れてしまい,ヒデキも開き直った感じになります。ラテン系のお酒のようですが,一度飲んでみたい気がしました。

映画終了後は,井浦新さんの舞台挨拶があり,その後,質疑応答の時間がありました。時間間をオーバーして,とても丁寧に受け答えをする井浦さんの姿勢が素晴らしいと思いました。次のようなことを語っていました。

  • 監督のマーク・マリオットについて:長編映画を作るのはこの作品が初めて。ドキュメンタリー映画を作ってきた人だが,その要素が今回の作品にも入っている(井浦さんの役は,最初馬に乗れず,アメリカで乗れるようになる役柄。事前に乗馬の練習はしないで欲しいと言われ,その過程そのものを撮影していた)。監督からはナチュラルな演技を求められ,だんだんと演技はそぎ落とされていった感じ。
  • アメリカの映画では,通常ラッキーで主役になる人はいない。皆,しっかり演技の勉強をしてきた人ばかり。その一方,井浦さんはたまたま役者になり,今回も監督から直接オファーを受けた点で例外的(河瀬直美監督の映画「朝が来る」を観て,井浦さんにオファーすることにしたとのこと)。
  • モンタナの星空は素晴らしかった。人工物のない場所で180度の夜空を観られた。チラシには「Big Sky Country」というモンタナ州のキャッチフレーズが書かれていましたが,そのとおりという感じですね。

  • 質問:井浦さんは多方面で活動されているがそのエネルギーの秘密は? 回答:何事も好きでやっている。それは「好き」と言えるものが無かった10代の頃からのコンプレックスの反動かもしれない。最近は「普通の幸せを味わえることを大切にしたい」と思えるようになってきた。その一方「好き」が多いと,追い詰められることもあるので,少しずつ削っている。役者については,もともと好きだったわけではなく,途中から好きになった。好きというだけで続けられるものである。
  • 質問:ファッションについて 回答:ファッションには関心があるが,映画の中でのファッションには特に注意が必要。プロに任せている。
  • 質問:今回の映画で変わったことは? 回答:これまで「殺す役」「苦しむ役」などが多かった。今回の役で久しぶりにデトックスした感じ

その後は撮影タイムになりました。写真は是非SNSでPRをとのことでしたので,掲載してみたいと思います。次のような雰囲気でした。




シネモンドのXには,ステージ側から撮影した写真が掲載されていました。

そして別室に移動後,パンフレットにサインを頂きました(長蛇の列)。大変良い思い出になりました。ちなみにこのパンフレットですが,シナリオが全部掲載されていました。


PS.映画館の外に出ると,香林坊付近は歩行者天国になっていました。こちらも夏の気分。夏休み初日はなかなか充実した一日になりました。


PS2.シネモンドの今後の上映予定ですが,1990年代に輪島で撮影を行った,是枝裕和監督初の長編映画「幻の光」が8月17日から上演されます。こちらも注目です。