2024年3月30日土曜日

マウリツィオ・ポリーニをしのんで,モーツァルト,ベートーヴェン,ショパンのCDを聴いています。

 ピアニストのマウリツィオ・ポリーニが先日亡くなりました。ポリーニの実演に接したことはなかったのですが(非常に残念),私がクラシック音楽を聴き始めた1970年代後半以降ずっと聴いていたピアニストだったので,大きな喪失感を感じています。

ただし...正確には21世紀になってからはあまり熱心に聴いてはおらず,1970年代~1980年代にかけてドイツグラモフォンから新譜が定期的に出ていた時代が私にとってのポリーニの演奏のイメージです。クラシック音楽のメディアがLPからCDに移行して,全盛期を迎え,それが衰退していったのとポリーニの音楽人生は重なる気もします。

ポリーニのピアノ演奏を聴くと,いつもその回りだけ空気が澄んでいるような潔癖さを感じ,身を正して聴かないといけないかなと思ってしまいます。「冷たい」と呼ばれることもありましたが,その裏には芸術作品としての各曲に対する強い敬意と熱さが感じられました。新譜のほとんどがドイツ・グラモフォンから発売されていたこともあり,「ピアニスト中のピアニスト」といった別格のステータスを持ったアーティストだったと思います。

ポリーニの残した,奇をてらった部分のない,ゆがみなく,強く美しい音楽の数々は不滅の輝きを持ち続けると思います。というわけで我が家にも1970年代から1990年代に掛けて録音されたCDがかなりあります。その中で特に印象に残っているものを3つ紹介しましょう。

1つ目モーツァルトのピアノ協奏曲第23番と第19番の1976年の録音。カール・ベーム指揮ウィーン・フィルとの共演です。まず,ウィーンフィルが演奏したモーツァルトのピアノ協奏曲...というのは以外に多くない気がします。23番の序奏部分から品格の高さのある美しい音が聞こえて来て,すがすがしい気分になります。そこにポリーニのけれん味のないピアノが加わります。ベームとポリーニはかなり年齢差がありますが(当時どちらも大人気でしたね),どこかかっちりとした硬質感に共通点があり,非常に完成度の高い世界が広がっていると感じます。緻密にまとまってるけれども,自由な広がりもある見事な演奏だと思います。

2つ目ベートーヴェンの後期ピアノソナタ集(28番~32番。こちらは1975~1977年の録音。こちらも私にとっては,ザ・スタンダードという感じ。CDというメディアが登場して間もない頃,まず買いたいと思った演奏でした。2枚で6600円もしたのですが,今聞いても新鮮。「ハンマークラヴィーア」ソナタの冒頭部の輝きと力強さのある音を聴くと「これだ!」と感じます。

3つ目はやはりショパンの練習曲集(op.12,25全曲)。誰もがポリーニの代表作と感じる1972年の録音。今から50年以上の録音とは思えない,永遠の若々しさを持った演奏だと思います。第1番ハ長調の練習曲から,勢いのある音の流れが続き,すべてが鮮やかな世界に圧倒される思いになります。

その他,シューマン,シューベルト,ブラームス,プロコフィエフ,ストラヴィンスキーの曲の録音も持っています(どれもドイツ・グラモフォンですね)。書いているうちに全部を聞き返してみたくなったのですが,ポリーニの演奏ばかり聴くのも疲れそう(時間もないので)。これからも折に触れ,気持ちを引き締めたくなった時などに聞き返していこうと思います。