先日のオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)第496回定期公演で、ピアニストのトム・ボローさんがアンコールで演奏した曲が、J.S.バッハ作曲の「羊は安らかに草を食み(Schafe Können sicher weiden)」でした。もともとは「狩のカンタータ」と呼ばれている宗教曲に含まれるソプラノのアリアですが、とても親しみやすく美しい曲ということもあり、色々な形に編曲されて演奏されることも多い曲です。
個人的には、NHK-FMでかつて放送していた「あさのバロック」という番組のテーマ曲として聞いたのが印象に残っています。正確にいうとこのテーマ曲でこの曲を知りました。朝6時代の静かな空気にぴったりの曲で、それ以来、大好きな曲となりました。
このFM放送では、オリジナルの歌入りではなく、ソプラノの部分をヴァイオリンに変えた管弦楽曲版を使っていたので、この曲の管弦楽版を含む「バロック音楽名曲集」的なCDを買ってみたことがあります。それが次のCDです。
懐かしい名前ですが、カール・ミュンヒンガー指揮シュツットガルト室内管弦楽団の演奏が中心です。ただし...その中に入っている演奏ですが、どうも「あさのバロック」のテーマ曲の音源とはちょっと違う感じ。FMのテーマ音楽だと、通奏低音のオルガンが下降するフレーズを演奏するのですが(このフレーズがなぜか好きなのです)、ミュンヒンガー版には入っていませんでした。
「残念」というわけで、YouTubeで探してみました。私の印象では、次のネヴィル・マリナー指揮アカデミー室内管弦楽団の演奏のような気がします。
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=B1nyzGR3tUE
真偽はわかりませんが、マリナー版のオルガン担当の奏者が勝手に付け加えたのかなと勝手に想像をしています。この音源、中古CDなどで見つけたら入手してみたいと思っています。
さてこの曲のピアノ版ですが、今回演奏されたのはエゴン・ペトリという人が編曲したもので、ピアノ版の定番のような感じです。我が家にある音源は、今年5月のガルガンチュア音楽祭に出演した、實川風(じつかわ・かおる)さんがバッハの曲を集めたCDです。このアルバムにこの曲が収録されていたので聞いています。とても実直に演奏された安心して聴ける演奏です。
演奏後、サインもいただいています。 |
ちなみにこのCDですが、背の表記は次のとおり「實川風バッハ」。ヴィラ=ロボスの「ブラジル風バッハ」のパロディのようで、そのネーミングセンスも気に入っています。
CDの背の部分にしか書かれていません。 |
ピアノ演奏版ではレオン・フライシャーがこの曲を演奏するのをテレビ(フライシャーの追悼番組)で見たことがあります。フライシャーは右手の故障のため「左手のピアニスト」として活躍していたのですが、リハビリで右手の機能も回復し、両手でこの曲を演奏したという演奏。この演奏ももう一度聞いてみたい気がします。
その他、シンセサイザー版バッハの先駆者、ウェンディ・カーロスが編曲したものも聴いた記憶があります。これも探せば音源がWebに乗っているかもしれません。
最後はオリジナル版です。ヘンスラーというレーベルから2000年頃にリリースされたバッハ全集の中に入っているヘルムート・リリング指揮のCDを持っています。この演奏はオリジナル楽器による演奏ではないのですが、例えば現代のフルートではなくもっと素朴な音のするブロックフレーテを使っていたり、バッハ時代に近い雰囲気を持った演奏だと思います。ソプラノはエヴァ・キルヒナーという方で、耳が洗われるような瑞々しい声です。
「狩のカンタータ」はBVW.208の方です |
No.9が「羊は安らかに草を食み」です。 |
ちなみにバスはマティアス・ゲルネ。1990年代後半の録音ですが、この方は今では世界を代表する歌手になっていますね。その若き日の歌です。「狩のカンタータ」に先立って、ブランデンブルク協奏曲第1番の第1楽章と同じ音楽が序曲として収録されているのですが(上の写真のトラック番号です)、このカンタータ用に使われていたという説を踏まえて一緒に演奏しているようです。ホルンの雰囲気など狩の気分によく合っていますね。
というわけで、この曲、世界中で色々な人に愛されている曲のようです。今後も色々なアーティストがアンコールで演奏してくれるのではないかと思います。